粒子線治療の医療事情

治療上のメリットが認められ、保険適用となるがんの種類が増えている

治療上のメリットが認められ、
保険適用となるがんの種類が増えている

これまで、がんの根治を目指すためには原則としてまずがんの手術による切除を検討し、切除による副作用が強すぎると予想される場合や、腫瘍しゅようが大きすぎたり高齢であったりする場合など、何らかの理由で切除困難な場合に放射線治療が行われてきました。しかし、放射線治療の技術は時代とともに進化しています。現在の医療ではX線による放射線治療が多く行われていますが、“粒子線治療(重粒子線治療と陽子線治療)”も注目されています。粒子線治療の大きな特徴は、体の内部で粒子線が停止するため、正常組織への副作用がX線治療よりも少なくて済むことです。これはすなわち、同じくらいの副作用を許容するならばX線より高い治療効果が期待できることを意味します。このような粒子線治療の優位性が認められ、2016年から徐々に保険適用となるがんの種類が増えています*。たとえば、初めて保険適用となった小児がんは数十年後の後遺症が減らせるという点、X線が効きにくい骨軟部腫瘍でも粒子線治療であれば治療効果が高いという点などが評価されています。ほかにも膵臓すいぞうがん、肝がん、肺がん、前立腺がん、頭頸部とうけいぶがんなど、さまざまながんが粒子線治療の保険適用となっています(適格条件あり)。
粒子線治療は「先進医療で高額」というイメージを持たれる方もいますが、実際には保険が効くがんの種類も多くなり、治療選択の幅が広がっています。

粒子線治療が保険適用となるがんの種類には条件があります。重粒子線、陽子線いずれかが適用となっているがん種もありますので、詳細は実際の診療で説明を受けてください。

関西・中国地方のがん医療を支える
兵庫県立粒子線医療センター

陽子線と重粒子線の“二刀流”でよりよい治療選択を

陽子線と重粒子線の“二刀流”で
よりよい治療選択を

当院の理念はその名に冠するとおり、粒子線治療を専門とする病院として、患者さんにとってよりよい治療法を提供すること、ほかの方法では治療が困難な患者さんに対しても全力を尽くすことです。粒子線治療施設の中でも“陽子線”と“重粒子線(炭素イオン線)”の両方を扱っている病院は全国で当院のみです(2024年6月時点)。がんの種類や状態によってどちらの治療がより適切か(効果と副作用の両方を検討)が変わるため、両方の選択肢を持つことが当院の大きな強みと捉えています。当院では治療選択にあたっては個々の患者さんにとってよりよい方法を常に模索し、あらゆる可能性を探っていますので、必ずしも粒子線治療のみをおすすめすることはありません。希望する生活や人生の過ごし方によって治療の選び方も変わります。診療を通じて丁寧に患者さんやご家族のお話をお伺いしますので、一緒に治療方針を決めていきましょう。また、当院はご希望に応じて入院も可能です。病状を観察しながら適切な栄養サポートを行い、病状の変化や副作用にすばやく対応できる環境が整っています。ぜひ安心して治療を受けていただければと思います。

兵庫県立粒子線医療センターの
膵臓がん・肝がん・
肺がん・前立腺がんの粒子線治療

膵臓がんの粒子線治療

患者さんの体と心の痛みを可能な限り軽減する

患者さんの体と心の痛みを可能な限り軽減する

膵臓がんに対する粒子線治療は、2022年に保険適用となりました(適格条件あり)。対象となるのは、手術による切除が困難な、遠隔転移のない局所進行の膵臓がんです。膵臓はすぐそばには胃や十二指腸などの消化管があるため、粒子線治療を行う際には、それらの正常臓器への副作用を軽減するためにいかに正確に照射を行うかが課題となります。当院では照射の正確性をより高めるための照準とする金属マーカーを、体への負担の少ない血管造影によるカテーテルを用いて留置する方法を用いています。また、粒子線治療の効果を高めるために複数の種類の抗がん薬を同時併用する場合もあります。粒子線治療として陽子線と重粒子線の両方を扱える国内唯一の病院ですので、より治療効果が高く、副作用の少ない方を選びます。消化管が近いためにどうしても安全な粒子線治療が行えない場合、スペーサー留置手術(がんと正常組織の間にスペーサーを留置することですき間を確保する方法)を行ってから粒子線治療を行う場合もあります。そのための吸収性スペーサーが開発され、現在ではスペーサー手術を行うことによって、従来よりも高い線量の粒子線治療を行えるようになっています。膵臓がんは強い痛みや吐き気、下痢などのいろいろな症状がでてしまうことがあります。それらの症状に対して、医師・看護師・薬剤師・放射線技師が集まって緩和ケアチームとして対応しています。
私は時間をかけて患者さんのお話を聞くことを大切にしています。がんと診断を受けた方のショックは計り知れません。少しでも自分の病状を理解し、納得して治療を進められるように、また少しずつでも先のことを考えていけるように、どんなに忙しくても自分から診察を終わらせるようなことはしない――それが私の信念です。
当院は粒子線治療を専門とする病院ではありますが、あらゆる治療法を選択肢として考え、患者さんにとってよりよい治療をご提案できるよう心がけています。受診を希望される方は病院ホームページをご覧いただき、現在かかっている病院の医師から紹介をお受けください。「無料でメール相談する」のボタンからもご連絡を受け付けています。

