マイコプラズマ肺炎は、早期発見や適切な治療が遅れると、人工呼吸器をつけなければならないほど重症化することがある危険な肺炎です。ここでいう「重症化」とは、マイコプラズマ肺炎自体の症状の重症化ではなく、心筋炎や細気管支炎、肺炎球菌やインフルエンザ菌など他の細菌感染を合併することによるものであると、国際医療福祉大学塩谷病院内科部長(呼吸器)の井上寧先生はおっしゃいます。本記事では、注意すべき合併症とその治療法についてお話しいただきました。
実は、重症マイコプラズマ肺炎というものはほとんどありません。入院が必要になるほど重症化する患者さんのほとんどは、別の病気を合併しています。その中でも、マイコプラズマ肺炎の約5%に合併するといわれる「閉塞性細気管支炎(BO)」は、発症初日からステロイドを併用しなければならないため注意が必要です。
ステロイドは体の免疫力を抑制する作用があり、風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなるという副作用があるため、通常であれば感染症の治療時には使われません。しかし、低酸素血症をきたし、呼吸不全などを急速に引き起こす閉塞性細気管支炎には現在確立された治療法はなく、免疫抑制を強化するためにステロイドを病初期から使用するしかないのです。
ですから、呼吸不全を呈しているような患者さんの治療に際しては、まず閉塞性細気管支炎(BO)を合併していないかどうか見極めなければなりません。
閉塞性細気管支炎(BO)のほか、心臓の筋肉に炎症が起こる心筋炎や、背中など様々な神経に障害が起こる横断性脊髄炎といった全身の合併症も起こり得ます。このような重篤な合併症が引き起こされる背景には、多くの医師がマイコプラズマ肺炎を疑い、マクロライド系抗菌薬を処方せずに3日、4日とペニシリン系やセフェム系抗菌薬で経過をみてしまっていることがあります。
マイコプラズマ肺炎やその起炎菌を調べるための血液検査やグラム染色(起炎菌を分類するための検査)は、高次機能をもつ病院でない限り1日で結果を出すことができないため、早期診断が難しいことは事実です。しかし、肺炎は初期治療が極めて大事であるため、日本呼吸器学会のガイドラインでは「抗菌薬投与後48~72時間で効果判定をし、改善していない場合には、診断を見直すこと」と明示されており、1週間近くも様子をみていてよい疾患ではないのです。
マイコプラズマ菌は、自己免疫疾患を誘発することもあります。適切な治療がなされないまま時間が経過すると、気道の上皮は破壊されてしまい、マイコプラズマ菌以外の一般細菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などの呼吸器感染症を起こしやすい一般細菌の混合感染を伴っているケースもあります。塩谷病院にも、5日以上マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン)を飲んでも熱が下がらず、ニューキノロン系抗菌薬を処方しても緩和しないということで来院され、検査をしたところ混合感染を起こしていた患者さんがいらっしゃいました。
ですから、繰り返しになりますが、医師はマイコプラズマ肺炎を疑ってマクロライド系抗菌薬を処方したあと、3日や4日も経過をみていてはいけません。もし、マクロライド系抗菌薬で治療できるマイコプラズマ肺炎だとしたら、3回くらいの服用で熱は一両日中に37度以下に下がります。2日以上経っても熱が下がらないのであれば、その時点で効果がなかったことがわかるはずですから、ミノサイクリン塩酸塩や、ニューキノロン系抗菌薬による治療へと移行するなど、適切な処置をとることが大切です。成人のマイコプラズマ肺炎は小児に比べ使用できる治療薬の幅が広いため、ガイドライン通りに治療を行えば治療に失敗することはほぼありません。
国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授
国際医療福祉大学三田病院 呼吸器センター准教授/内科副部長、国際医療福祉大学 医学部准教授
日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
東京慈恵会医科大学を卒業後、虎の門病院内科レジデント、東京慈恵会医科大学呼吸器内科助手・病棟長、富士市立中央病院内科(呼吸器)医長、国際医療福祉大学三田病院呼吸器内科などを経て、現在は国際医療福祉大学三田病院呼吸器センターにて准教授、内科副部長を務める。びまん性肺疾患や呼吸器感染症などの呼吸器疾患全般の診療を行っている。正しい検査と丁寧な診療に重きを置き、常に適切な診断と治療を心がけている。
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