院長インタビュー

粒子線治療に特化し、全国各地から患者さんが集まる兵庫県立粒子線医療センター

粒子線治療に特化し、全国各地から患者さんが集まる兵庫県立粒子線医療センター
沖本 智昭 先生

兵庫県立粒子線医療センター 院長、神戸大学 大学院客員教授、大阪大学 大学院招へい教授

沖本 智昭 先生

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この記事の最終更新は2019年04月09日です。

兵庫県たつの市にある兵庫県立粒子線医療センターは、粒子線治療を行う病院です。重粒子線と陽子線の両方が使用可能な施設で、全国各地から患者さんが集まっています。

今回は、兵庫県立粒子線医療センターの粒子線治療の特徴や、そのほかの取り組みについて、院長である沖本智昭先生に伺いました。

兵庫県立粒子線医療センター 外観
兵庫県立粒子線医療センター 外観

当センターは2001年4月に開院しました。開院に至ったきっかけは、兵庫県が「がんに対する先端医療を整えるため、兵庫県に粒子線治療ができる病院をつくる」と決定したことでした。

開院当時に診療していた患者さんは、早期のがんなどで日常生活を元気に過ごせるような患者さんが多く、治療の合間に当センターにあるテニスコートをよく利用していただいていました。しかし、時代が進むにつれて粒子線治療の対象となる病気が増加し、現在では、肝臓がんやすい臓がんなどの、切除不可能な進行がんの診療を中心に行っています。

清潔感のある病室
清潔感のある病室

また、昨今は入院設備がない粒子線治療施設が全国各地に開設し始めていますが、粒子線治療と抗がん剤治療を併用することもあり、入院治療を必要とするケースが数多くあります。そのため、入院設備がないことを理由に診療を断られた患者さんが、入院設備のある当センターにいらしています。このように、当センターでは治療が難しいとされるがん患者さんを積極的に受け入れて治療しています。

2017年12月には、兵庫県立こども病院の隣に、当センター附属の神戸陽子線センターを設立しました。神戸陽子線センターは、主に小児がんを患った子どもたちに、陽子線治療を行うための施設です。治療に関しては当センターで培ったノウハウを活用し、さらに、小児専用のスタッフや可愛らしい絵が描かれた治療室など、子どもたちに寄り添った治療ができるセンターとなっています。

粒子線治療の様子
粒子線治療の様子

がんの治療方法には大きく分けて、化学療法、外科的切除、放射線治療の3つがあり、そのうちの放射線治療のなかに、当センターで提供している粒子線治療が含まれます。

放射線治療とは、患者さんの体の一部分に放射線を照射することで、がん細胞を死滅させ、がんを治す治療方法です。一般的に病院で使用する放射線はX線のことをいい、可視光線や紫外線と同じ光の一種です。X線は、体の中を通り抜ける性質が強く、通り抜けたところにエネルギーを与えます。一方、粒子線は、光とは異なり、原子を構築する原子核の流れです。粒子線は、体の中をある程度進んだあとに、急激に高いエネルギーを周囲に与えてから、消滅するという性質を持っています。X線と比較すると、粒子線はがん病巣部に高い量の放射線を照射することができ、高い治療効果を得ることができるとされています。また、X線よりも狭い範囲に照射できるため、副作用が軽いとされています。

ガントリー照射室
ガントリー照射室

当センターの大きな特徴は、重粒子線治療と陽子線治療の両方から選択が可能であることです。患者さんは「重粒子線と陽子線のどちらが、私のがん腫瘍により効果があるのか」と疑問に感じると思いますが、現在、重粒子線と陽子線の治療効果に、明らかな差は証明されていません。治療効果に差がないのにも関わらず、なぜ選択肢が2つあるかというと、以下の違いがあります。

当センターの陽子線治療では、回転ガントリーを使用して照射します。回転ガントリーはどの角度からでも照射可能であるため、がん腫瘍以外の正常組織に照射する線量を減らすことができます。

