インタビュー

脳におけるセロトニン神経の特徴

脳におけるセロトニン神経の特徴
有田 秀穂 先生

東邦大学 名誉教授

有田 秀穂 先生

この記事の最終更新は2015年09月29日です。

セロトニンという物質はテレビなどのメディアでもよく取り上げられており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。このセロトニンは体のあちこちに存在しますが、なかでも脳において重要な役割を果たしています。また、セロトニンはうつ病などの精神疾患にも深くかかわっており、近年話題となっている物質でもあります。このセロトニンを出しているのが、セロトニン神経です。今回は脳にあるセロトニン神経の5つの特徴について、東邦大学名誉教授・セロトニンDojo代表の有田秀穂先生のご経験に基づいたご意見についてお話頂きました。

セロトニン神経は脳のどこにあるのでしょうか?

脳は外側を大脳が囲み、中間部・脳の根っこに脳幹というものがあります。この脳幹という部分のなかに、セロトニン神経が存在します。その数はヒトの場合、数万個といわれますが、これは脳全体で140億の神経細胞があるなかのほんのわずかな量です。このわずかなセロトニン神経が、脳全体にセロトニンを分泌させるという構造的特徴をもっています。

脳の内部構造。背側縫線核がセロトニン神経において重要な役割を果たす

 

脳のセロトニン神経は、5つの作用をもたらします。具体的には以下のとおりです。

 

「覚醒」状態を整える働きを持ちます。つまり、脳を最適な覚醒状態に持ってきてくれる作用があり、興奮しすぎてもボーッとしてもいない状態までサポートしてくれます。

心の領域においてもセロトニン神経は働きを見せます。

大脳の内側には大脳辺縁系という部分がありますが、この大脳辺縁系にセロトニンが分泌されると、心のバランスが取れ、安定した心理状態になります。その結果、集中力低下やイライラ、平常心の乱れといった心の乱れを改善させてくれます。

セロトニン神経は交感神経と副交感神経のバランスを整えます。ヒトは、寝ているときに副交感神経が働き、起きると交感神経が活発化します。そして、ストレスが過剰に加わった場合、さらに交感神経が活性化し、自律神経のバランスが乱れていきます。セロトニン神経は、交感神経の過剰な興奮を抑え、自律神経のバランスを整える役割を持っています。

「痛い」という身体からの情報は、神経を伝わって脳に到達します。セロトニン神経は、「痛い」と感じた際の脳への伝達をある程度調整(抑制)しており、わかりやすく述べると一種の鎮痛剤の役目を果たします。

(※万が一セロトニンが鎮痛剤としての役割を十分に機能できなくなると、線維筋痛症という病気になる可能性があります。)

セロトニン神経は姿勢にも影響します。セロトニンの活性化が起こっている脳は、姿勢が良く保たれ、顔つきもどことなく締まっていることが多いです。それに対してセロトニンの活動が弱っていると、その方の顔はとろんとして背筋も姿勢も弱っているように感じられます。

セロトニン神経がきちんと働くことで、これら5つの役割が正常に機能します。その結果、朝もきっちりと覚醒できます。さらに心のバランスがとれて自律神経も機能し、痛みの調整も取れて不定愁訴(原因がはっきりしないけれども体調が悪いと感じたり、体のあちこちが痛んだりすること)がなくなり、さらには姿勢が良くなります。これらはすべて、セロトニンによる効果なのです。

セロトニンは、私たちが寝ているときには分泌されず、覚醒し始めると分泌されます(覚醒している最中はずっと分泌されています)。

そのように考えると、覚醒しているときの前述の5つの機能は、セロトニンがきちんと分泌されていれば、起きているときはしっかりと機能しています。反対に、覚醒してもセロトニンがきちんと分泌されていない場合、頭がボーッとして目覚めが悪い、自律神経失調症や心の不安定、不定愁訴が出る、姿勢も悪いといった症状が出てきます。

最もよく知られているのは、腸のセロトニンです。

腸のセロトニンは腸の蠕動運動に関係します。腸の中でもセロトニンはつくられており、セロトニンが分泌されることで蠕動運動が促進される仕組みになっています。

その他、皮膚・肝臓・腎臓など、様々な臓器にセロトニンは存在します。様々なところでセロトニンは作成され、それぞれの臓器でそれぞれの働きをしています。ですから、脳のセロトニンと他の臓器のセロトニンは基本的に別物です。そのため、たとえば腸の中のセロトニンが脳のセロトニンと関係することはありません。それは、血液の中にセロトニンを点滴しても、鬱病の患者さんは治らないことから明白です。