食道がん~患者さんの負担が少ない “縦隔アプローチ食道切除”を開発~
東京大学医学部附属病院 病院長の瀬戸 泰之先生は胃・食道外科の医師として、胃がん・食道がんの診断・治療に尽力されています。今回は瀬戸先生に東京大学医学部附属病院の食道がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。
※食道がんの一般的な治療方法についてはこちら
治療・取り組み
東京大学医学部附属病院では食道がんに対し、手術用ロボット、腹腔鏡、縦隔鏡の3つを組み合わせた手術方法である“縦隔アプローチ食道切除”を行っています。
縦隔アプローチ食道切除とは
縦隔アプローチ食道切除は東京大学医学部附属病院で開発された手術方法です。この治療方法では、手術でよく用いられる腹腔鏡と、肺や気管の検査などで用いられることのある縦隔鏡を使用し、内部を観察しながら手術用ロボットも活用して手術を行います。
縦隔アプローチ食道切除のメリットと注意点
縦隔アプローチ食道切除のメリットは以下のとおりです。
- 開胸・開腹手術と比較して回復が早く、入院期間が短い
ロボット支援下手術では胸やお腹を切り開かないため、患者さんの体にかかる負担を抑えることができます。また小型カメラを使用して内部を見るので、細かい血管や神経などを拡大して見ながら手術することができ、出血量を少なくすることが期待できます。
- 開胸・開腹手術と比較して術後の合併症が起こりにくくなる
手術用ロボットでは緻密な手術が可能となり、声のかすれ(嗄声)などの原因となる反回神経の麻痺を減少させることができます。また当院の場合は縦隔鏡を用いるため、肺炎などの合併症も起こりにくくすることができます。
- 肺や全身の状態が悪い方にも手術が行える
胸を経由しないので胸壁への損傷がなく、片肺換気麻酔*を行う必要もありません。そのため、肺・全身状態のよくない方に対しても手術が行えます。
*片肺換気麻酔:片方の肺だけで呼吸(換気)を行って麻酔をかける方法。
一方、以下の点には注意が必要です。
- 術者に開胸・開腹手術とは異なる技術が必要となる
ロボット支援下手術では視野が狭くなりやすいことや、臓器などに触れた際の感触がないなどの特徴があります。そのため、トレーニングを行って認定を受けた医師が行うことになっています。当科では、手術用ロボットの製造元が設ける認定資格を持つ医師が6名在籍し、数多くの治療にあたっています(2021年4月時点)。
適応
当院では手術治療が可能な食道がんの場合、ほぼ全例に対してロボット支援下手術を行っています。当院では、胸を経由するのではなく首を経由して行う縦隔鏡で治療するため、喫煙習慣や年齢などによって肺や全身の機能が悪い方も手術が行える可能性があり、全国各地から患者さんが紹介されてきます。
一方、手術可能な患者さんでもロボット支援下手術の適応とならないのは、多臓器への浸潤(周囲の器官に広がること)のある食道がんの患者さんです。このような患者さんの場合、直接手で触れながら手術を行う必要があるため、開胸・開腹手術が検討されます。
入院期間・費用
入院期間は患者さんの状態によっても異なりますが、ロボット支援下手術では3週間程度となることが一般的です。また、費用は保険適用となります。金額は患者さんの状態によって異なりますが、高額療養費制度を利用することで支払額を抑えることができる場合があります。
ロボット支援下手術以外の食道がん治療について
- 開胸・開腹手術
- 内視鏡治療
- 薬物療法(抗がん剤など)
- 放射線治療
診療体制・医師
食道がんでは集学的治療*が必要となることから、複数の診療科の協力体制が大切です。そこで当院では、胃・食道外科、消化器内科、放射線科など複数の診療科で連携し、意見を交換し合いながら食道がんの治療にあたっています。
*集学的治療:手術、薬物療法、放射線治療など、さまざまな治療法を組み合わせて治療を行うこと。
受診方法
初診までの流れ
東京大学医学部附属病院は特定機能病院であり、受診する際は原則として紹介状(診療情報提供書)が必要です。かかりつけ医からの紹介状をお持ちください。
詳しくは、東京大学医学部附属病院ホームページの「初診の方へ」「予約方法」をご覧ください。
予約方法
当院は原則予約制です。紹介状をご用意のうえ、予約センターまでお電話ください。
予約がなく来院された場合は、当日中に診療を受けられない可能性がありますので、ご注意ください。
詳しくは、東京大学医学部附属病院ホームページの下記のページをご覧ください。
- かかりつけ医療機関からご予約いただく場合……「患者さんのご紹介について」
- 患者さんからご予約いただく場合……「予約方法」
予約時の連絡先
東大病院 予約センター
- 電話番号……03-5800-8630
- 受付時間……平日10:00~17:00
セカンドオピニオン外来
東京大学医学部附属病院では、すでに食道がんと診断されている方にセカンドオピニオン、オンライン・セカンドオピニオンを行っております。
受診方法など詳しくは、東京大学医学部附属病院ホームページの「セカンドオピニオンについて」「オンライン・セカンドオピニオンについて」をご覧ください。
診察・診断の流れ
食道がんの診断方法
検診などで食道がんが疑われた場合、まずは食道内視鏡検査を行い、検査中に採取した組織を顕微鏡で見る検査(病理検査)によって食道がんの確定診断を行います。これらの検査で食道がんと診断された場合、CT・MRI検査やPET検査、超音波検査、超音波内視鏡検査などを用いてがんの深さや広がり、ほかの臓器への転移の有無などを調べます。これによって食道がんの進行度を診断します。
治療方針の決定方法
食道がんの治療を決定する際は、主に日本食道学会の発行する“食道癌診療ガイドライン”に沿って治療を検討します。多くは、ステージ0では内視鏡治療、ステージIは手術治療(手術ができない場合のみ化学放射線治療を検討)、ステージII~IIIは術前化学療法を行った後に手術治療、ステージIVは化学放射線治療や化学療法による治療が行われます。近年、ステージII~IIIの患者さんに対して術前化学療法を行ってから手術をするようになったことで、食道がんの治療成績が飛躍的によくなってきました。また、ステージIVで手術ができないと判断された患者さんでも、化学放射線治療や化学療法が効けば手術が可能になるケースもあります。
入院が必要になる場合
食道がん治療で入院が必要となるのは、主に手術治療です。また化学療法を行う際も、初回は入院していただくことがあります。
先生からのメッセージ
食道がんは発見されたときのステージによって治療方法や予後が大きく異なります。ステージ0~I期で発見された方は根治が期待できますが、治療後の生活に変化が及ぶ可能性を理解しておきましょう。
II~III期で発見された方の場合、近年手術前に化学療法を行うことによってより根治が目指せるようになってきています。治療期間は長くなりますが、じっくり腰を据えて治療に励みましょう。
IV期で発見された方の場合、今は根治が難しいこともありますが、医療の発展は日進月歩です。免疫療法などの薬物治療が発展したことによってがんと付き合いながら生きられるようになりつつありますので、最後まで諦めず一緒に治療していきましょう。