インタビュー

過多月経は鉄欠乏性貧血の原因に――気になる症状があれば婦人科へ

過多月経は鉄欠乏性貧血の原因に――気になる症状があれば婦人科へ
渡邉 善 先生

東北大学大学院医学系研究科 周産期医学分野 講師、東北大学病院 婦人科 外来医長

渡邉 善 先生

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女性に多くみられる“鉄欠乏性貧血”は、過多月経(月経の経血量が多い状態)が大きな原因として挙げられます。経血量が多く、貧血のような症状があっても「いつものことだから」と思い、やり過ごしている方も少なくないのではないでしょうか。しかし、適切な治療を行うことで、毎日を今よりも元気に過ごせるようになるかもしれません。

今回は、東北大学大学院医学系研究科 周産期医学分野/東北大学病院婦人科 渡邉 善わたなべ ぜん)先生に、鉄欠乏性貧血の原因となりやすい過多月経に気付くポイントや鉄欠乏性貧血の治療方法についてお話を伺いました。

貧血とは、体内の赤血球に含まれるヘモグロビン(全身に酸素を運ぶ役割を持つタンパク質)が減少した状態を指します。貧血にはいくつかの種類があり、もっとも多いのが体内の鉄が不足することで生じる“鉄欠乏性貧血”です。立ちくらみやめまい、動悸といった症状のほか、意識がぼーっとする、疲れやすくなるなどの症状がみられます。また、無性に氷を食べたくなったり、土やチョークを食べたくなったりする“異食症”が現れる方もいます。一つひとつの症状はささいなものと捉えられることもありますが、日常生活に影響を及ぼすこともあり、QOL(生活の質)を下げる原因にもなります。

女性が鉄欠乏性貧血になる原因としてもっとも多いのが月経です。過多月経が気になり婦人科を受診した結果、貧血の自覚症状はないものの血液検査によって鉄欠乏性貧血がみつかるというパターンもあれば、貧血の症状がみられるため受診し、お話を聞いていくとその原因が過多月経にあるということもあります。

なお、消化管出血を引き起こす可能性がある胃がん大腸がんなどの悪性腫瘍(あくせいしゅよう)胃・十二指腸潰瘍(い・じゅうにしちょうかいよう)といった消化管疾患にも注意が必要です。

鉄欠乏性貧血を引き起こす原因となる過多月経は“1回の周期で経血量が140mLを超えた場合”と定義されています。しかし、日常生活の中で経血量を量ることは難しいため、経血量の多さによって日常生活に不便が生じているかどうかが非常に重要なポイントだと考えています。目安としては、夜用ナプキンを使っても1~2時間ほどで交換する必要がある、経血量がほとんど変わらずに1週間以上月経が続くなどの場合には過多月経の可能性が高いでしょう。

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子宮の病気などによる器質的な要因

婦人科系の臓器に病変があり、それが原因で過多月経を引き起こしている場合、器質的要因に分類されます。代表的なものとして子宮筋腫子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮体がん子宮頸(しきゅうけい)んなどが挙げられます。

ホルモン分泌異常などによる機能的な要因

器質的要因に明らかな病変があるのに対して、臓器に病変がみられないものは、機能的要因に分類されます。排卵障害や黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)など、ホルモン分泌機能に異常をきたす病気が原因となることがあります。

婦人科系の要因以外で過多月経を引き起こす原因として、血液をサラサラにする薬(血栓(けっせん)を予防する抗血小板薬や抗凝固薬(こうぎょうこやく))の服用が挙げられます。そのほか、血を止める機能に異常が起こる内科的な病気が隠れている場合もあります。

鉄欠乏性貧血を起こしやすい方のライフスタイルの特徴として挙げられるのは、過度なダイエットや忙しさによる欠食などで栄養不足になっているケースです。月経の時期になると出血によって鉄の需要が増えますが、栄養不足の方は元々体内にある鉄が少ないため、貧血になりやすくなります。重症の場合には月経以外の期間でも貧血の症状が出る方もいらっしゃいます。

