インタビュー

過多月経は病気が隠れているサインかも? ――血液疾患を中心に過多月経を引き起こす原因について解説

過多月経は病気が隠れているサインかも? ――血液疾患を中心に過多月経を引き起こす原因について解説
堤 治 先生

山王病院(東京都) 名誉病院長

堤 治 先生

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過多月経というと、“月経”という単語が入っているために婦人科疾患が原因と考える方が多いと思いますが、実は血液疾患や内科的疾患が原因となっている可能性もあります。特に血液疾患が原因となっている場合、病気によっては日常生活を送る中で症状に気が付きにくく、手術や出産を行ったときに多量の出血を引き起こして初めて病気に気が付くケースもあります。そのため、過多月経を“単なる体質”だとあなどらず、気になったら早めに婦人科を受診してその原因をきちんと調べておくことが非常に重要です。

今回は、山王病院 名誉病院長の堤 治(つつみ おさむ)先生に過多月経に潜む血液疾患を中心にお話を伺いました。

過多月経とは、月経時の血液量が多いという症状です。以前よりも月経血量が多くなり、その状態が続く場合には過多月経が疑われます。また、血液疾患によって過多月経が引き起こされている方の中には初経(初潮)のときから月経血量が多い場合もあります。しかし、月経時の血液量を測定することは現実的ではないため、過多月経かどうかをご自身で判断することは難しいでしょう。

過多月経を疑う指標の1つは、ナプキンの使用量です。以前よりも1日に使用するナプキンの量が増えた、あるいはナプキンを使用する期間が長くなった場合には、過多月経を疑ってよいでしょう。具体的には“7・2・100”という目安を用いて、「7日以上月経が続いている」「2時間以内にナプキンを交換しなければならない」「100円玉サイズよりも大きな血の塊が出ている」という3つの項目で過多月経かどうかをチェックしていただければと思います。

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また、過多月経をそのままにしていると鉄欠乏性貧血になってしまうため、動悸や息切れなどの貧血症状も過多月経かどうかを判断する指標となります。特に先天性の病気が原因で過多月経になっている方の場合、初経時から月経血量が多いので、貧血症状から過多月経に気付く場合が多いでしょう。健康診断などで貧血であると指摘された方や、最近貧血気味で疲れやすい方、常にだるくて体調がすぐれないという方も過多月経を疑って、一度婦人科を受診ください。

過多月経の背景には、婦人科疾患だけでなく、血液疾患や内科系疾患が潜んでいる可能性が考えられます。複数の病気の可能性があると聞くと、どの診療科を受診すべきか悩んでしまう方もいるかもしれませんが、まずは婦人科を受診いただければと思います。

婦人科の問診では、ご家族に血液疾患の方がいるかどうかを伺うほか、月経以外の出血症状があるかどうかも確認します。問診の内容や検査結果から血液疾患や内科的疾患が疑われる方に関しては、血液内科や消化器内科を紹介させていただきますのでご安心ください。

以下で、過多月経を引き起こす病気について詳しくご説明します。

女性特有の病気が原因で過多月経が起きている場合、子宮筋腫子宮腺筋症、子宮内膜ポリープの順で頻度が高いと思います。特に子宮の内腔に向かって発育するタイプの子宮筋腫(粘膜下筋腫)の場合、小さくても過多月経の原因になり得るため注意が必要です。なお、これらの病気が見つからなかったとしても卵巣の機能不全やホルモンバランスの乱れから過多月経が生じることもあります。

原因となる病気や過多月経の重症度によっても異なりますが、婦人科疾患に対する治療選択肢は対症療法(鉄剤投与)・低用量ピルをはじめとするホルモン療法・手術療法の3つに大別されます。さまざまな治療選択肢があるため、妊娠・出産の希望などを患者さんに確認しながら治療方針を決めていくことが大切です。

月経は子宮内膜が剥がれ落ちるのに伴って出血が起こります。そして、子宮が収縮することで出血している血管を圧迫して止血を促すとともに、血小板が傷口を塞いだ後に血液凝固因子と呼ばれる止血に必要なタンパク質がはたらくことで血が止まっていきます。この血液凝固のメカニズムがうまくいかなくなってしまう血液疾患がある場合、血が止まりにくくなるため、過多月経につながる恐れがあります。

次では、過多月経の原因となる血液疾患のうち、代表的なものについてご説明します。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

ITPは血小板が減少してしまうことで内出血したり、血が止まりにくくなったりする症状が現れる血液疾患です。私が婦人科で診察をしているなかでは、過多月経を引き起こす血液疾患としてもっとも頻度が高いと思います。ITPは女性に多く、毎年3,000人ほど新たに罹患する患者さんがいると考えられているため、その点も影響しているかもしれません。

