外科
大腸がん~患者さんは、共に治療に取り組む“パートナー”~
ベルランド総合病院は大阪府堺市に位置する急性期総合病院で、がん、救急医療、周産期医療を中心に診療を行っています。なかでも、がん医療では大阪府がん診療拠点病院として低侵襲手術や薬物治療、放射線治療を組み合わせた集学的治療に取り組んでいます。
本記事では、副院長と外科部長を兼任する川崎 誠康先生(写真左下)と、外科医長の山本 堪介先生(写真右上)にベルランド総合病院の大腸がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。
大腸がんの一般的な治療方法についてはこちら
治療・取り組み
ベルランド総合病院では手術可能な患者さんはもちろん、手術が難しい患者さんや術後再発してしまった患者さんに対しても手術治療・薬物療法など複数の治療を組み合わせて “集学的治療”を行い、諦めない治療を目指しています。また手術治療としては、大腸がんの腹腔鏡下手術や直腸がんのロボット支援腹腔鏡下手術に尽力しています。
大腸がんの腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術はお腹を切り開いて行う開腹手術と異なり、モニターを見ながら鉗子をうまく操って治療を行う必要があるため、専門のトレーニングが必要です。ベルランド総合病院では、手術適応となる患者さんの約80%に腹腔鏡下手術を実施しており、腹腔鏡下手術の経験を積んだ5人の内視鏡外科学会技術認定医(2021年3月時点)を中心に、ほかの医師や医療従事者と団結してチームで手術に励んでいます。
直腸がんではロボット支援腹腔鏡下手術が行われる
また、直腸がんの手術では手術支援ロボットを用いる、ロボット支援腹腔鏡下手術を熱心に行っています。このロボット支援腹腔鏡下手術は2018年4月から直腸がんに対して保険診療で行えるようになりました。ベルランド総合病院では2019年6月からロボット支援下手術を開始しております。
当院では現在、ロボット支援腹腔鏡下手術に関しては、私が執刀することが多いのですが、少しずつほかの医師にも執刀してもらい、執刀できる医師を増やしているところです。直腸がんの手術では、ロボット支援下でお腹から手術をした後、肛門側からも手術をする必要があり、2021年3月時点では私がどちらも順番に行っています。
しかし手術時間を減らし、患者さんの負担を減らすためにも、最終的にはロボット支援腹腔鏡下手術と肛門側の手術作業を別々の術者が行えるようにすることが、現在の私たちの目標です。
腹腔鏡下手術のメリット・デメリット
腹腔鏡下手術のメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 患者さんの体にかかる負担が開腹手術より少ない(低侵襲)
- 肉眼より病変部分の血管や神経、リンパ管などを細かく見ることができるので、出血量を抑えられる
- ロボット支援腹腔鏡下手術の場合、アームが多関節で細かく動かせるため、より精密に手術を行うことが可能
一方、以下の点には注意が必要です。
- 開腹手術と比較して手術時間が長くなりやすい
ただし、技術やチームワークの向上によって徐々に時間は短縮できるようになっています。開腹手術よりは2時間ほど手術時間が延びると考えられますが、以前のように丸一日かかる手術ではなくなってきています。
- 開腹手術と比較して手術費用が高額になりやすい
腹腔鏡下手術の適応
腹腔鏡下手術が行えるかどうかは、大腸がんの位置や患者さんの状態、手術歴などによっても異なります。前述のとおり、およそ80%は腹腔鏡下手術が可能な患者さんですが、ときには開腹手術のほうが適している患者さんもいらっしゃいます。
たとえば、これまでに何度も開腹手術を受けていてお腹の中が癒着している方の場合、腹腔鏡下では手術が難しいため開腹手術が検討されます。また、がんの腫瘍の大きさが15cmを超える場合などは切除した腫瘍を取り出すのに大きな穴を開ける必要がありますので、開腹手術になることが多いです。
