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胃切除術後障害-術後に必要なケアとは?
胃を切除したあと、日にちが経てば食事がとれるようになるといわれています。しかし実際には、他の器官が胃の代わりに消化・吸収を担うようになることはありません。栄養を補給するためには、基本的には消化態...
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胃切除術後障害-術後に必要なケアとは?

公開日 2018 年 05 月 18 日 | 更新日 2018 年 05 月 23 日

胃切除術後障害-術後に必要なケアとは?
青木 照明 先生

汐留みらいクリニック 顧問

青木 照明 先生

目次

胃を切除したあと、日にちが経てば食事がとれるようになるといわれています。しかし実際には、他の器官が胃の代わりに消化・吸収を担うようになることはありません。栄養を補給するためには、基本的には消化態栄養剤や消化酵素薬による補助が必要です。栄養を吸収させるためには、筋力トレーニングなどの運動が欠かせません。その具体的な方法をお伝えします。

今回は、胃を切ったあとに必要な食事や病院でのサポートについて、汐留みらいクリニック顧問 青木照明先生にお話を伺いました。

胃切除術後の課題

診察

術後の症状に注目しづらい

2018年現在、医療技術の発達により胃切除術の技術は確立されています。たとえば、手術前の診断技術の進歩により、正確にがんのタイプを評価してより少ない負担でがんを切除できるようになりました。手術時間や入院期間は短く済み、10~14日ほどで退院できることが一般的です。

しかし、胃を切ることで胃がんなどの病気を治療するだけではなく、術後の生活についても計画することが大切です。記事1『胃切除術後障害- 胃を切った人の後遺症とは?』でも述べたように、胃を失うと新しい病状が発生するためです。

術後の指導に十分な時間が確保できない

胃切除術後障害を和らげるには、自宅での食べ方や栄養摂取の指導が必要です。また、術後にはかかりつけの医師などとよく話し合っていくべきだと考えられます。絶えず交流を持っていれば、胃切除術後に発生するさまざまな症状に対応しやすくなるからです。

しかし、以下の理由から、医師と患者さんがゆっくり話す時間をなかなか確保できないことが課題となっています。

  • 1日に多くの患者さんが訪れる病院では、診察時間を長くとることが難しい
  • 生活上の相談などには保険の支払いが適用されないことが多い
  • 検診センターでがんが発見された場合、かかりつけの医師がいないことがある

など

自学自習での自己管理が必要

以上のように、胃を切る手術と術後のケアとは乖離する傾向があります。そこで、術後のケアについては、患者さんが自ら学び実践する自学自習が大切になります。

胃を切ったあとは気力が落ちてしまい、積極的な自学自習が難しい方も多いかと思いますが、「アルファ・クラブ」のような患者会を利用するなど、自分にあった方法で術後のケアに取り組んでいきましょう。

「アルファ・クラブ」とは?

胃を切った人の友の会「アルファ・クラブ」は、医師と患者の話し合い、患者同士の助け合いをモットーとする会です。手術後のケアをなかなか受けられない医療難民ともいうべき患者さんのために1982年に創設されました。

胃切除術後のケア-食欲を維持する方法

楽しい食事

栄養を体に取り込むためには食欲を維持することが重要です。しかし、胃を切ったあとには「食べたくても食べられない」「まったく食欲がない」という状況に陥ることがあります。自覚的後遺症状は軽くても、栄養失調による体重減少や身体機能の低下などが起こり、寝たきりの状態になってしまう恐れがあります。

退院後は以下のような方法を利用して、おいしく食べられるようにケアしていきましょう。

脳のトレーニング

胃を切ったあとにはつらい後遺症があらわれるため、食事の量が減ってしまう方がいます。また、それだけでなく、胃を切除したことにより食欲そのものが失われてしまう場合があります。食欲がなくなる原因として、「グレリン」というホルモンの低下が挙げられます。

「グレリン」とは?

