インタビュー

角膜の再生医療

角膜の再生医療
木下 茂 先生

京都府立医科大学 特任講座感覚器未来医療学教授

木下 茂 先生

この記事の最終更新は2016年04月04日です。

再生医療とは、ケガや病気などによって壊されてしまった組織・臓器を、自己の幹細胞(他の組織や臓器、細胞の元となる細胞)を使うことで元の状態に回復させる医療技術のことをいいます。現在再生医療分野は様々な組織や臓器において試みられており、その中でも角膜の分野ではいち早く臨床応用が進んでいます。今回は角膜再生医療について京都府立医科大学感覚器未来医療学教授の木下茂先生にお話をお伺いしました。

角膜再生医療を考えるときに、まずは組織を角膜の表面と角膜の裏側にわけて考えなければいけません。

 

角膜の裏側にあたる最内層(眼の内側)の内皮細胞は拒絶反応が起こりにくいとされています。これは角膜の裏側に存在する、前房(ぜんぼう)と呼ばれる領域と接していることに関係しています。

内皮細胞は前房を満たしている水(眼房水)とともに静脈に流れ出て、免疫を調整する臓器(脾臓:ひぞう)に運ばれていきます。その結果、免疫担当細胞の状態が変化して、拒絶反応の起こりにくい状態になると考えられています。

一方、眼の表面は皮膚などと似ていて、免疫反応が非常に起こりやすくなっています。そのため自己組織に近いものから上皮シートをつくって、損傷されている角膜と置き換えるという再生医療を行う必要があります。具体的には自己の口腔粘膜から採ってきた細胞を培養して上皮シートをつくります。また京都府立医科大学では、拒絶反応が起こりにくい前房から採ってきた細胞を培養して角膜内皮細胞を再生させるということも行っています。

再生医療に限ったことではありませんが、ある外科的治療の研究を進めていく中で、違うタイプの解決法が見つかることがあります。そして、それが違うタイプの治療法として従来の治療法と置き換わっていきます。

たとえば角膜再生医療の研究を行う中で、ロックインヒビターというタンパク質が見つかりました。そして、このロックインヒビターによって角膜内皮細胞が増殖し、接着具合がよくなるということがわかっていきました。これらが結果的に、点眼薬による角膜再生治療につながっています。

今の治療法というのは大きな研究のプロセスのひとつに過ぎません。たとえば緑内障の治療でいうと、私が研修医だった頃はピロカルピンという1種類の薬しかありませんでした。そのうち、画期的な治療法としてβブロッカーの点眼薬が使われるようになります。その後プロスタグランジン製剤がでてきて、「もうこんなものだろう」と思っていた矢先に炭酸脱水酵素阻害薬(房水の産生を抑制する薬)がでてきました。

よく「この治療法がベストですか?」「これ以上よい薬は出ませんか?」と聞かれることがあるのですが、そのようなことはありません。この方向が最先端だと思った矢先、全く想像もしなかった方法が出てくることもあります。私たちは「今」の時代を生きているわけですから、10年先、20年先にはきっとまた新しい治療法が出てくるでしょう。

私自身も未来はどのような治療法になるかはわかりませんが、角膜に関連する医療費の予測は日本でも約1兆円と発表されており、これから確実に伸びていく研究分野だと考えています。

 

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