肝がんの粒子線治療

進行した肝細胞がんでも肝機能を温存しながら根治を目指した治療を

日本における原発性肝がんの多くを占める肝細胞がんに対する治療の1つとして、2022年に粒子線治療が保険適用となりました(適格条件あり)。対象となるのは直径4cm以上の肝細胞がんです。また、肝内胆管がんに対しても有効性が認められ、同時に保険適用となりました(肝内胆管がんの場合にはサイズの制限はありません)。
当院は陽子線と重粒子線の両方を行える国内唯一の施設ですので、より治療効果が高く副作用の少ない方を選べることが強みです。また、当院は非常に進行した肝細胞がんに対しても積極的に治療を行うことを重視しています。たとえば10cmを超えるような巨大ながん、脈管(門脈や静脈、胆管)に入り込んだ腫瘍栓を伴うがん、肝臓内に多発しているがんなどに対しても、粒子線治療とほかの治療法を併用してがんの根治を目指します。抗がん薬治療やIVR治療(カテーテルを使って肝臓の動脈に直接抗がん薬を投与する治療)を同時に行ったり、先にそれらの治療を行ってがんを小さくしておいてから、粒子線治療を行う“コンバージョン粒子線治療”を行ったりします。

進行した肝細胞がんでも肝機能を温存しながら根治を目指した治療を

肝細胞がんの患者さんはもともとウイルス性肝炎やアルコール性肝炎、脂肪肝炎などによって肝機能が低下している場合が多く、粒子線治療を行う場合には肝機能へのダメージをできるだけ少なくすることが重要ですが、あまり肝機能を温存しすぎるとがんの再発率が高くなってしまいます。当院では多くの経験を生かしてそれぞれの患者さんに合わせたバランスのよい治療を行っています。粒子線治療によってこれまで治療が困難だった患者さんにも根治を目指せる可能性がありますので、ぜひ希望を持っていただきたいと思います。当院の受診を希望される方は病院ホームページをご覧いただき、現在かかっている病院の医師から紹介をお受けください。「無料でメール相談する」のボタンからもご連絡を受け付けています。

肺がんの粒子線治療

治療効果を高め、副作用を最小限に抑える

2024年6月に、ステージI期~IIA期の早期の肺がん(充実成分の最大径が5cm以下で転移がない)への粒子線治療が保険適用となりました(適格条件あり)。従来のX線治療(体幹部定位放射線治療:SBRT)と比較して生存率などの治療効果が上回ることが示されたためです。また間質性肺炎を合併している、あるいはすでに肺切除や放射線治療を受けている症例など、これまでは副作用に耐えられないとして治療が困難とされていた肺がんに対しても、粒子線治療が有効な可能性が示され、そういった患者さんの新たな希望になると期待されています。

治療効果を高め、副作用を最小限に抑える

肺は呼吸のために常に動いており、粒子線治療を行う場合には正確にがんに照射するために高い技術が必要です。当院では呼吸を監視して呼吸のタイミングに合わせる呼吸同期照射を行っています。これにより患者さんは息を止める必要がなく、自然な呼吸のまま正確に粒子線を照射することができます。さらに当院では、微小な金属マーカーをあらかじめ肺がん近くに留置しておき、X線透視画像で金属マーカーの動きを確認することでさらに照射の正確性を高めています。
私たちは患者さんご本人と、時にご家族を含めて慎重に診療を行い、希望がかなえられるような治療選択を支えたいと考えています。患者さんが望まれる生活や今後の人生によって選択肢は変わりますので、共に考えていきましょう。当院の受診を希望される方は病院ホームページをご覧いただき、現在かかっている病院の医師から紹介をお受けください。「無料でメール相談する」のボタンからもご連絡を受け付けています。

解説医師プロフィール

前立腺がんの粒子線治療

幅広い選択肢の中から患者さんと共によりよい方法を考える

幅広い選択肢の中から患者さんと共によりよい方法を考える

前立腺がんに対する粒子線治療は、2018年に保険適用となりました(適格条件あり)。当院では、前立腺がんの組織診(病変の組織片を採取して顕微鏡で調べる検査)でがんが確定し、転移がない方を対象に粒子線治療を行っています。前立腺がんのすぐ裏には直腸があるため、X線や粒子線を含む放射線治療では半年〜数年後に起こりうる直腸出血などの副作用を軽減する必要があります。そこで現在当院で導入しているのが、前立腺と直腸の間にハイドロゲル(ゼリー状の医用材料)を注入する方法です(スペーサー留置)。これにより前立腺と直腸の間に空間が保たれ、直腸出血などの副作用を軽減することができます。また、注入するハイドロゲルは治療後に取り出す必要がなく、半年ほどで分解され消失します。

幅広い選択肢の中から患者さんと共によりよい方法を考える

自然に囲まれ、穏やかな雰囲気の兵庫県立粒子線医療センター

前立腺がんの治療選択は多岐にわたり、ご本人の価値観やライフスタイルによって合う治療法が変わってきます。そのため私たちは患者さんやご家族の要望がかなうよう、あらゆる選択肢を提示させていただき、方針を共に検討しています。当院の受診を希望される方は病院ホームページをご覧いただき、現在かかっている病院の医師から紹介をお受けください。「無料でメール相談する」のボタンからもご連絡を受け付けています。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年7月18日
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