概要
鉄欠乏性貧血とは、体内の鉄不足によって生じる貧血のことです。血液中には赤血球、白血球、血小板、血漿といった成分が含まれています。このうち、赤血球は全身の組織に酸素を運ぶ役割を果たしており、赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素とくっつくことで、酸素が血液に乗って全身へと運ばれます。
このヘモグロビンを作るためには鉄が不可欠で、鉄が不足するとヘモグロビンがうまく作られなくなります。そうすると全身に十分な酸素が行きわたらず、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみ、疲れやすいなどの症状が現れるようになるのです。
貧血にはさまざまな種類がありますが、もっとも多いのが鉄欠乏性貧血です。特に月経のある女性に多く、日本では20~40歳代の女性の約2割が鉄欠乏性貧血を発症しているといわれています。
原因
鉄欠乏性貧血の原因は、出血による鉄の喪失、鉄の摂取不足、鉄の吸収障害の3つに大別されます。
出血による鉄の喪失
鉄欠乏性貧血の原因としてもっとも一般的なのが出血です。出血の原因には胃や十二指腸の潰瘍や炎症、がんが挙げられ、このような消化器からの出血は主に男性や閉経後の女性に見られます。また、閉経前の女性では月経や婦人科疾患に伴う出血が原因となることが多いといわれています。
鉄の摂取不足
偏った食事やダイエットで極端な節食が続くと、食事から十分な鉄分を摂取することができなくなります。特に成長の著しい思春期、妊娠中、授乳期には鉄分の必要量が増えるため、鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。
鉄の吸収障害
食事から摂取した鉄は胃酸によって吸収されやすい形になります。そのため、胃炎や胃切除後、胃酸抑制薬などの薬を服用している場合には、胃酸の分泌が低下して鉄が吸収されにくくなり、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。
症状
全身に十分な酸素が運ばれなくなると体内の各所が酸欠状態になり、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、疲れやすい、頭が重い、顔色が青白い、集中力の低下などの症状が現れます。
また、鉄が不足することで、爪が割れやすい、髪が抜けやすい、肌のかさつき、口の周りや舌が荒れる、無性に氷を食べたくなる、といった症状が見られるようになります。
一般的にこのような症状は貧血が急速に進むと強く現れ、ゆっくり進むと弱く現れるか症状が出ないこともあります。また、高齢の方は若い方と比べて症状が強く現れる傾向があります。
検査・診断
鉄欠乏性貧血の診断は血液検査によって行います。貧血の有無は血液中のヘモグロビン濃度(Hb)を調べることで分かりますが、貧血にはさまざまな種類があるため、赤血球数(RBC)、赤血球の大きさ(MCV)、網状赤血球(ret)、血清鉄(Fe)、総鉄結合能(TIBC)、血清フェリチンなどの項目も調べます。
一般的に、Fe低値とTIBC高値であれば鉄欠乏性貧血と診断します。また、血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映して増減し、低値を示す病態は鉄欠乏性貧血しかないため、血清フェリチンが低値を示すと鉄欠乏性貧血が確定となります。
血液検査で鉄欠乏性貧血であることが分かったら、その原因を調べます。胃や十二指腸からの出血、女性では婦人科疾患に伴う出血によって鉄欠乏性貧血が起きている場合があるため、必要に応じて検便や内視鏡検査、超音波検査などを行います。
治療
鉄欠乏性貧血では、欠乏した鉄を薬で補充することが治療の基本です。鉄の補充には内服薬によるものと注射によるものの2通りがありますが、通常はまず鉄剤の内服を選択します。
治療方法としては鉄剤を毎日1~2回服用し、これを6か月続けます。ただし、月経過多が原因の場合には、閉経まで薬を飲み続ける必要があることがあります。
鉄剤の内服が難しい場合や、内服による効果が期待できない重症例などでは、静脈注射で鉄剤を補充します。注射による補充は病院で行うため、頻回な通院が必要となります。
出血を伴う病気が原因となっている場合には、その病気に対する治療も行います。
予防
鉄欠乏性貧血の予防には、バランスのよい食事を十分に取ることが大切です。