また、30歳以上の女性の20~30%に子宮筋腫がみられるなど、30代以降は婦人科の器質的疾患が増え、閉経前の40代後半頃からはホルモン周期の乱れによる病気が増えるため、結果的に過多月経を引き起こし鉄欠乏性貧血につながるというケースもあります。

貧血を疑った場合は血液検査を行い、血算(全血球計算)の数値をみていきます。血算とは赤血球数や白血球数、ヘモグロビンの量、ヘマトクリット値*、血小板数、赤血球恒数**などの測定を行うもので、これらの数値を確認することで、貧血かどうか、また貧血の中でもどのようなタイプなのかを判断します。

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成人女性の場合、赤血球に含まれるヘモグロビン濃度が12g/dL未満で貧血と診断されます。加えて、ヘモグロビンを作るのに欠かせない鉄が不足した結果として貧血が起こっている場合には鉄欠乏性貧血と診断されます。具体的には、体内の鉄の量に関係する“血清フェリチン”や、鉄欠乏性貧血の際に数値が下がるとされている“ヘマトクリット値”、“総鉄結合能”などの数値を確認したうえで鉄欠乏性貧血の診断に至ります。

* ヘマトクリット値:血液中で赤血球が占める割合

* 赤血球恒数:MCV、MCH、MCHCの値。MCVは平均赤血球容積で、赤血球1個の平均の大きさを表す。MCHは平均赤血球血色素量で、赤血球1個に含まれるヘモグロビン量を表す。MCHCは平均赤血球血色素濃度で、赤血球に含まれるヘモグロビンを%で表す。

鉄欠乏性貧血と診断したら、血液検査の結果と本人が感じている症状によって治療の必要性を判断するようにしています。何かしらの貧血症状によって日常生活に影響を及ぼしている場合には、積極的に治療をすすめるようにしています。

また、経過観察とした場合でも、徐々に血液の各数値が下がってきたらご本人と相談しながら早めに治療介入をすることがあります。たとえば、血清フェリチンの値が低い場合には体内に貯蔵されている鉄が少ないことを示しているので、次に月経周期が訪れた際に貧血症状が出る可能性が高まります。そのような場合には、月経周期が訪れる前に予防的に治療を行います。

ヘモグロビン値が低くても軽い息切れ程度の症状しかなく、ご本人もあまり気にしていないというケースもありますが、いずれにせよ経過観察をして重症化する前に対処することが重要です。そのため、一般的な数値よりも低いこと、それによって起こり得る問題などは丁寧に患者さんに伝えるよう心がけています。

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貧血の治療方法は、貧血の種類や原因に応じて検討していきます。たとえば、鉄欠乏性貧血の場合には鉄を補充します。過多月経で血液が失われることにより鉄欠乏性貧血を引き起こしている場合には、鉄の補充に加えて、月経周期に合わせて止血薬などを使用し、体から血液が失われることを防ぐこともあります。

鉄欠乏性貧血の治療で第一に検討されるのは鉄剤の内服です。鉄欠乏性貧血はきちんと治療を行えば治る貧血であり、基本的に輸血を行うことはありません。成人の場合、1日1~2回程度、鉄剤を服薬します。ヘモグロビン値は6~8週ほどで正常化しますが、体に貯蔵された鉄を表す血清フェリチン値が正常になるまで服薬を続けるのが一般的です。数か月間服薬を続けても血清フェリチン値が正常にならない例も多く、そのような場合には注射剤への切り替えを検討します。

鉄剤の服薬では10~20%程の方に吐き気や便秘、腹痛、下痢、嘔吐などの副作用がみられます。その場合、まずは鉄剤(剤型)の変更や服薬時間を変えることで対応しますが、それでもなお副作用が強く、服薬の継続が困難だと判断した場合は注射剤へ切り替えます。また、早急に貧血を改善させる必要がある重症例では、内服薬と比較して短期間での効果が期待できる注射剤を最初から用いることが多いです。注射剤の副作用としては、ショックやアナフィラキシーなどのアレルギー反応がみられることがあるため、投与時は医師や看護師が注意して見守ります。

