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先天性胆道拡張症の検査と治療――​​合併症のリスクや胆道がんとの関係は?

先天性胆道拡張症の検査と治療――​​合併症のリスクや胆道がんとの関係は?
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

田井中 貴久 先生

名古屋大学医学部附属病院 小児外科 講師、東邦大学医学部 非常勤講師

田井中 貴久 先生

目次
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先天性胆道拡張症とは、生まれつき肝臓と十二指腸の間にある胆管が拡張している病気です。先天性胆道拡張症の診断のためには、超音波検査・MRCPといった画像診断や、ERCPという内視鏡検査が必要です。名古屋大学医学部附属病院では小児外科と消化器内科が連携体制を築いており、消化器内科医が子どもにも内視鏡検査を行っています。さらに、小児外科での治療においては腹腔鏡下手術を行っており、低侵襲な手術治療が可能です。先天性胆道拡張症は、手術によって治療可能な病気ですが、手術後、数年から数十年経過した後に、胆管炎膵炎肝内結石胆管がんなどの合併症が起こりやすいことが知られています。術後合併症のリスクを念頭に置いた長期的なフォローが必要になるため、患者さんは手術後も通院を継続することが大切です。日本内視鏡外科学会技術認定医(小児外科部門)である名古屋大学医学部附属病院小児外科教授の内田広夫先生と、同院小児外科講師の田井中貴久先生に、先天性胆道拡張症の検査と治療、合併症のリスクなどについてお話しいただきました。

繰り返す腹痛や腹部腫瘤などの症状、および、肝機能異常やアミラーゼ値の上昇などから先天性胆道拡張症が疑われる場合は、精密検査を行います。具体的には、超音波検査およびMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography:MR胆管膵管撮影。胆管と膵管に撮影焦点を絞ったMRI検査)の2つの検査を行い、先天性胆道拡張症かどうか診断します。

(関連記事:「繰り返す腹痛や肝機能異常が起こる先天性胆道拡張症とは?」)

図:先天性胆道拡張症のMRCP像
先天性胆道拡張症のMRCP像

超音波検査およびMRCPを行っても確定診断に至らない場合は、ERCP(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を行って、確実に診断します。総胆管の拡張と膵・胆管合流異常症(下記)が確実に分かれば先天性胆道拡張症と確定診断できます。

成人の患者さんであれば、超音波検査およびMRCPを行うと、高い確率で先天性胆道拡張症を診断できます。しかし、小児の場合、先天性胆道拡張症で見られる膵・胆管合流異常*の描出率は、40~80%(先天性胆道拡張症診断・治療ガイドラインによる)にすぎず、さらに、乳幼児では、超音波検査とMRCPを組み合わせても診断に至らないことがあります。このような場合は、ERCP(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を行い、膵管と胆管が異常に長い共通管を持って合流していないか、または、異常な形で合流していないか、詳細に確認します。

(関連記事:「繰り返す腹痛や肝機能異常が起こる先天性胆道拡張症とは?

下図は、先天性胆道拡張症の患者さんのERCPの検査画像です。肝外胆管が嚢胞状に拡張しており、膵・胆管合流異常が認められます。

*膵・胆管合流異常……本来十二指腸の壁の中で合流するはずの膵管と胆管が、十二指腸の手前で合流し、1つの管になってしまう状態のこと。膵・胆管合流異常があると、膵液と胆汁が混ざり、常に胆管や胆のう内に膵液が流れ込み、その結果、腹痛などの先天性胆道拡張症の症状が現れたり、胆のうがんのリスクが増大したりすると考えられている。

膵胆管合流異常を認め、共通管内に蛋白栓(黄矢印)を認める。

膵・胆管合流異常を認める。共通管内にはタンパク栓(黄矢印)
正常な状態
正常な状態
膵・胆管合流異常
膵・胆管合流異常

ERCP(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:内視鏡的逆行性胆管膵管造影)は、口からファイバーを入れて胆管・膵管の様子を確認する検査です。長時間の鎮静が必要になるので、小さいお子さんにERCPを行う際は、安全性を確保するために全身麻酔をかけて行います。この検査により、膵管と胆管が異常に長い共通管を持って合流しているか、あるいは異常な形で合流しているかを確認できるため、先天性胆道拡張症の確実な診断が可能になります。