さらに、がんの状況によって病変を優しく触らないと潰してしまう可能性があるときや広い視野が必要なときなどは、開腹手術が検討されることがあります。
腹腔鏡下手術の入院期間や費用
大腸がんの腹腔鏡下手術後の入院期間は個人差がありますが、一般的には10~14日間程度です。開腹手術を行った場合の入院期間が3週間程度であることが一般的なため、腹腔鏡下手術を行うことによって入院期間が短縮されることが期待できます。
また、費用は3割負担の場合で50万円程度(入院費用を含む)です。ただし、病気の状態などによって異なることもあるほか、高額医療費制度も利用できますので実際の支払額は抑えることができます。
腹膜播種のある進行がんや再発してしまったがんにも対応
当院では腹膜播種などがある進行がんで発見された方や手術後に再発してしまった方など、ほかの病院では手術が難しいといわれる患者さんに対しても手術治療と薬物治療などを組み合わせた“集学的治療”を行っています。
このような例では手術をせず、化学療法でがんの増殖を防ぎ“がんと付き合っていくこと”を目指す医療機関も多いのですが、当院では可能な限り根治を目指して治療にあたる姿勢を大切にしています。
腹膜播種の分類基準を再検討する研究にも参加
また、腹膜播種と一言に言っても、その度合は人それぞれです。現在、大腸がん診療の指針となっている“大腸癌治療ガイドライン(2019年版)”では、腹膜播種がある場合にその位置や数によってP1、P2、P3の3つのレベルに分類されていますが、分類の基準は曖昧で厳密な定義がありません。そこで近年、腹膜播種をよりしっかり分類できるよう基準を再検証する動きが高まり、当院を含む複数の病院が協力し、患者さんのデータなどを集めることになりました。
この研究では、さまざまな医療機関から150例の患者さんのデータが集まりました。もともと進行した大腸がんを多く扱っていた当院は、参加していた施設の中でもっとも多い28例のデータを登録していたこともあり、私が集まったデータをもとに新しい分類の基準を考える論文を執筆することになりました。
私が考える腹膜播種の新しい基準では、腹膜播種のある位置や個数を具体的に定めています。腹膜播種があってもP1のようにがんから近い位置にある場合、手術で切除することにより根治が見込めます。また、がんから離れた場所にある場合でも、P2のように数や位置が限られている場合には、手術で可能な限り取り除き、術後に追加治療を行うことで根治や改善が見込めます。今後新しいガイドラインが作成されるときには、今回の研究が役に立つことを願っています。
<従来の定義>
<今回提案する定義>
腹腔鏡下手術以外の大腸がんの治療
- 開腹手術
- 抗がん剤、分子標的薬による薬物治療
- 放射線治療
診療体制・医師
当院では、主治医となる外科医を中心にさまざまな診療科の医師、医療従事者が協力して患者さんの治療にあたっています。
特に特徴的なのは、泌尿器科や婦人科など同じ骨盤内にある臓器を受け持つ診療科との連携体制です。直腸の隣には膀胱や前立腺、子宮などさまざまな臓器があり、直腸がんが進行するとこれらの臓器に浸潤してしまうこともあります。そこで当院では、ほかの臓器への影響が疑われるがんに対しては泌尿器科や婦人科の医師に直ちに相談し、連携して治療方針の決定、手術、術後の管理を行っています。
たとえば、膀胱に浸潤した直腸がんの手術では外科医と泌尿器科が一緒に手術室へ入り、外科医が腹腔鏡下手術を行う傍らで泌尿器科に膀胱鏡による観察やナビゲーションをしてもらったり、直腸と同時に膀胱や前立腺を切除したりすることもあります。別の診療科の医師と手術室に入ることはお互いに勉強になりますし、それぞれの専門家の治療を受けられるため患者さんにとってもメリットが大きいと思っています。
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受診方法
