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先天性食道閉鎖症には胸腔鏡下手術での治療が適している――病型に応じた手術の工夫

先天性食道閉鎖症には胸腔鏡下手術での治療が適している――病型に応じた手術の工夫
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

田井中 貴久 先生

名古屋大学医学部附属病院 小児外科 講師、東邦大学医学部 非常勤講師

田井中 貴久 先生

目次
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先天性食道閉鎖症の治療には手術が必要となります。手術は病状に応じて一度で完了させる場合と、複数回に分けて行う場合に分かれますが、共通して重要なのは“子ども自身の食道をつなげること”です。名古屋大学医学部附属病院では胸腔鏡下で食道をつなげる手術を行っていますが、この手術法は先天性食道閉鎖症の病態から考えて、非常に利点が大きいといいます。名古屋大学医学部附属病院小児外科教授の内田広夫先生と、同院小児外科講師の田井中貴久先生に、先天性食道閉鎖症の胸腔鏡下手術についてお話しいただきました。

先天性食道閉鎖症の根本的な治療法は手術であり、病状に応じて一度の手術で根治治療を行うか、分割手術(最初は胃瘻(いろう)の造設のみ行って栄養ルートを確保し、時期を遅らせてから根治手術を施す)を行うか決定します。

先天性食道閉鎖症には5つの病型がありますが(下図参照)、ほとんどはC型であり、このタイプの場合は上部食道と下部食道の距離が近いため、赤ちゃんが生まれた当日あるいは翌日に手術が行われるのが一般的です。

【各病型の補足説明】

A型食道閉鎖症

A型:全体の5~10%に見られ、食道と胃が完全に離れてどこにもつながっておらず、食道気管瘻(食道の先が気管につながっていること)の合併を欠くもの

B型食道閉鎖症

B型:ごくまれなタイプ。口側食道の先が気管につながっており、上部食道気管瘻が見られ、下部食道(胃の先)は無形成か盲端(食道の先端が閉じていること)であるもの

C型食道閉鎖症

C型:全体の85~90%に見られ、胃の先の食道が気管につながっており、上部食道は盲端で下部食道気管瘻があるもの

D型食道閉鎖症

D型:全体の1%前後に見られ、食道と胃のそれぞれの先が気管につながっている(上部食道気管瘻と下部食道気管瘻)もの

E型食道閉鎖症

E型:全体の5%に見られ、食道と胃はつながっている(閉鎖していない)が、食道の一部が気管につながっている(食道気管瘻)もの

A型の場合はロングギャップ(上部食道と下部食道の距離が長い)で上と下が大きく離れているので、1回の手術だけでは食道をつなぐことが困難です。このような病型に対して、現在名古屋大学病院では二期的に分割手術を行っています。

具体的には、まず、1度目の手術で盲端部同士を近づけて、1週間後に食道をつなぐ手術を行うという手順です。なお、1度目の手術と2度目の手術の間は胃瘻で栄養ルートを確保し、時期を遅らせています。

胸腔鏡下手術
先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下手術

実は、A型先天性食道閉鎖症のようなロングギャップに対する治療は、世界的にもどの方法が最適であるかが決まっていないのが現状です。胸腔鏡下手術が導入されてからは治療法も発展を遂げてきており、当科が現在採用しているような形(二期的な分割手術)もあれば、1~2か月程度の経過観察を経て手術を行う形もあります。さらには、胃の一部を胃管として直接食道につなげる方法や、空腸を食道部に持ってきて吻合(ふんごう)する方法もあります。

とはいえ、一番よい方法は子どもが今持っている食道同士をつなぐことだと考えます。ですから名古屋大学病院では、子ども自身の食道を生かすために、まずは胃瘻を作って時期を遅らせてから、胸腔鏡下手術で食道をつなぐという方法を主に採用しています。

この方法は開胸手術であれば胸を2回も開けて手術をするため、癒着が強く見られ難しいのですが、名古屋大学病院では胸腔鏡下手術のみで行っており、小さな傷で手術を完了させることが可能です。

2016年4月より、先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下手術は保険適用となりました。親御さんにはあらかじめ、手術には開胸手術と胸腔鏡下手術があり、名古屋大学病院では胸腔鏡下手術を行っていることをご説明しますが、このことを提示して胸腔鏡下手術を断られた方はいらっしゃいません。