フォン・ヴィレブランド病

フォン・ヴィレブランド病とは、止血に必要なタンパク質の1つであるフォン・ヴィレブランド因子が少ない、あるいは正常に作用しないために血が止まりにくくなる血液疾患です。この病気は、未診断の方も含めるともっとも患者数が多い遺伝性出血性疾患とされています。加えて、2020年の産婦人科診療ガイドラインによると“過多月経の13%がフォン・ヴィレブランド病と診断されたとのシステマティックレビュー*がある”という記載もあるので、過多月経の原因が婦人科で見つからなかった場合、疑うべき血液疾患の1つといえるでしょう。

また、フォン・ヴィレブランド病は血友病白血病などのように特異的な症状が認められず診断に至っていない方も多いと考えられているため、過多月経をきっかけに病気が見つかる可能性も高いと推察されます。

*システマティックレビュー:臨床上の重要な課題に対する研究について広く調査を行い、同様の研究を評価・分析してまとめたもの。

血友病

血友病とは、止血に必要なタンパク質である凝固第VIIIあるいは第IX因子のどちらかが不足していることで、血が止まりにくくなる血液疾患です。軽症の場合、けがや手術時などに血が止まりにくいという症状が起こりますが、中等症や重症ではそれらの症状に加えて皮下出血や関節内血腫、血尿などがみられます。

血友病はX染色体の異常によって引き起こされますが、女性はX染色体が2つあるため発症することはまれです。しかし、血友病の遺伝子を持っている女性(保因者)は過多月経の症状が現れることがあります。

白血病

白血病とは、造血幹細胞がさまざまな細胞に分化する過程でがん化してしまう血液がんの一種です。白血病の種類によっても現れる症状は異なりますが、貧血や出血しやすくなるといった症状が出たり、がん細胞が他臓器に及ぶと関節痛や吐き気、頭痛などが生じたりします。白血病は過多月経以外にも多様な症状が出るため、過多月経をきっかけに病気が発見されることは少ないと思われます。

重度の肝機能障害の場合、血小板が減少して過多月経の症状が現れることがあります。肝機能障害は、ウイルス性の肝炎や飲酒などによって肝機能が低下することによって引き起こされます。

先ほどお話ししたように、過多月経にはさまざまな病気が潜んでいる可能性があります。なかでも、血液疾患を治療しないままでいると抜歯や手術といった処置を行ったときや出産の際に予期せぬ多量の出血につながる恐れがあるため、早期に病気を発見して適切な治療を受けることが大切です。

それでは、上記で取り上げた過多月経の原因となる血液疾患があるかどうかを調べる検査と具体的な治療法について解説します。

画像提供:PIXTA
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血液内科では、家族歴や症状についての問診を行ったうえで、血液凝固にかかる時間や一般的な凝固因子に問題がないかを調べるために、まずは止血スクリーニング検査を実施します。止血スクリーニング検査では全ての凝固因子を調べることはできないため、そこで過多月経の原因となる病気が見つからない場合には個別の凝固因子を調べるための血液検査(確定診断)を行います。なお、ITPや白血病が疑われる場合には、血液検査に加えて骨髄検査(採取した骨髄組織を顕微鏡で詳しく調べる検査)の実施が必要です。

また、フォン・ヴィレブランド病血友病は遺伝性の血液疾患のため、ご家族にこれらの病気の方がいる場合には過多月経などの症状の有無を問わず、心配事があれば血液内科を受診いただければと思います。

血液疾患の種類によって治療の目的や治療法は異なりますが、フォン・ヴィレブランド病と血友病に関しては止血に必要な因子を補う治療法(補充療法)が行われます。次では、具体的にどのような治療法があるか血液疾患ごとにご説明します。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

ITPの治療では、多量の出血を防ぐために血小板の数を維持することを目指します。胃にピロリ菌感染がある場合には、まずはピロリ菌除菌療法を行って血小板の増加を図ります。ピロリ菌の感染がない、またはピロリ菌除菌療法で効果がみられなかった方は、治療適応を判断したうえで副腎皮質ステロイド療法を実施します。

