インタビュー

フォン・ヴィレブランド病とはどのような病気? ――女性におけるフォン・ヴィレブランド病の特徴について解説

フォン・ヴィレブランド病とはどのような病気? ――女性におけるフォン・ヴィレブランド病の特徴について解説
長尾 梓 先生

医療法人財団 荻窪病院 血液凝固科 医員

長尾 梓 先生

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鼻血が止まりにくい、月経時の出血量が多い(過多月経)など、出血しやすいという症状が現れるフォン・ヴィレブランド病(VWD)。特に女性は過多月経の症状からフォン・ヴィレブランド病の診断につながるケースがあるため、月経量や月経の長さに関する悩みがある方は、そのつらさを我慢せずに病院を受診して原因を早期に発見することが大切です。

今回は、女性におけるフォン・ヴィレブランド病の特徴を中心に荻窪病院 血液凝固科の長尾 梓(ながお あずさ)先生にお話を伺いました。

フォン・ヴィレブランド病とは、止血に必要なタンパク質の1つであるフォン・ヴィレブランド因子の量が少ない、あるいは正常にはたらかないことによって出血しやすくなる遺伝性の病気です。フォン・ヴィレブランド因子には血小板をつなげて破れた血管を塞いだり、第VIII因子という止血に必要なタンパク質を安定化させたりするはたらきがあります。

フォン・ヴィレブランド病は血友病に次いで多い遺伝性出血性疾患でありながら、日本では診断率が低いために正確な患者数は分かっていません。現在日本でフォン・ヴィレブランド病と診断されている方は10万人あたり0.56~0.6人とされていますが、イギリスでは10万人あたり9.3人ほど患者さんがいるという報告があることから、日本においては90%以上の患者さんが未診断の可能性も十分に考えられます。

フォン・ヴィレブランド病の診断に至らない患者さんが多数いらっしゃる理由の1つとして、出血傾向が軽い患者さんが多いことが挙げられます。女性の場合、過多月経が分かりやすい症状である一方で月経量やナプキンを交換する頻度を人と比べる機会はなく、そもそもご自身が過多月経であることに気付く方がほとんどいないことが考えられます。また、フォン・ヴィレブランド病を専門的に診ている医師が少ないことも診断率に影響しているでしょう。ただしこの点に関しては、2021年に日本語版のフォン・ヴィレブランド病の診療ガイドラインが作成されたため、医師の間でこの病気の認知度が上がり、診断率も向上することが期待されます。

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フォン・ヴィレブランド病の特徴的な症状として、鼻血が止まりにくい、抜歯後に多く出血するなどの粘膜出血が挙げられます。紙などで切ってしまった傷からの出血がなかなか止まらない(小創傷出血)という症状も特徴的です。そのほか、手術後の出血、過多月経口腔内出血(こうくうないしゅっけつ)というのも代表的な症状です。

フォン・ヴィレブランド病にはいくつかのタイプがあり、Type1、Type2、Type3に大きく分けることができます。Type2、3は出血傾向が強く、特にType3は関節や筋肉の内部で出血を引き起こすことで腫れや痛みといった症状が現れるため、比較的幼い時期に診断までたどり着く傾向にあります。一方、Type1では症状が軽度であるがゆえに日常生活のなかで本人も症状を自覚することができず、抜歯や手術などの処置を行ったときに多量の出血をしてしまうこともあると考えられます。

女性の場合、大人になってから抜歯時や出産後、月経時などの出血量の多さといった症状をきっかけに病院を受診し、診断に至ることがあります。そうした患者さんの中でも、生活の質を低下させてしまう過多月経を何とかしたいと思って受診される方が特に多いと感じています。

