院長インタビュー

2021年に新病院に移転し、川崎市の救急医療の中核として地域に貢献する日本医科大学武蔵小杉病院

2021年に新病院に移転し、川崎市の救急医療の中核として地域に貢献する日本医科大学武蔵小杉病院
谷合 信彦 先生

日本医科大学武蔵小杉病院 院長

谷合 信彦 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

川崎市中原区に位置する日本医科大学武蔵小杉病院はタワーマンションが立ち並ぶ武蔵小杉駅から徒歩4分の便利な立地にあり、南北に長い川崎市の中部医療圏の核として2次および3次の救命救急センターの役割を担っています。産科から緩和ケア科まで34の診療科を備え、子どもから高齢者まで人口が増え続けるこの地域の幅広い医療ニーズに応える同院について、院長である谷合(たにあい) 信彦(のぶひこ)先生にお話を伺いました。

当院は、日本医科大学の附属病院として1937年に開院し、以来90年近くに渡り、この地で質の高い医療を提供してきました。2006年には川崎市の救命救急センターとなり、2021年6月には北側にあった日本医科大学のグランド跡地に新築移転。新しい機能と設備を持った病院に生まれかわっています。

現在、当院が特に大きな役割を担っているのは救急医療です。中原区を中心とする川崎市中部で3次救急(命に関わるような重症な患者さんへの救急医療)、2次救急(入院や手術が必要な患者さんへの救急医療)を行っており、昨年の3次救急の入院患者数は病床数372床の病院としては多い1,230人に上りました。また車内で治療を行うことができるドクターカーの出動回数は150回を数えています。

当院の救急の特長は、総合診療科が救命救急科と一緒に当たることです。3次救急に相当する患者さんは救命救急科が担当する一方、2次救急に相当する患者さんは総合診療科がまず診察し、その後必要があれば各科が引き続き治療を行うことで、質の高い救急医療を効率よく提供できるようにしています。

当院は、救急や紹介でいらっしゃった患者さんの手術(周術期医療)の充実にも力を入れています。施設面では、新病院に移転した際に集中治療室(ICU)を7床から10床に、手術室も5室から7室に増やし、急な手術が入っても対応しやすくなりました。

周術期医療の質も向上させており、麻酔科医と循環器内科医が24時間365日常駐することで、外科医はより安心して手術ができるようになりました。手術後の感染症の予防にも努めており、手術室では感染制御部の医師が感染対応をしているほか、口腔科では患者さんの手術前、手術後に歯磨き指導や専門的な口腔清掃等を行うことで、術後合併症発症や重症化のリスクを下げるようにしています。

さらに当院は産科(周産期医療)にも注力しています。そもそも武蔵小杉周辺は若い方の流入が増えており、周産期医療、小児医療へのニーズが高いという特徴があります。当院ではこのような地域の状況に対応するために、緊急帝王切開が必要となるハイリスクの出産、1000g以下で生まれる超低体重児の対応など、この地域にお住まいのお父さんお母さんが安心できる周産期医療体制を作りました。

さらに院内にはNICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児管理室)合わせて21床を同じフロアに設置したほか、産科病床も27床あり、安心して出産いただける環境を整えているほか、麻酔科医が常住しており無痛分娩も対応可能です。

さらに当院では、新生児科、小児科、小児外科が連携する“周産期・小児医療センター”が小児の外来・入院診療を行っており、出産からお子さんの疾患まで一貫して診させていただくことが可能です。同センターは夜間18時30分〜23時には川崎市中部小児急病センターとして内科の小児救急医療に携わっているので、お困りの方はぜひ当院を頼ってください。

当院のもう1つの特長は、徹底した低侵襲(体への負担が少ない)治療の追求です。例えば心臓血管外科では24時間体制で急な患者さんの対応を行う一方、手術ではMICSなどの低侵襲な、なるべく手術時に開ける傷が小さな手術を積極的に行っています。

代表的な低侵襲手術である内視鏡手術も非常に多く、特に脳神経外科での間脳下垂体腫瘍の内視鏡下手術は日本国内でも屈指の症例件数です。肝臓、膵臓でもロボット手術と内視鏡下手術を積極的に実施しており、当院の2022年8月から2023年7月のこの2つの臓器の外科手術件数は106と、県下でも有数の件数となりました。このような低侵襲手術への取り組みによって、当院の平均在院日数は8日台になっています。救急を重点的に行なっている病院では平均在院日数は10日台というところが多い中、当院の医療は患者さんにとって医療費の面からも喜んでいただけるのではないかと思います。

なお、現在の低侵襲治療の代表はロボット手術ですが、当院でも2022年に“ダビンチ”を導入しており前立腺がん直腸がん、結腸がん食道がん胃がん、肝臓がん、膵臓がん、鼠経ヘルニアの手術が対応可能です。稼働後1年経過しましたが、手術件数はすでに150件を超えており、来年度にはもう1台ロボットを導入することにしています。なお、がん治療については移転後に放射線外科を設置したことにより、がんの治療の3本柱である手術、化学療法、放射線治療、これらを合わせた集学的治療が行えるようになっています。

当院は川崎市から災害拠点病院の指定を受けており、万一の地震や水害に常に備えています。2021年の新築移転時には、たとえ多摩川が氾濫しても当院の機能が維持できるように床面を全体にかさ上げし、入り口扉には止水板を取り付けて万一の際も院内に水が入らないよう設計しました。

当院の屋上にはヘリポートも備えています。移転前、当院は東日本大震災の際に被災した病院から多くの患者さんをドクターヘリで受け入れましたが、このヘリポートで引き続き災害時に貢献できればと考えています。

2021年9月の新築移転以降、中原区だけでなく川崎市全域から当院への救急依頼が増えました。当院の地域での役割の大きさを思うと同時に、“断らない医療”を掲げ、救急でいらっしゃった患者さんを今後もキャパシティが許す限り受け入れたいと考えています。

また、私自身が年間500もの地域の病院さんを訪問し、当院との連携をお願いしています。これにより当院へ患者さんを紹介いただけることも増え、ともに地域の中で患者さんをみていく関係が強まってきていると感じています。

当院はこれからも理念でもある“全職員が和、思いやり、責任感、探究心、向上心をもって安全で良質な医療を提供する”を実践し、地域の患者さんに安心していただける医療の提供を続けていきます。