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第68回日本病院学会 学会長講演「未来を見据え、今を創新する」

第68回日本病院学会 学会長講演「未来を見据え、今を創新する」
山田 哲司 先生

石川県立中央病院 名誉院長

山田 哲司 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年08月23日です。

2018年6月28日(木)~29日(金)の2日間、第68回日本病院学会が、石川県金沢市で開催されました。「医療制度ルネサンス―未来を見据え、今を刷新する―」をテーマに、医療制度がどのように変わろうと、医療人に課せられたこれらの使命を果し、さらに長年培ってきた質のよい医療を今後も提供し続けるために、白熱した議論が展開され、大盛況の中、幕を閉じました。

本記事では、第68回日本病院学会学会長の山田哲司先生の学会長講演「未来を見据え、今を創新する」をレポートします。

石川県立中央病院のある金沢市は、江戸時代には加賀100万石と呼ばれるほど、とても栄えていました。現在は約46万人と、典型的な地方都市のひとつとなっています。

医療圏に目を向けると、当院は石川中央医療圏に属し、人口約70万人を中心に医療提供を行っています。この医療圏には、金沢大学、金沢医科大学の2つの大学があり、石川県立中央病院など公立病院、急性期病院も数多く存在し、競争の激しいエリアになっています。

このような環境下の当院に、2005年院長として着任をしました。当時は、累積赤字が100億円を超え、建物は築30年を超え、患者数も減少傾向、新規の医療機器の導入も進まないといった状況で、「これは民間移行するしかない」とささやかれていました。

まずは経営方針を明確にし、健全経営にかじを切ることが急務であると思いました。

たとえば、7:1看護基準の維持と看護師の働き方を考え、一旦、病棟をひとつ閉鎖して基準を維持しながら、看護師の採用を加速させるということも実施しました。巨額の負債の返済に目途がついた2012年以降には、いよいよ新病院の建設というところへ一歩踏み出せる状況になりました。

当時、全国の自治体病院で、後ろから数えて4番目に古い病院が、いよいよ新病院へ移行することになり、医療機器の更新を戦略的に進めたり、人員計画を推進したりと、着実に進めてまいりました。

そして2018年1月には、新病院へ患者さんが入り、新病院がスタートしました。

自治体病院の数は、2017年の全国自治体病院協議会のデータによると943病院あり、全体の7537病院の約11%です。病床数だと、全体の約133万9000床に対して、約22万6000床と約14%です。

医療機関の指定を見ると、自治体病院の1/3は地域の拠点病院に類するもの、そのほかは、中小の病院となっています。

総務省が出している公立病院ガイドラインで自治体病院の役割をみると、「採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供する」と明文化されていますが、この一文のような環境下で黒字化するということは、難しいのではないかと思います。

また「民間医療機関が多く存在する都市部における公立病院については、果たすべき役割に照らして現実に果たしている機能を厳しく精査した上で、必要性が乏しくなっているものについては廃止・統合を検討していくべきである」と書いてあります。実際に、福岡ではいくつかの病院が民間移行しました。

人口が減少してくると、民間病院や開業医は撤退や廃業を余儀なくされ、結局、公立病院しか残らないという状況になります。同じ日本国民として、医療を等しく提供するために現実的にこれをどうするかということが大きな課題です。

近年は、民間の総合病院はもちろん、自治体病院の経営も深刻化しています。病院経営は本当に厳しい状況です。きわめて深刻に考える必要があると思います。そのうえで、「きちんと目的をとらえ、変化に対応するミッション・ビジョンを定め、その成果を検証する」ことがとても大切だと思います。

公立病院の現状は、経営も医療提供状況も決してよいとは言えません。収益も硬直化して非常に厳しい。これらを改善するには、病院経営上は、医療従事者の確保はもちろん、患者を増やすか、一人当たりの単価を上げるか、この2つしかありません。ところが、人口がどんどん減ってくるような環境で、これはなかなか難しいです。

そのうえ、自治体病院では、議会と予算の兼ね合いから、医療従事者をすぐに簡単に増やすことができず、一人当たりの単価も増やせないという状況が起きていますから、経営の黒字化を考えると、構造的に目途が立たないということになります。

だとしても、何もせずに過ごすのではなく、病院のある地域が今後どのような人口動態をたどるのか、疾病構造の変化はどのようになるのか、討議をして、あるべき姿の明確化をすることがとても重要だと思います。

公立病院だから赤字でよいということではありません。黒字であれば補助金も少なく、それは非常によいことと思います。

ここで、一番考えないといけないのは、医療の質とコストのバランスです。地域に本当に必要な最低限の医療が何か、その分量が適切であるかどうか、をしっかり考えることが必要ですし、実行可能な改革プランを策定することが肝要です。

そして、医療の質とバランスは、地域ごとに異なるものであるからこそ、地方自治体が中心となって考える必要があると思います。地域に任せきりで、地域の要望だけ吸い上げるだけでは、改革は難しいでしょう。

きちんと、医療の機能分化を図り、地域住民に対して、政治家を含めて問題提起をしていくこともしなければならないと思います。

消費税が10%に引き上げられることが決まっています。2%の引き上げで経営が苦しくなる病院はさらに増えるでしょう。消費税ですべての財源を賄えるわけではありませんし、バラ色の経済状況になるとはとても思えません。

だからこそ、みんなで考え、改革を進めていこうという姿勢が大切だと思っています。

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