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インタビュー

地域基盤型医学教育の実現に向けて―これからの医学教育の形

地域基盤型医学教育の実現に向けて―これからの医学教育の形
高村 昭輝 先生

金沢医科大学 医学教育学 講師

高村 昭輝 先生

オーストラリア、タジキスタン、ラオス、ベトナムなど海外で豊富な医学教育の経験をお持ちの金沢医科大学医学教育学講師・高村昭輝先生が現在取り組んでおられるのが「地域基盤型医学教育」の普及です。この記事では、高村先生に「地域基盤型教育」についてお話し頂きます。

地域医療という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか。へき地での医療、田舎での医療、などというイメージをお持ちの方もいるかもしれません。

しかし地域医療は「それぞれの地域の医療」であり、地域ごとに異なる医療事情を背景とする言葉です。必ずしもへき地や田舎での医療を指す訳ではなく、「それぞれの地域に特有の地域全体の医療」を指します。

各地域には、地域ごとにさまざまな医療の担い手があります。大学病院、総合病院、診療所、保健所などです。大学病院で担われている医療はその一部でしかありません。以前は、医学生を対象とした医学教育においては大学病院での教育が重視されていました。しかし、最近では地域全体での教育に目が向けられるようになりつつあります。これが「地域基盤型医学教育」です。

臨床医として9年間学んだ後、私が地域基盤型医学教育を学んだのはオーストラリアのフリンダース大学です。ここで、留学に続き教員としても医学教育の経験を3年間積みました。ここで驚いたことのひとつが、オーストラリアでは地域基盤型教育が当たり前という状況であったことです。学生は大学病院で学ぶことも、地域で学ぶことも両方を選択できる状況にあり、非常に多くの学生が地域で学ぶことを望んでいました。そして、その素晴らしい効果も示されていました。

これに対し、当時の日本の医学教育は大学病院だけのものと言っても過言ではない状況でした。地域に出ることにより、地域全体のことを学び、より実践的な臨床経験を積む機会が得られなかったのです。

また、JICAの活動でラオスやタジキスタンにおいても医学教育を行いました。ラオスでは大学病院が充実しておらず、そこだけでは医学教育をまかないきれないという事情もあったのですが、地域全体での医学教育が行われていました。どこの地域でも「地域全体での医学教育」が行われていたのです。

帰国後、数年の臨床医経験を経て本格的に地域基盤型教育の導入を始めました。はじめに選んだ土地は三重県です。三重大学総合診療部と連携することにより名張市立病院や三重県立志摩病院において「地域における長期間の臨床実習」を導入しました。これは、医学生に4ヶ月もの長期間、大学病院を出て地域のひとつの病院にいてもらうことによりその病院や周辺の「地域医療」すべてを学んでもらうという教育です。従来、医学生が地域医療を学ぶ期間は1週間程度が普通でした。4ヶ月もの長期間病院にいることにより、実践的なスキルを身につけることができ、なおかつ地域全体を学ぶことが可能になります。

三重大学総合診療部や名張市立病院、三重県立志摩病院では一定の成果を挙げることができました。三重県における経験を経て、2014年からは生まれ故郷の石川県・金沢医科大学に戻って来ました。石川県における地域基盤型医学教育のシステム作りへの新たな挑戦です。今回、石川県においては県全体を巻き込んだプロジェクトとし、地域基盤型教育をきっかけとして医療過疎地域に対する医師の定期的な供給体制作りも目指しています。ここで取り組んでいるのは、以下のことです。

  • 医学生に医療過疎地域の病院で長期間の実習を行ってもらう
  • 医学生を指導する専門研修医や初期研修医にも勤務してもらう
  • さらに、専門研修医らの指導医にも勤務してもらう
  • それにより、へき地でも大学と連携して専門医を取得するシステムを作る
  • 大学と連携することにより医療過疎地域と都市部の病院を定期的に移動することを可能にする
地域基盤型医学教育のシステム作りの様子

つまり、地域基盤型教育を軸として、医学生・研修医だけでなくそれを指導する医師も循環するシステムを作っていくことを目標としています。さらには医師だけでなく、薬剤師や看護師などにも循環していただくことが必要と考えています。

このように、地域基盤型医学教育は地域でしか学べないことを医学生や研修医に学んでもらう教育です。加えて、それを指導する医師に循環してもらうことにより、へき地における医師不足の解消にも大きく貢献する可能性があるのです。