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献身的な医療を守るために 日本病院会新会長相澤孝夫先生の抱負

献身的な医療を守るために 日本病院会新会長相澤孝夫先生の抱負
相澤 孝夫 先生

一般社団法人 日本病院会 会長

相澤 孝夫 先生

この記事の最終更新は2017年08月08日です。

日本病院会は、病院における医療の質と経営の質の保証のために1951年6月に設立され、2014年4月に一般社団法人となりました。そして、2017年5月27日、「平成28年度社員総会および平成29年度社員総会・理事会」において、相澤病院最高経営責任者である相澤孝夫先生が新会長に選出されました。

本記事ではこれから日本の医療が抱える諸問題をどう乗り切っていくのか、相澤孝夫新会長がこれまで積まれてきた豊富な病院経営の経験を踏まえて日本病院会会長としての抱負をお伝えします。

日本の医療は各国から大変素晴らしいと高く評価されています。なかでも日本が常に守り続けてきた誇るべき習慣は、献身的に一生懸命患者さんの治療にあたるという点です。たとえば、諸外国の急性期病棟では、急性期医療の必要がなくなった患者さんに対して、体調が万全ではなく食事があまり摂れない状況でも退院してもらうケースがほとんどです。

しかし、日本では急性期医療が終わった患者さんでも、しっかりとした生活を送れるようになるまで病院でケアをしてから退院してもらっています。日本の急性期病棟では、このような献身的な医療を長年にわたり提供してきました。

病院のベッドに寝ている高齢者

近年は高齢化や家庭環境の変化から、急性期の治療を終えても生活機能に支障が残る、独居で介護してくれる家族がいないなどの理由から、退院できない患者さんが増加しています。従来であれば、そういった患者さんの多くが急性期病棟で入院を続けていました。

しかし、さらに高齢者人口が増え、それを支える若者が減っていく現代において、これからも急性期病棟で慢性期の患者さんのケアを続けることは困難です。日本特有のやさしい医療の提供を続けるためには、地域の病院同士で役割を分担し、医療だけではなく介護や患者さんの生活していく場所を作るなどの地域包括ケアの面でも改革していく必要があると考えています。

高齢者が集まって話している画像

医療の進歩とともに、1人の患者さんが急性期病棟で過ごす必要のある日数は短くなりつつあります。急性期病棟に回復期の患者さんがあふれているという問題の解決策の1つとして、急性期病棟のベッドを回復期病棟のベッドに移行することがあげられます。また、急性期医療後も様々な理由から自宅に帰れない患者さんのケアをする施設として、地域包括ケアを専門とした病院を作るという選択肢もあります。

とはいえ「言うは易し」です。説得力を持たせるためにはきちんと実行し検証することが必要です。そこで、慈泉会では、後述する地域包括ケア病棟のみの相澤東病院を相澤病院のすぐ近くに設立しました。我々には自宅に帰れない高齢者のために特別養護老人ホームを運営をしていた歴史もありましたが、今回はまったく新しい試みでした。

先述したように慈泉会では全国に先駆けて地域包括ケア病棟に特化した病院である相澤東病院を作りました。相澤東病院では、急性期医療を終えたものの、麻痺など日常生活への支障が残る患者さんに対して早期に自宅に戻れるようにリハビリテーションなどを提供しています。また、在宅医療を受ける患者さんを一時的に支援するレスパイトケアも行っています。

相澤東病院設立により、患者さんや地域の役に立っているという手ごたえを感じています。しかし、もっとしっかりとした体制にしていくためには、今以上に工夫していく必要があります。

相澤東病院を経営していくなかで、問題点も浮き彫りになってきました。リハビリテーションを行っても生活をサポートしてくれる家族がいないために自宅へ戻ることができない患者さんがいることです。そのため、家族のサポートが必要でも何らかの事情でサポートを受けられない高齢者が暮らせる場所として、サービス付き高齢者住宅の運営もしています。

また、これも先述したように我々には特別養護老人ホームの経営を行っていた歴史もあります。サービス付き高齢者住宅でも、特別養護老人ホームとの料金の支払いを公平にするため、入居金はいただかずに料金を日割りするといった取り組みもしてきました。

急性期病棟で働く医師、特に看護師や栄養師、薬剤師にとって、急性期病棟で回復期の患者さんをケアする現状は、彼らが個々のパフォーマンスを発揮できない原因にもなっています。それはつまり、患者さんに対しても最適な医療を提供できないことがあるということです。

急性期病棟と回復期では、必要な医療体制がまったく異なります。それを急性期病棟で同じスタッフが実施するとなると、1日に何度も急性期と回復期を切り替えて患者さんを診ていく必要があります。1人のスタッフが適切に対応するということは非常に難しく、スタッフの疲労も溜まっていきます。

しかし、急性期のベッドを回復期に移行する、また、専門の病院を作るといった改革を進めることで、スタッフの役割が明確化し彼らの負担も軽減されます。その結果、質の高い医療の提供が可能です。そして、長時間労働の改善といったスタッフ一人ひとりの働き方改革にもつながっていくと私は考えています。

相澤孝夫先生

医療関係者のなかには、急性期病棟で回復期の患者さんも一括してケアするという現在の体制でも問題ないという方もいます。しかし、急性期病棟を疲弊させず、隅々までケアの行き届いた日本の医療を守っていくためには、まずは医療関係者から意識を変えていく必要があります。

もちろん、今の状況を変えなくてはいけないという危機感を持っている方も多くいます。しかし、それらを実際に行動に移せる方はなかなかいません。だからこそ私が実行し、新しい組織やシステムを標準化していきます。まずは相澤病院のなかでこのシステムを完成させ、次のステップにおいて、日本病院会会長として会員と相談しながら新システムを各病院に根付かせていければよいと考えています。

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