当センターの重粒子線治療では、水平、垂直、角度45度から選択する固定照射をしています。ベッドは角度15度ほど動く仕様なので、小さな調整は可能ですが、360度どこからでも照射可能な陽子線治療と比べると限界があります。しかし、がん腫瘍に到達するまでの間、重粒子線は陽子線よりも低いエネルギーで体内に入っていき、がん腫瘍に到着すると最大のエネルギーを放出します。そのため、重粒子線はがん腫瘍に到達するまでの間に、がん腫瘍以外の正常組織に照射する線量を、陽子線治療よりも抑えることができます。

どちらの治療法にも特性がありますので、患者さんのがん腫瘍の位置、大きさ、周囲の正常組織などに合わせて、重粒子線と陽子線のどちらを使用するか決定しています。

カンファレンス中の様子
カンファレンス中の様子

当センターは、連携している病院から非常勤でいらっしゃる先生方から、さまざまな面でサポートを受けています。内科の先生方には、内科系の病気を患っている患者さんの診察をしてもらい、治療方針を話し合ったり、アドバイスをいただいたりしています。重症と診断された患者さんのなかには、連携病院に一次転院して集中した治療を施し、患者さんの体調がある程度回復してから、再度当センターで治療の継続を行うケースもあります。

放射線診断科の先生方には、患者さんにがん転移がないか確認してもらっています。がん転移が見つかった場合は、粒子線治療を中止し、全身化学療法に切り替えます。粒子線治療を希望して来院された患者さんであっても、外科の先生方が手術で切除できると判断したときは、患者さんにご説明のうえで転院していただき、切除したこともありました。

このように、ほかの病院の先生方との連携を密にし、総合的に患者さんの治療にあたることができるのも、当センターの特徴のひとつです。

当センターの患者さんは全国各地から集まっているため、治療後の経過観察のために、遠いところからまた当院を受診してもらうことは患者さんの負担になります。そのため、当センターではMyカルテを使用して、粒子線治療後の経過観察を行っています。

Myカルテとは、クリアファイルに問診票をいれて、患者さんにお渡ししているものです。患者さんの治療前の病状や粒子線の照射記録、治療効果などを記載しており、当センターと、かかりつけ医の先生との間で、医療情報を共有できるようにしております。

また、患者さんが質問や気になる症状などを記載して、ご自宅から当センターに送っていただいたり、かかりつけ医のもとで検査したデータ結果などを患者さんから送っていただいたりしています。私たちもいただいたデータをもとに診察した結果をカルテに記載し、印刷して患者さんにお送りしています。

このように、離れていても患者さんを診察できる環境をつくり、患者さんの医療情報を追跡し、解析しています。

2月に行われた節分コンサートの様子
2月に行われた節分コンサートの様子

当センターでは毎週、音楽療法を実施しています(2019年3月現在)。患者さんと一緒に歌ったり、楽器を弾いたりして、患者さんや患者さんのご家族に音楽を楽しんでいただいています。音楽療法は、音楽を歌ったり、聴いたり、奏でたりする活動を通して、患者さんの不安や苦痛をやわらげ、前向きに治療に取り組んでいただくことが狙いです。当センターの玄関ホールには、楽器を置いており、いつでも自由に触れるようにしています。お見舞いにきたご家族が楽器を触っていたり、当センターのスタッフもペンペンと叩いたりしていて、みんなで楽しんでいます。

沖本先生

当センターに足を運ばれる患者さんは、粒子線治療に対して、大きな期待を抱いていらっしゃるということを、私たちは常に感じています。しかし、患者さんの中には、粒子線治療の選択は適切ではない患者さんもいらっしゃいます。わざわざ遠くから足を運んでいただいている患者さんですので、断って終わりではなく、当センターに来た甲斐があったと思っていただけるよう、丁寧に診察することを心掛けています。診察時には、セカンドオピニオンとして意見をお伝えするなど、できる限り患者さんにとって有益な情報をお伝えできるように努めています。

これからも、患者さんとご家族にご満足していただけるような医療の提供を目標に向けて尽力してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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  • 兵庫県立粒子線医療センター 院長、神戸大学 大学院客員教授、大阪大学 大学院招へい教授

    沖本 智昭 先生

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