食品中の鉄には“ヘム鉄”と“非ヘム鉄”の2種類があり、ヘム鉄は肉や魚などの動物性食品に含まれ、非ヘム鉄は野菜や穀類などの植物性食品に含まれています。
非ヘム鉄はヘム鉄よりも体内で吸収されにくいですが、動物性食品と植物性食品を同時に摂取することで非ヘム鉄の吸収がよくなります。また、鉄を多く含む食品ばかり食べているとほかの栄養素が不足してしまうため、バランスよく食べるよう心がけましょう。
なお、食事療法は鉄欠乏性貧血の予防に有用ですが、食事療法のみで治療するのは困難です。したがって、すでに発症している場合には内服または注射による治療をしっかりと続けることが大切です。
医師の方へ
鉄欠乏性貧血の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
「鉄欠乏性貧血」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「鉄欠乏性貧血」に関連する記事
- その息切れや疲れやすさの原因は鉄欠乏性貧血かも? ――女性がなりやすい理由や治療法について解説稚枝子おおつきクリニック 院長、東京女子...武者 稚枝子 先生
- どんな症状が出たら貧血を疑うべき?危険度の高い鉄欠乏性貧血とその他の貧血の種類聖路加国際病院 人間ドック科 前部長岡田 定 先生
- 日本女性の1000万人以上が隠れ貧血!?ヘモグロビン正常値でも疲れやすく息切れがあれば血液検査を聖路加国際病院 人間ドック科 前部長岡田 定 先生
- 血液内科で扱うさまざまな貧血症-鉄欠乏性貧血だけが「貧血」ではない済生会宇都宮病院 血液リウマチ科 主任...増田 義洋 先生
- 鉄欠乏性貧血の治療ー治療薬となる鉄剤の使用はどのくらい?横浜労災病院 血液内科部長/医師臨床研修...平澤 晃 先生
関連の医療相談が16件あります
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血の治療してから1年以上経過してますが改善されてません、値もギリギリでかかりつけの病院で何で改善しないのか確認してもわかりませんと言われて不安です
食事制限、生理でヘモグロビン2下がりますか
お世話になります 毎年ヘモグロビンが13から14ありましたが、 先日献血をしたら11.8で、献血できませんでした 次の日病院で再度血液検査したら、12.2でした。 フェリチンはまだわかりませんが、「多分 鉄欠乏貧血だろうが、ヘモグロビン が2も下がるのは おかしいな」 と、言われ近々、消化管 婦人科に行くつもりです 心当たりがあるのは、生理三日目でした。 また、半年程ダイエットで、朝はほとんど食べず 昼はサラダ、ヨーグルト 夜はお酒とおかず で半年で5キロ痩せました ヘモグロビンは、半年のきつめの食事制限と生理で2くらいは下がるのでしょうか やはり、ほかに大腸癌などあるのでしょうか 毎年やっている、便潜血は陰性 胃はピロリ菌陰性 ABC検査はA 大腸、胃カメラは7年前うけて、異常なしでした。 婦人科も一年前にがん検診して陰性でした。 近々調べる予定ですが心配でお聞きしました。 よろしくお願いします。
貧血の治療について
約10年前の出産後より、度々重度の貧血になっています。 胃カメラでも異常がないため、月経過多からくる貧血であろうという事で、その都度鉄剤を処方されています。 ちなみに月経の量は少なくはないと思うものの、異常に多いとも感じていません。 子宮と卵巣にも異常はありません。 また5年ほど前より乳腺にしこり?嚢胞?のようなものがあり、調べたところ良性と思われる、とのことでしたがこの為にピルは処方出来ないと言われています。 先日再び貧血(ヘモグロビン8.5)になっていたので、医師より、何年も繰り返しているので、ピルが使えないから生理を止める薬を注射で投与した方がいいと言われました。もしくは外科手術を受けるべきだと。 ただ副作用等や投薬の期間などの説明はないため不安が大きく、また私自身は閉経まで鉄剤でしのぎたいと思っているので、生理をとめないといけない程の症状なのか疑問に思っています。 このような場合、本当に鉄剤を飲むだけでは駄目なのか、ご意見お聞かせ下さい。
最近眠く動悸・立ち眩みする。
1・2か月ぐらい前から昼間ものすごく眠いむくなり、夜も22時には眠い、平日は6時間睡眠 土日は、23時から10時間ぐらい睡眠している。2・寝て起きると立ち眩みをよくする。以前貧血の薬もらうが改善されず。3・階段を上ると動悸がする、ものすごく疲れる。何科を受診すれば良いか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。