肺がん
70歳代の男性
手術の進歩は日進月歩です。がんが広がっていたり合併症があったり、あるいはご年齢や体力的な面からこれまでは手術ができなかったりした方も、いつかは肺がんの手術の適応になる日が来るかもしれません。
これから紹介するのは、今までは難しかった手術に成功した例です。
肺の血管に食い込むステージIIIのがんに対する手術
この患者さんは、心臓から左の肺へ向かう動脈の付け根に広範囲に食い込む形でがんができてしまっていました。
通常このケースでは左の肺を大量に摘出する必要がありますが、肺を多く摘出してしまうと肺・呼吸機能に影響があります。また、この患者さんの場合は体力面から次に予定している治療に耐えられなくなってしまう可能性があったため、なるべく小さな範囲で切除することを方針としました。
そこでがんができた血管を切除した後にご自身の心膜を使って血管をつなぎ直す血管形成術を行い、結果として肺の左下葉(左の肺の下半分に相当する部分)を温存することができました。その後は抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害剤による治療も行い、手術から3年半経過した現在も、この方は再発もなく元気に生活を送られています。
当院では今後も新たな手術方法の開発に熱心に取り組み、手術の適応を広げていきたいと考えています。
関連の症例
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話し合いを重ねて手術に踏み切った、ステージIIIBの患者さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院で、呼吸器外科教授を務める鈴木(すずき)健司(けんじ)先生に、肺がんの症例について伺いました。 話し合いを重ねて手術に踏み切った、ステージIIIBの患者さん この患者さんは60歳代男性で、来院された時にはステージIIIBの状態でした。すでに抗がん剤治療や放射線治療は難しい状態で手術治療をするほかなく、その旨を伝えたところ患者さんの後ろで首を横に振る奥様の姿が視界に入りました。それは、奥様が肺がんについて大変勉強されていて、ステージIIIBの肺がんに対する手術治療はリスクが高いことをご存知だったからです。 治療は、患者さんとご家族が納得されたうえで行うことが大切です。肺がんのガイドラインに従えば基本的にステージIIIBの患者さんは手術適応とはなりませんが、この患者さんを救える方法は手術治療ただ1つでした。患者さんや院内のスタッフ同士でも話し合いが行われ、最後には手術治療を受けることを決断されました。 ガイドラインを前提としつつも、それだけが全てではない 結果として、患者さんの手術は無事に終了しました。その患者さんは、手術治療が終わってから10年以上が経った今も元気に暮らしていらっしゃいます。 ガイドラインに則った治療は患者さんの治療を行ううえでの前提となるもので、1つの基準でもありますが、それだけが全てではないと思っています。もちろん、手術を安全に行うことが大前提ではありますが、そのなかでも患者さんを救うためにはどうしたらよいかを考え、患者さん一人ひとりに適した治療を提供すること。そのような大切なことを、この患者さんと接するなかで学ぶことができました。
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6年間の薬物治療後に手術が行われた患者さん
がん研有明病院で呼吸器外科部長を務める文敏景(むんみんぎょん)先生に、肺がんの症例について伺いました。 6年間の薬物治療後に手術が行われた患者さん こちらの患者さんは発見時すでに転移のあるステージIVの肺がんでした。そのため、最初の治療方針では手術治療の適応とはならず、薬物治療が行われることになりました。 しかし、薬物治療を6年継続したところ、手術ができる状態までがんが小さくなったため、手術治療が検討されることになりました。 薬物治療の効果で手術が可能となった こちらの患者さんの場合も、完全胸腔鏡下手術で肺の切除が行われました。低侵襲手術を行うと、開胸手術と比較して回復までの期間が短く済むため、次の治療にも早く移れるという特徴があります。こちらの患者さんの場合にも術後の経過がよく、今のところ再発がないため、経過観察を続けています。 肺がんでは薬物治療の飛躍的な進歩によって、薬物治療でがんが小さくなり、手術治療ができるようになるケースが増えてきています。このように治療によって手術ができるようになった患者さんに対する手術のことを“サルベージ手術”といいます。
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