概要
天疱瘡とは、皮膚や粘膜などに水疱(水ぶくれ)や、表皮細胞がただれてしまう状態である、びらんを生じる自己免疫性水疱症の一種です。難病の1つに指定されており、日本においては5,000人を超える患者さんが認定を受けています(2018年12月時点)。好発する年齢は40~60歳代で、やや女性に多い傾向があります。天疱瘡は、水疱の生じる部位や皮膚症状によりさらに細かく分類されます。なかでも尋常性天疱瘡はもっとも頻度が高いとされます。皮膚・口の内側・性器など、体表面や体粘膜のあらゆる部分に破れやすい水疱が大量発生し、水ぶくれがパンパンに腫れあがらないのが特徴です。尋常性天疱瘡は基本的には遺伝しません。未治療のまま放置しておくと、より重症になる傾向があり、命に関わる重篤な病気でもあります。そのため、皮膚科のもとで早期に病気を発見し、適切な治療を受けることが大切です。
原因
尋常性天疱瘡は、皮膚に含まれるデスモグレインと呼ばれる分子に対して自己抗体ができてしまうことにより引き起こされます。デスモグレインは上皮細胞(皮膚の表面の細胞)の接着に関与している分子です。4種類存在し、中でも尋常性天疱瘡の患者さんでは、主に皮膚や粘膜 (口腔内など) の接着に関わるデスモグレイン3に対する抗体ができてしまいます。これらに対する抗体ができることにより、体の免疫システムが皮膚や粘膜に含まれるたんぱく質を誤って攻撃し、水疱(水ぶくれ)やびらん(表皮細胞がはがれてただれてしまう状態)を発症します。しかし、なぜデスモグレインに対する抗体ができてしまうのか、なぜその抗体を持つと天疱瘡になってしまうのかといった詳細はわかっていません(2018年12月時点)。
症状
尋常性天疱瘡は粘膜皮膚型と粘膜優位型に分けられます。粘膜皮膚型の場合には、全身のあらゆる粘膜や皮膚に水疱と、びらんができます。具体的には口唇や咽頭、食道、眼瞼結膜などの粘膜部分や、鼠蹊部、腋窩部など、皮膚と皮膚に摩擦が生じやすいところに多発する傾向があります。皮膚に発赤や水疱が現れ、びらんを生じることも多いため、重症のやけどを負ったように見えることもあります。適切な治療がなされない場合には、皮膚表面から大量の水分が抜けて脱水状態となる可能性があるため注意が必要です。
一方、粘膜優位型の場合には、口腔粘膜を主体として症状が現れ、皮膚には限局した症状が生じます。口腔内に水疱ができては破れることを繰り返し、びらんが多発してしばしば痛みを伴うため、飲食が困難になることも珍しくありません。水疱は非常に破れやすく(弛緩性水疱)、すぐにびらん状態になってしまいます。粘膜優位型の場合には口腔内に初期症状が出るため、まず歯科口腔外科を訪れる患者さんが多く、尋常性天疱瘡と診断されるまでに時間がかかることもあります。硬いものを食べた後に歯肉がずるりと剥けてしまったり、口腔内に水疱やびらんができたりした場合には尋常性天疱瘡を疑い、皮膚科を受診するとよいでしょう。
検査・診断
尋常性天疱瘡が疑われる方に対しては、まず血液検査が行われます。血液検査にて、血液中にデスモグレイン3やデスモグレイン1に対する自己抗体があるかどうかを調べます。粘膜優位型の尋常性天疱瘡の患者さんではデスモグレイン3に対する抗体、粘膜皮膚型の尋常性天疱瘡の患者さんではデスモグレイン1とデスモグレイン3の両方の抗体ができてしまうことが知られています。
また、尋常性天疱瘡の確定診断には、患者さんの組織を一部採取して病変を調べる生検が必要不可欠となります。水疱のできている病変部もしくは外見上正常な皮膚採取し、皮膚や粘膜に抗体が沈着しているかどうかについて蛍光抗体直接法を用いて確認します。血清中にデスモグレインに対する抗体が存在し、かつその抗体が組織に沈着している、つまり攻撃してることが確認できれば尋常性天疱瘡と診断されます。
治療
尋常性天疱瘡は自己免疫疾患の一種であり、その反応を抑えることが治療のポイントとなります。尋常性天疱瘡の治療はステロイドによる治療を中心として、その他に免疫抑制剤・血漿交換・免疫グロブリン大量療法などがあります。ステロイドは細胞膜を容易に通過し、細胞の状態を短時間・短期間の間に変える作用を持っていて、非常に即効性のある、強力な抗炎症作用をもつ免疫抑制剤です。尋常性天疱瘡に対しては、長期間に渡ってステロイドを投与する必要があります。症状が緩和されていくにしたがってステロイドの量を徐々に減らし、寛解を目指します。ステロイドは、治療効果は高いものの長期投与が必要となります。そのため、それに伴う糖尿病や骨粗しょう症などの合併症を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
この他、血漿交換による治療が行われることもあります。尋常性天疱瘡の場合、デスモグレインという分子に対して免疫グロブリン (IgG) という自己抗体ができてしまうことが発症に関係していると考えられています。そのため、血液から抗体 (IgG) をろ過し、取り除く方法もとられます。
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