概要
赤血球の寿命はおよそ4か月と考えられていますが、赤血球が寿命よりも早く壊されることにより引き起こされる貧血を溶血性貧血といいます。だるさや息切れ、めまいなどの症状に加えて、黄疸や尿がコーラのような色になるなどの症状もみるようになります。
溶血性貧血の原因は、自己免疫性溶血性貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、遺伝性球状赤血球などさまざまなものがあります。この多様性を反映して治療方法も原因によって異なります。ステロイドの使用が適応になることもあれば、脾臓の摘出が効果的な場合もあります。その他の治療方法が選択されることもあります。溶血性貧血の治療効果を最大限得るには、正確な診断のもと、適切な治療方法を選択することが重要です。
原因
赤血球は、全身の組織に酸素を供給する役割を担っていますが、その寿命は通常4か月ほどです。しかし、溶血性貧血では何かしらの原因で4か月よりも早いペースで赤血球が破壊されてしまいます。
赤血球の破壊スピードが速くなると、その減少を代償するために、より多くの赤血球が骨髄でつくられるようになります。しかし、それでも追いつかないほど破壊が進行すると、溶血性貧血に関連した症状が現れることになります。
溶血性貧血を引き起こす原因は多岐に渡りますが、半数は自己免疫性溶血性貧血です。自己免疫性溶血性貧血では、自分自身の免疫反応が異常をきたす結果、赤血球を誤って異物と判断する抗体(自己抗体と呼びます)がつくられてしまいます。膠原病や悪性腫瘍、感染症が基礎疾患となって自己抗体の産生が惹起されることもありますが、明らかな原因が特定できないこともあります。
その他、発作性夜間ヘモグロビン尿症も溶血性貧血の原因としては多く、およそ25%を占めています。PIGA遺伝子と呼ばれる遺伝子が後天的に異常を呈することで赤血球が補体と呼ばれる免疫物質によって破壊されやすい性質へと変化するために発症します。
また、溶血性貧血の10%ほどは遺伝性球状赤血球症と呼ばれる先天的な病気が占めています。これら以外にも寒冷凝集素症、発作性寒冷ヘモグロビン症、酵素異常症、ヘモグロビン異常症など実に多くのものが溶血性貧血の原因となることが知られています。
症状
溶血性貧血を発症すると、めまいや動機、少しの運動での疲労感、顔色不良、倦怠感、脱力感、息切れなどの貧血症状が現れます。尿がコーラのような色になる、黄疸が出現する、脾臓が大きくなる、などの症状をみられることもあります。
その他、原因疾患により特化した症状がみられます。たとえば発作性夜間ヘモグロビン尿症では、再生不良性貧血という病気を発症することもあります。この場合には、易感染性や出血傾向が現れます。また嚥下障害、腹痛などがみられることもあります。
検査・診断
溶血性貧血が疑われるきっかけとしては血液検査による赤血球の減少、網赤血球の上昇(赤血球産生が増加していることの指標となります)、LDHの上昇、間接ビリルビンの上昇などがあります。溶血が進行するとヘモグロビンの処理が必要となり、ハプトグロブリンと呼ばれるタンパク質が低下します。この項目を血液検査で確認することも重要です。尿の潜血反応などの検査も行われますし、骨髄検査も検討されます。
溶血性貧血は原因が多岐に渡るため、正確な診断を行うことが重要です。以上のような検査項目を通して溶血性貧血が疑われた際には、病歴なども踏まえつつ原因を特定するための検査が行われます。
自己免疫性溶血性貧血では、自己抗体を検出するためのクームス試験が重要です。遺伝性球状赤血球症は赤血球の形態評価、浸透圧に対しての反応性、家族歴などをもとにして診断されます。
治療
原因が多岐に渡る溶血性貧血では、正確な診断が第一です。頻度の高い自己免疫性溶血性貧血は、ステロイドによる治療が第一選択となります。再発を繰り返したり、ステロイドに対しての反応性が悪かったりすることもあるので、脾臓摘出やリツキシマブの使用など、他の治療方法が選択されることもあります。
発作性夜間ヘモグロビン尿症ではエクリズマブと呼ばれる薬剤が使用されることがあります。その他に頻度の高い溶血性貧血である遺伝性球状赤血球症では、赤血球が破壊される主要組織である脾臓を摘出する手術が検討されます。
以上のように、溶血性貧血の治療方針はさまざまであるため、正確な診断を行った上で対応策を決定することが重要です。
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