過多月経からフォン・ヴィレブランド病の診断に至ることも多いため、過多月経の疑いがある方は放置せず、まずは婦人科を受診ください。また、フォン・ヴィレブランド病の女性は出産後にたくさん出血してしまい、場合によっては輸血が必要となることもあります。事前に出血しやすい体質であることが分かっていれば出産時にそれを考慮した準備もでき、より安全なお産が可能となるため、なるべく早く病気を発見して適切な治療を受けていただきたいと思います。

過多月経かどうかを判断する目安についてはさまざまな表現がされていますが、なかでも私がもっとも分かりやすいと感じたのが、ヨーロッパで用いられている“7・2・1”という合言葉です。「7日以上月経が続いている」「2時間ごとにナプキンを交換している」「1ユーロよりも大きな血の塊が出ている」という3つで過多月経かどうかをご自身で確認できる目安となっています。

1ユーロは日本の硬貨でいえば100円玉ほどの大きさですので、日本だと“7・2・100”が過多月経かどうかをチェックする目安になるかと思います。「7日以上月経が続いている」「2時間ごとにナプキンを交換している」「100円玉サイズよりも大きな血の塊が出ている」という目安を用いて、ご自身の出血量と経血の状態を確認していただきたいです。1つでも当てはまる項目があった方は過多月経の可能性がありますので、ぜひ一度婦人科を受診ください。

過多月経の場合には、まずは婦人科を受診して、過多月経の原因となる子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)子宮内膜増殖症、子宮内膜ポリープなどの婦人科疾患がないかを確認することが大切です。特に原因となる婦人科の病気が見つからず、理由ははっきりとしないけれども過多月経であると診断された場合には、フォン・ヴィレブランド病の可能性が考えられるため、血液凝固に詳しい血液内科を受診いただきたいです。

なお、“家族も過多月経である”、“月経以外にも鼻血などの血が止まりにくい”といった症状があれば、問診で伝えていただくとよいでしょう。

過多月経以外の血が止まりにくいなどの症状でフォン・ヴィレブランド病を疑った場合には、お子さんであれば小児科、大人であれば血液凝固に詳しい血液内科を受診ください。血液内科を受診される場合は、フォン・ヴィレブランド病や血友病などの出血性疾患の診療を行っている血液内科を事前に調べ、専門的に診療を行っている病院を受診いただきたいと思います。

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まずは、ご家族にフォン・ヴィレブランド病や出血でお困りの方がいるか、ご自身にどういった症状が出ているかなどを問診で確認します。次に血液検査を行います。過多月経の場合は特に貧血の有無を調べることが重要です。これらに加え、凝固機能に異常がないかを網羅的に調べることができるPT・APTTという血液検査を行います。しかし、PT・APTTではフォン・ヴィレブランド因子の状態は調べることができません。そこで、合わせてフォン・ヴィレブランド病因子の抗原量と活性、フォン・ヴィレブランド因子が結合している第VIII因子活性を個別に検査します。ただし、フォン・ヴィレブランド因子はホルモンのバランスや運動の状況などによって結果にばらつきが出るので、複数回検査を行うことが大切です。

フォン・ヴィレブランド病が遺伝性の病気と聞いて心配される方もいるかもしれませんが、症状を緩和する治療法のある病気ですので、気軽に血液内科を受診していただきたいと思います。

検査の結果、フォン・ヴィレブランド病と診断された場合には、患者さんのお話を伺いながら治療方針を決めていきます。フォン・ヴィレブランド病の治療では、生活の質を向上させるために、患者さんの症状やライフスタイル、価値観に応じて治療法を決めることが大切です。特に薬に関してさまざまな思いがあると思うので、患者さんご自身の考えやお気持ち、時には患者さんのご家族のご意見も踏まえて検討するようにしています。