副腎皮質ステロイド療法は基礎疾患がある方や副作用が強く出る方には行えないため、そのような方に対しては、脾摘(脾臓を取り除く手術)などを検討しなければなりません。

フォン・ヴィレブランド病

フォン・ヴィレブランド病の治療は、鼻血やけがによる出血を止める、あるいは手術時など多量の出血が予測されるときにそれを防ぐために行います。また、毎回の月経血量が多い場合にも治療が行われます。フォン・ヴィレブランド病にはいくつかのタイプがありますが、フォン・ヴィレブランド因子が含まれる製剤を投与する補充療法は全てのタイプに有効な治療です。補充療法で使用される製剤には血漿(けっしょう)由来製剤と遺伝子組換え製剤の2種類があります。

なお、フォン・ヴィレブランド因子が血管内の細胞内にとどまってしまっているタイプのフォン・ヴィレブランド病の方に対しては、デスモプレシン酢酸塩水和物を使用することも可能です。また、過多月経の症状がある方に対しては低用量ピルなどを用いる場合もあります。

血友病

血友病の治療はフォン・ヴィレブランド病と同様に出血時の止血、または出血の予防を目的として不足している第VIIIまたは第IX因子凝固因子を補う補充療法を行います。補充療法に用いられる凝固因子製剤は、血漿由来製剤と遺伝子組換え製剤の2種類です。補充療法の方法としては、定期補充療法*、予備的補充療法**、出血時補充療法***の3つがあり、症状によって適切な方法は異なります。

*定期補充療法:出血リスクを抑えるために週に数回、定期的に凝固因子製剤を注射する方法。
**予備的補充療法:出血が予測される日の朝などにあらかじめ凝固因子製剤を注射する方法。
***出血時補充療法:出血時の止血を目的として凝固因子製剤を注射する方法。

白血病

白血病はいくつかの種類がありますが、慢性白血病か急性白血病かで治療法は大きく異なります。どちらであっても、がんの寛解(がん細胞が検査では確認できない状態)を目指して治療を行っていきます。

慢性白血病の場合、がん細胞の増殖に関わる分子のみに作用する分子標的薬を用いて治療を行います。複数ある分子標的薬の中から治療効果があるものを確認しながら治療を継続しますが、病期が進行した場合にはほかの治療法を検討します。

急性白血病は進行が早いため、まず寛解導入療法(抗がん剤治療)を行い、白血病細胞が5%以下の完全寛解の状態を目指します。なお、完全寛解後もその状態を維持するために、寛解後療法と呼ばれる抗がん剤治療を継続し、場合によっては造血幹細胞移植を実施します。

妊孕性(にんようせい)(​​妊娠するための力)の温存や過多月経に付随する貧血の治療によって婦人科においても血液疾患の患者さんをサポートすることができると考えています。以下では、婦人科における血液疾患の治療に関する注目のトピックスを紹介します。

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将来お子さんを産みたいと考えている白血病の患者さんに対しては、抗がん剤治療を開始する前に卵子凍結や卵巣凍結を行えば、妊娠の可能性を残すことができます。ただし、これらの処置を行うために白血病の治療が先延ばしになることがないように気を付ける必要があるでしょう。また、卵子凍結や卵巣凍結を行ったからといって、必ずしも将来の妊娠につながるわけではない点は十分にご理解いただきたいと思います。

卵子凍結や卵巣凍結にかかる費用は全額自己負担でしたが、2021年4月から妊孕性に影響を及ぼす可能性のあるがん患者さんに対して、これらの費用を負担する助成事業が開始されました。ただし、自治体ごとに助成の対象となる条件が異なりますので、お住まいの自治体の情報をぜひご確認ください。

貧血の方に対しては対症療法で鉄剤を内服いただいていましたが、2019年3月に製造販売承認を取得したことによってカルボキシマルトース第二鉄という薬が鉄欠乏性貧血の治療薬として使用できるようになりました。本剤を1回投与すると4週間は効果が持続するとされているため、通院や治療に関する患者さんの負担が軽減できる治療といえるでしょう。本剤が鉄欠乏性貧血を伴う過多月経の治療選択肢の1つとして広まることを期待しています。

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過多月経は生理的なものであるがゆえに困っている症状があったとしても、「仕方がないものだ」と我慢している方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、月経はご自身の卵巣機能に問題がないか、あるいは子宮に病気が潜んでいないかをチェックできる月に1回の機会という側面もありますから、決して我慢する必要はありません。

月経をご自身の体調を確認するバロメーターの1つと捉えて、月経時の血液量が多くなる、あるいは少なくなる、月経周期が乱れるなどのいつもの月経と違う症状がみられたら婦人科疾患の可能性を疑い、一度婦人科を受診いただきたいと思います。特に、過多月経は血液疾患や内科的疾患の症状の1つとして起きているかもしれませんので、まずは婦人科で症状や日常生活での困り事について気軽にご相談ください。

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