鉄欠乏性貧血が慢性的なものか急性的なものかなどによっても異なりますが、当院では服薬の場合も注射剤の場合も、最初の治療導入の段階では1~2週間の間隔で通院をしてもらい、その後の経過を診ていくことが多いです。ただし、慢性的なものの場合には患者さんとも相談しながら2~3か月ほどのスパンで経過観察を行うケースもあります。

また、注射剤は少ない回数で効果がみられることも多いため、総合的にみると内服薬よりも通院回数が少なく済む可能性があります。

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過多月経が背景にある場合には、月経の周期に伴って鉄欠乏性貧血が悪化したり改善したりするため、治療もその周期に合わせて行います。月経期間はもっとも血液が失われ貧血症状が強く出やすいため、そのタイミングに合わせて鉄剤の内服または注射を行います。

貧血を引き起こしている明らかな病気がある場合、その病気に対する治療を考慮します。過多月経を引き起こす代表例である子宮筋腫子宮腺筋症などでは、ホルモン療法や手術などの治療が選択されます。それらは症状を改善する効果が期待できる一方で、タイミングによっては、逆効果となったり、副作用や合併症を引き起こしたりする可能性があります。そのため、現状で病気の状態(大きさや位置など)が症状にどのくらい影響しているかを把握するだけではなく、将来の妊娠に影響する可能性はあるか、閉経後までに起こりうる症状がどのように生活に影響するかなど、未来のさまざまな可能性を想定しつつ慎重に判断しなければなりません。

まずはその原因となる病気の治療の選択肢を患者さんに示したうえで、どのように治療するか相談していきます。どの治療を選択するかは、その方のライフプランに大きな影響を及ぼすこともあるため、患者さん自身の希望も伺いながら短期的・中期的・長期的にどういった方針がよいかを一人ひとりと擦り合わせています。

鉄欠乏性貧血は栄養不足によって引き起こされるケースが多いため、日頃から栄養をきちんと取ることは気を付けていただきたいポイントです。貧血の予防・改善という点では、鉄分のほか、葉酸やビタミンB12は意識的に摂取するようにしてください。また、糖質やたんぱく質、ホルモン分泌にも関係する脂質など含めて、偏りのない食生活を心がけてみてください。

また、鉄欠乏性貧血は月経との関与がとても大きいため、月経の周期や量についてアプリなども活用しながら記録をつけておくのもよいでしょう。どの程度の期間月経が続いたのか、どの程度の量だったのか、痛みはどうだったのかなどを定点的に記録しておくことで変化にも気付きやすくなります。また、婦人科を受診する場合にはそれを医師に見せることで診断までスムーズに進むことも期待できます。

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貧血の患者さんの中には、疲れやすさや息切れなどを「いつものこと」と捉えてしまっている方もいらっしゃいます。しかし、貧血の治療を行うことで、これまでは息切れしながら上っていた階段を普通に上れるようになる、体のだるさがなくなり元気に過ごせるようになるなど、QOLを向上させることもできるでしょう。だるさや疲れやすさが軽減することで活動量が増え、仕事や家事の効率も上がると思います。もしも日頃から疲れやすさなどを感じている、あるいはそういった方が周囲にいる場合には、貧血を疑ってみるとよいかもしれません。

鉄欠乏性貧血は女性に多く、またその原因として女性特有の病気が絡んでいる場合もあります。少しでも気になることがあればぜひ婦人科を受診してみてください。特に月経に関しては経血量などを周囲に相談しにくく「こんなことで受診してもよいのかな……」と迷うこともあるでしょう。しかし、月経に限らず倦怠感などの貧血症状も含め、何か日常生活で困っていることがある時点で十分受診の理由になります。

また、婦人科はなんとなく受診がしにくい、受診に勇気がいると感じる方も多いかもしれません。その原因の1つに、婦人科診療として一般的にイメージされている内診台での診察に対する抵抗感が挙げられると思いますが、実はお腹にエコーを当てる検査でも十分に高い精度で診断ができ、内診台での診察は必須とは限りません。検査による痛みなどを不安に感じていた方は安心していただきたいと思います。

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