ERCPで先天性胆道拡張症と診断されたときに、激しい腹痛が続いていたり、黄疸(おうだん)や高アミラーゼ血症が認められたりする場合には、ERCPの検査から続けてERBD(Endoscopic retrograde biliary drainage:内視鏡的逆行性胆道ドレナージ)という処置を行います。ERBDは、痛みの原因となっているタンパク栓*による胆汁や膵液のうっ滞(胆汁の流れが悪いこと)をとるために、内視鏡下に細いチューブを挿入して、胆汁が流れるようにする方法です。患者さんにとってのERCPのメリットは、診断と同時に痛みを取るための処置を行えることです。

先天性胆道拡張症の手術は、ERBDで詰まっている胆汁や膵液を流して痛みを取り、うっ滞が解消されて胆管や膵管の炎症がある程度治まってから行われます。

*タンパク栓については、記事1「繰り返す腹痛や肝機能異常が起こる先天性胆道拡張症とは?」の後半で詳しく説明しています。

当院では、小児に対するERCPを、成人消化器内科の先生が担当します。ERCPは、熟練した技術が必要な検査であるため、普段からこの検査を行っている消化器内科の先生方でなければ、うまく行うことが難しい検査です。

小児外科と成人消化器内科の連携は、成人の診療科がない小児専門病院では、難しい面があります。当院のように成人の消化器内科医が、小児に検査を行う連携体制が整っていることは、先天性胆道拡張症の診断および治療には重要な要素だと考えます。

患者さんが名古屋大学病院に来院される経緯としては、まず患者さんは近隣の診療所を受診し、そこで総合病院の小児科を紹介されて、総合病院の小児科から名古屋大学小児外科を紹介いただくという流れが多い印象です。

記事1」で述べたように、診療所受診の段階で、腹痛や高アミラーゼ血症などの症状から先天性胆道拡張症と診断されるケースはほとんどないと言ってよいでしょう。もともとまれな病気であり、さらに、診療所では検査できる内容が限られているため、開業医の先生が先天性胆道拡張症を発見するのは難しいからです。ただし、現在は、超音波検査を行う診療所が増えてきているため、ときには先天性胆道拡張症の疑いとして紹介いただくこともあります。

先天性胆道拡張症に対しては、“胆のうも含めた肝外胆道切除と肝管空腸吻合術”、いわゆる分流手術を行います。これは、簡潔に述べると、膵液と胆汁が混ざり合っている部分を分ける手術で、拡張した胆管を切って取り除き、空腸(小腸の一部)を持ってきて、新しい胆汁の通り道を作成する方法です。この分流手術を、当院では腹腔鏡下で実施しています。

肝外胆道切除
肝外胆道切除
肝管空腸吻合術
肝管空腸吻合術
実際の腹腔鏡手術の様子
実際の腹腔鏡手術の様子
図A:拡張した総胆管、B:膵内胆管の剥離、C:肝管空腸吻合、D:肝管空腸吻合終了
図A:拡張した総胆管、B:膵内胆管の剥離、C:肝管空腸吻合、D:肝管空腸吻合終了

開腹手術では一般的に15~20cm程度の創が残るのに対し、腹腔鏡手術では、約1cmの創が3か所、約2cmの創が1か所で治療が可能です。

開腹手術(図左)と腹腔鏡手術(図右)の術創イメージ
開腹手術(図左)と腹腔鏡手術(図右)の術創イメージ

腹腔鏡手術のメリットは、私たち医師にとって、広い視野が得られること、手術中に手術の様子を皆で確認できること、いつでも手術を見返して手術を振り返ることができることが挙げられます。患者さんにとっては、低侵襲であることや術創が小さいことが挙げられます。患者さんがこれからの人生で、手術による創をあまり気にすることなく生活できることだけでも大きな意義があると考えています。