それでは、フォン・ヴィレブランド病の治療選択肢についてご説明します。

フォン・ヴィレブランド病は、フォン・ヴィレブランド因子が少ない、もしくはフォン・ヴィレブランド因子のはたらきが悪い病気ですので、フォン・ヴィレブランド因子を含む薬を注射で投与する補充療法がまず検討される治療です。起こってしまった出血を止めるため、あるいは手術や出産の前、月経中に大量に出血するのを防ぐために薬を注射します。なお、現在日本で使用できる治療薬は、フォン・ヴィレブランド因子を含む血漿由来製剤(けっしょうゆらいせいざい)と遺伝子組み換え製剤の2種類です(2021年10月時点)。

家庭注射が認められている薬ですので、補充療法を行う場合にはご自宅での生活状況だけでなく、会社や学校などでの患者さんのライフスタイルを伺いながらどういった方法で注射を行うかを検討していきます。

主にType1の方の場合はフォン・ヴィレブランド因子が生成されていますが、血液中にあるべきフォン・ヴィレブランド因子が血管の壁の中にとどまってしまっているために血が止まりにくくなっている場合もあります。このタイプのフォン・ヴィレブランド病の方に対してデスモプレシン酢酸塩水和物を点滴すると、血管の壁の中にとどまっているフォン・ヴィレブランド因子が一時的に血液中に放出されるため、血が止まりやすくなります。

過多月経の症状が出ている場合には補充療法を行うこともありますが、子宮内黄体ホルモン放出システムやLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)、ジエノゲストなどのホルモン療法を実施することも可能です。治療方法については患者さんのご希望を伺いながら決定していますので、治療に関するご希望や不安などがあれば担当の医師にご相談ください。

困っている出血症状がない場合には、急いで治療を行う必要はありません。ただし、手術や出産といった将来の出血に対する治療に備えて、医療費助成制度を申請していただきたいです。本制度が適用された場合、フォン・ヴィレブランド病の方は治療にかかる費用は全額補助されます。ただし、1年ごとに更新が必要となるため、そのタイミングで血液内科を受診いただき、近況を伺えればと思っています。

本記事を読んで過多月経かもしれないと思った方や、仕事や学校を休まなければならないほど月経が重いという症状で悩んでいる方は、治療によってつらい症状を和らげることができるかもしれませんので、ぜひ一度婦人科を受診いただければ幸いです。

なお、過多月経以外にも血が止まりにくいという症状で困っている方は、フォン・ヴィレブランド病を含めた出血性疾患の可能性が考えられます。その症状の原因がフォン・ヴィレブランド病であった場合には治療で改善することができますから、出血に関する困りごとがある場合には一度、出血性疾患を専門とする血液内科を受診ください。

フォン・ヴィレブランド病は重症の場合を除き、過多月経などの人と比較する機会がないために自覚しにくい症状が現れることが、受診・診断に至らない大きな要因となっています。ですから、フォン・ヴィレブランド病の診断率の向上を図るために、過多月経に気付く女性を増やすことが急務であると考えています。その取り組みの1つとして、過多月経の患者さんとフォン・ヴィレブランド病の患者さん、血友病の保因者(血友病の原因となる遺伝子を持つ方)にご協力いただきながら過多月経かどうかを判断できる点数表の研究・作成を進めています。

医師提供
長尾先生が日本語訳し、研究で使われたPBACの点数表

1990年にナプキンやタンポンの染まり具合と使用量から過多月経かどうかを確認できる“PBAC”というチャートがすでに発表されていますが、当時と比べて現在日本で使用されているナプキンやタンポンは性能が上がったり、種類が増えたりしていると考えられます。日本の実情に合った点数表ができれば、気軽に過多月経の可能性があるかどうかをチェックできるので、自分自身が過多月経であることに気付く女性が増えるという思いから研究を行いました。現在、最終結果の発表準備中ではありますが、現代のナプキンを使用している日本人でも1990年に発表されたPBACと同じように100点以上で過多月経の可能性があると言えることが分かってきています(2021年10月時点)。PBACの結果をもとに婦人科や血液内科を受診する過多月経の女性が増加し、フォン・ヴィレブランド病の診断率向上につなげることを目指しています。

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