胸腔鏡下手術は、先天性食道閉鎖症という病気に対して特にその利点を発揮する術式だと考えています。

たとえば、胆道閉鎖症に対する腹腔鏡下手術の場合は、手術を行っても最終的には肝移植を考えなければなりません。また、先天性胆道拡張症の場合は、手術後も長期的に経過を見ていく必要があります。これに対して、胸腔鏡下手術で先天性食道閉鎖症の治療を行った場合には、後遺症や再手術の恐れが少なく、胸腔鏡下手術のみで治療を完了することが期待できます。

また、開胸手術で先天性食道閉鎖症の治療を行った場合は、術後に肩甲骨の動きが悪くなる、胸の形が変形するという侵襲の影響が残ることがありますが、胸腔鏡下手術では傷が小さく、筋肉や神経を損傷しないためそのような危険性が生じる可能性も低くなります。

これに加えて、胸腔鏡下手術は手術の様子がビデオにすべて記録されるため、必ず後で手術を検証することができます。この点においても、今後胸腔鏡下手術はさらに需要が高まってくると考えています。

こちらは、実際に名古屋大学病院で行っている、先天性食道閉鎖症の胸腔鏡下手術の動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=6hDppxyudO0&t=4s

症例は38週0日、2,076g、生後1日目のC型食道閉鎖症です。

手術時間は73分で、出血量は2mLでした。

先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下手術以外にも、あらゆる小児疾患への治療において、低侵襲手術(内視鏡手術)を考慮しています。

私は、子どもにこそもっとも胸腔(ふくくう)鏡下手術や腹腔鏡下手術が必要であり、利点も大きいと考えています。この理由は、子どもが成長・発達する時期の侵襲性の高い手術は前項で述べた肩甲骨の運動障害などを起こさせ、子どもの発達に少なからず影響を与える可能性があるからです。

成長期である子どもはこれから大きく発達していきます。手術でその健全な発達過程を阻害してしまうと、その子どもの将来に身体的・精神的なハンディキャップを背負わせてしまうことになります(たとえば「体の傷を他人に見せたくない」など)。これはあってはならないことです。

私は、手術創(手術の傷)を小さくすることでこうしたハンディキャップをなくしていきたいと考えており、その信念のもとで手術を行っています。

(詳細は「子どもの手術は体に負担の少ない方法が重要! 子どもに対する内視鏡手術」をご覧ください)

上下の食道の間隔が十分に近づいておらず、ぎりぎりの間隔で食道をつないだ場合、つないだところが破れて(縫合不全)細菌感染から敗血症を合併したり、気管食道瘻が再び開いてしまうことがあります。また、胸水がたまるリスクも考えられます。ただし、開胸手術よりも胸腔鏡下手術のほうが合併症の発症率が高いわけではなく、むしろ起こりにくいかもしれません。

かなり昔、先天性食道閉鎖症は死亡率が高く救命が困難な病気でしたが、医学の進歩によって治療成績は飛躍的に改善しました。私が医師になったころに生存割合が85%以上に改善し、そこから大きな成績の変動はありません。ただし、心臓に合併症が起こっていたり、現在の医学では治療が不可能な病気を合併したりしている場合には、患者さんの命を助けることが難しい場合もあります。

名古屋大学病院には、胎児診断で赤ちゃんが先天性食道閉鎖症と判明し、治療してほしいとご相談される親御さんが多くいらっしゃいます。

先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下手術は2016年から保険適用となり、さまざまな医療機関で患者さんを受け入れています。しかし、先天性食道閉鎖症根治術は合併症が起こりやすく手術の難易度も高いため、手術を受ける施設を慎重に選んでいただきたいと考えます。

先天性食道閉鎖症は希少疾患であるため全国的にも年間130例程度しか症例が確認されておらず、年に1、2例しか手術をしていないという施設も多くあります。手術の経験が多い施設であれば手術時間も短く、手術そのものも正確に行えることが多いため、手術を受けるのであれば、できる限り経験が豊富な施設が望ましいと考えています。

※記事内の症例写真・手術動画は全て名古屋大学小児外科ご提供のものです。
 

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