腹腔鏡手術のデメリットは、手術が難しいことも挙げられますが、手術後の長期予後がまだはっきりと報告されていないことが挙げられます。

先天性胆道拡張症は、長期的に合併症が起こりやすい病気といわれており、5年~10年後に肝内結石や膵石(肝臓や膵臓にできる石)ができたり、腸と胆管とのつなぎ目が狭くなったりすることがあります。現時点(2019年6月時点)で、腹腔鏡手術の10年後の治療成績を証明するデータは、まだ十分にそろっていません。そのため、開腹手術に比べて、腹腔鏡手術のほうが長期予後がよいかどうかはっきりとしたことはいえません。一方で腹腔鏡手術においても、開腹手術と同じ考え方で手術を行っています。具体的には膵内遺残胆管の完全切除、肝門部胆管の狭窄解除ですが、これらを確実に行うことで、長期的な合併症を減らせると考えています。そのため、腹腔鏡手術でも開腹手術と同等の長期予後を得られるとは考えていますが、今後も長期成績には十分に気を配りながら腹腔鏡手術を実施していきたいと考えています。

先天性胆道拡張症に対する手術成績は下記の通りです。

2012年:13件(うち内視鏡手術0件)

2013年:12件(うち内視鏡手術5件)

2014年:5件(うち内視鏡手術4件)

2015年:8件(うち内視鏡手術7件)

2016年:8件(うち内視鏡手術8件)

2017年:16件(うち内視鏡手術16件)

2018年:22例(うち内視鏡手術22例)

一般的な術後合併症として、術後早期には手術と関連して起こる、縫合不全や膵炎が挙げられます。これらの合併症は、手術の入院中に起こることですので、比較的簡単に対応できます。

一方、先天性胆道拡張症の場合の特徴として、術後しばらく経ってから起こる晩期合併症が比較的多いことが知られています。先天性胆道拡張症の晩期合併症の具体例としては、胆管炎肝内結石胆管がん、膵内結石、膵炎、膵内遺残胆管がんなどが挙げられます。これらの晩期合併症は、術後十数年以上経過してから起こることも珍しくありません。

このため、手術後は晩期合併症のリスクを考えた長期的な経過観察が必要になります。

腹腔鏡手術による合併症の危険性は、開腹手術とほぼ同様だと考えています。手術後は、定期的に通院し、検査を受けていただき、医師に術後経過を観察してもらいましょう。もし、何か問題が起きた場合は、医師と十分に相談し、内視鏡検査や治療なども含めて、必要な治療を受けてください。

胆管炎肝内結石は、手術の影響で発生することもありますが、それよりも重要な原因は、先天的な肝内胆管の拡張・狭窄です。

初回手術で治療できる胆管狭窄は、肝門部の狭窄に限られています。一方で、肝臓のもう少し奥に胆管の狭窄や拡張がある場合、初回手術で治すことは基本的にはできません。肝臓の奥側に狭窄が見られる場合は、分流手術とは別の方法で治療を行う必要があります。

残存する胆管の狭窄などで胆汁の流れが妨げられることによって、10年以上後になって胆管炎や肝内結石が起きることがあります。

詳細は、【術後合併症の胆管炎、肝内結石に対する治療】の項で説明しています。

内臓

手術によって胆管がんの危険性はかなり減ると考えられていますが、根治術後に胆管がんを発生した症例がいくつか報告されています。この理由としては、手術前に、前癌状態*となっていた可能性が考えられていますが、詳細はまだ分かっていません。

*前癌状態……現状ではがんではないものの、そのまま放置するとがんに進行する確率が高いと考えられる病変の状態

記事1や本記事でも繰り返しご説明してきたとおり、先天性胆道拡張症では、膵管と胆管の合流異常が見られます。先天性胆道拡張症の根治手術では、膵内の遺残胆管がないように、十分に胆管を切除することが非常に大切です。