ベルランド総合病院では、ほかの医療機関からの紹介あるいは直接の受診が可能です。
ほかの医療機関からの紹介
ベルランド総合病院では、ほかの医療機関を通じて診察・検査時間の予約が可能です。紹介によって受診される方は予約日に以下の書類をお持ちになってご来院ください。
予約日にお持ちいただくもの
- 診療情報提供書(当院所定用紙)
- 診察検査予約票
- 健康保険証
- 公費医療証
直接受診される場合
直接受診される場合、予約を承ることはできません。8:00~11:45の間に受付を済ませて、お待ちください。診療は9:00から開始しますが、予約をしている方が優先となるため、お待たせしてしまうことがあります。また、来院される際は健康保険証をお持ちください。
なお、ほかの医療機関からの紹介なく受診される場合、初診時選定療養費として診察にかかる費用とは別に5,500円(税込)を頂戴しておりますので、ご了承ください。
診察・診断の流れ
大腸がんの診断方法
大腸がん検診などで大腸がんが疑われた場合、まずは大腸内視鏡検査によって大腸の中を観察し、病変があった場合にはその組織を採取して病理検査を行います。大腸内視鏡検査や病理検査でがんと診断された場合、がんの大きさや広がりなどを調べるために注腸造影検査やCT・MRI検査などの画像検査が行われます。
治療方針の決定方法
当院では主治医である外科医が中心となって、手術治療だけでなく薬物療法、放射線治療などさまざまな治療についても検討を行います。大腸がんの治療方針は大腸癌研究会が発行する“大腸癌治療ガイドライン”をもとに決定されることが一般的です。初発の大腸がんで手術が可能な方の場合、ガイドラインをもとにスムーズに治療方針を決定できることが多いでしょう。
一方、手術が難しい方や手術後に再発してしまった方の場合、治療の選択肢が多くさまざまな治療方針が検討されます。たとえば、化学療法だけでも複数の選択肢があるため、がんの状態や患者さんの状態などによってその患者さんにあった治療を提供できるようにします。また、治療の際には効果をしっかり検証し、化学療法によってがんが小さくなった場合には手術も視野に入れて根治を目指します。
入院が必要になる場合
大腸がん治療では、手術の際には必ず入院が必要です。化学療法や放射線治療は基本的に外来で行うことが多いですが、患者さんの状態によっては入院を提案することもあります。
患者さんのために病院が力を入れていること
当院では大腸がんの治療はもちろん、患者さんのサポートにも献身的に取り組んでいます。その1つが、2020年より体制が大きく変わった緩和ケアの充実です。外科では2週間に一度緩和ケアチームとのミーティングを実施し、痛みなどに悩む大腸がん患者さんについて専門家に直接相談し、必要に応じて紹介することがスムーズに行えるようになりました。
緩和ケアというとネガティブなイメージを持つ患者さんやご家族もいらっしゃいますが、がんによって感じる心の苦痛や体の痛みを和らげるためには非常に大切なサポートです。患者さんがいざというときに相談できる環境を作れるよう、当院ではできるだけ早い段階から緩和ケアの医師やスタッフとコミュニケーションを取る機会をつくっています。
先生からのメッセージ
当院では、外科のみならずさまざまな診療科の医師や医療従事者が協力して治療を行い、大腸がんの根治を目指しています。がんと診断されたばかりの患者さんはショックが大きく、気持ちが大きく落ち込んでしまうこともあるでしょう。しかし、私達は患者さんを“パートナー”と呼び、同じ方向を向いて一緒に頑張りたいと思っています。1人で抱え込まず何でも相談してください。
また当院では患者さんによりよい治療を提供できるよう、日々の研鑽を大切にしています。手術や治療の1件1件を丁寧に行うことはもちろん、術後や治療後に治療の内容を振り返り、次の治療に役立てることを大切にしています。今の技術や成績に甘んじず、これからもどんどんチームを成長させて参りますので、安心してお越しください。