膵内結石、膵炎、膵内遺残胆管がん

しかし、膵内の遺残胆管が大きく残っているような場合や、どうしても膵内遺残胆管を残さなければならなかった場合などにおいて、膵内に膵石ができ、膵炎を繰り返すことがあります。また、膵内にがんが発生している報告(膵内遺残胆管がん)もあります。

膵内にがん

当院では、先天性胆道拡張症の晩期合併症を少しでも減らすために、手術の際に、多くの工夫を行っています。

たとえば、肝門部胆管の狭窄を見つけるために、胆道鏡やフックを用いて丹念に探索することで、多くの狭窄を発見し、狭窄解除を行っています。

  • 胆管形成

https://youtu.be/zS6h5AHQx1k
https://youtu.be/jN6iN_kGO_w

膵内遺残胆管に対しては、手術の際に何度も造影を繰り返すことで、膵内遺残胆管を残さないように工夫しています。

  • 膵内胆管

https://youtu.be/D2vkOdEFvFc
https://youtu.be/lqep-jkm4wQ

また、術後退院前に、MRI検査を行って、膵内遺残胆管の有無、肝内胆管の拡張などを必ず確認し、手術直後の状態を把握して、退院後の経過観察に役立てています。

ダブルバルーン内視鏡を用いた胆管空腸吻合部、肝内胆管の観察
ダブルバルーン内視鏡を用いた胆管空腸吻合部、肝内胆管の観察

手術後に、肝内結石が発生した場合は、バルーンつきの内視鏡と筒(オーバーチューブ)を交互に進ませる“ダブルバルーン内視鏡”を用いた治療が行われます。このダブルバルーン内視鏡は、先天性胆道拡張症の手術で治療できなかった肝臓の奥にある肝内胆管の観察・治療が可能な特殊な内視鏡で、これを用いて胆管結石の正確な部位診断、結石除去、胆管狭窄に対する形成などを行います。

当院では、ダブルバルーン内視鏡を用いた再治療などに関しても、内視鏡に対して熟練した技術を持つ消化器内科と先天性胆道拡張症の経過を把握している小児外科が連携しているため、スムーズな対応が可能です。

先天性胆道拡張症と胆道がん(胆のうがん、胆管がん)には密接な関係があり、残念ながら先天性胆道拡張症の患者さんは、胆道がんを発症しやすいことが証明されています。

胆道がんは、膵液による刺激がリスクファクターと考えられています。1970年代までは、強い腹痛が起きるのを防ぐため、胆管と膵管を分流せずに胆汁を横に流すことで、先天性胆道拡張症の症状は改善すると考えられていました。そのため、手術では胆管と膵管を分流せず、(のう)腫のところに直接腸を縫合して、胆汁の逃げ道を作っていました。

しかし、この手術を受けた後、残った胆管や胆のうに、胆管がん、胆のうがんができるケースが多く見られました。胆管や胆のうに膵液による刺激が加わり、さらには腸液内の細菌がそこに存在することで、がんが発生したと考えられています。

現時点では胆道がんのはっきりとした発生機序は解明されていませんが、きちんと適切な手術をしなければ、悪性腫瘍ができる恐れがあることは想定できます。だからこそ、しっかりと分流手術を行い、先天性胆道拡張症を治療する必要があります。

当院では、小児外科と消化器内科が連携体制を築いており、内視鏡検査に一定の経験を有する消化器内科の医師が小児にも内視鏡検査を行っています。さらに、小児外科での治療においては、低侵襲性な腹腔鏡下手術を行っています。

先天性胆道拡張症の分流手術を受けた後は、何歳になっても(成人になっても)、経過観察が必要です。前に述べた肝内結石や胆道がんなどの合併症を、術後十数年以上経過してから発症する可能性があります。そのため、途中で病院の受診をやめないように注意してください。

当科では先天性胆道拡張症術後の小児から成人までをしっかりとフォローするための医療を、外来の患者さんに提供しています。先天性胆道拡張症の手術を受けた患者さんに対しては、術後経過や検査計画の検討を、毎週医局員全員で行っております(2019年8月現在)。

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