グレリンは、主に胃から分泌されて、食欲を促したり、成長ホルモンを出させたりする役割を担うホルモンです。胃を切除するとグレリンのはたらきの多くが失われるため、食欲が低下すると考えられています。

食欲を維持するためにはグレリンの分泌を増やすことが効果的です。グレリンは、胃だけでなく膵臓や脳の視床下部からも分泌されるため、食べることを意識するという脳のトレーニングが効果的です。術後3か月かそれ以上の期間、消化酵素(消化を促進する薬剤)を飲みながら、食べたい物を食べていってください。

手術後100日間の食事プラン

食欲を維持するためには、食べ物がきちんと体に入って「おいしい」と感じられるような、本人にあった食べ方をみつけることが重要です。おいしいと感じられればだんだん食欲も出てきます。

胃を切除すると、術後100日間(約3か月)のうちに体重減少などの症状が現れることが多いため、この時期は食事に気を付けて乗り切りましょう。

<手術後100日間の主な食事プラン>

  • 退院1日目…焦らず少しずつエネルギーを補給する。
  • 退院14日後…1日5,6回に分けて、少量ずつよく噛んで食べる。
  • 退院30日後…食事量が増えるため下痢や腸閉そくに注意する。
  • 退院45日後…さまざまな食品から栄養素をとる。
  • 退院60日後…食べたものをしっかり吸収させ、運動をする。
  • 退院100日後…自分に合った食べ物や食べ方を探していく。[注1]

[注1]…青木照明(監修)『胃手術後の100日レシピ 退院後の食事プラン』女子栄養大学出版部.2010.127p.

「腸瘻」という選択肢

胃の役割が回復するまでの期間を乗り切るために、「腸瘻(ちょうろう)」を作るという選択肢があります。腸瘻とは、腸に穴をあけてチューブから栄養を入れる方法です。ボタン型の腸瘻を造設すれば、ボタンを閉じることによって普段通りの生活が可能になります。腸瘻を作ることで、摂食行動と消化運動(分泌・促進・消化・吸収)ができるようになれば、胃の役割は回復していきます。

腸瘻は、日本では一般的な技術です。しかし、胃全摘術の後に実施する方法としては保険適用されておらず、現在はまだ普及していません(2018年時点)。

胃切除術後のケア-栄養管理

食事

管理栄養士と医師に相談

栄養を管理する方法については、管理栄養士や医師のサポートが必要です。希望すればサポートを受けられることがあるため、病院で相談してみましょう。

1日何kcalをどの食材から摂取すべきか、どんな食事がよいかということは、管理栄養士にアドバイスしてもらいましょう。しかし、患者さんの状態によっては、管理栄養士が勧める食材を吸収できないことがあります。その場合は、食材を消化させる薬剤(消化態栄養剤や消化酵素薬)を医師に処方してもらいましょう。

消化態栄養剤や消化酵素薬の服用・補充

人によって異なりますが、基本的には消化態栄養剤*や消化酵素薬*の服用・補充が必要です。腸が胃の代わりをして消化・吸収を担えるようになることはないからです。失われた胃のはたらきを補うために、消化酵素薬を常用することは不可欠です。

病気が治ったら薬はなるべく飲みたくないと思われる方もいるかもしれませんが、処方されたらきちんと飲むようにしましょう。飲むときは、食事と消化酵素薬がよく混ざるような状態にして服用すると効果的です。

消化酵素薬…小腸の消化を助ける薬剤。

消化態栄養剤…小腸で吸収できる状態に成分が調整された栄養剤。

栄養剤や高カロリー流動食の利用

胃を切ったあとは、少量の食事から栄養補給できるように工夫が必要です。そこで、栄養剤や高カロリー流動食が処方されることがあります。処方されたら以下のことに注意が必要です。

飲めない時期がある

栄養剤や高カロリー流動食を飲んでも、下痢をしたり、気持ち悪くなり飲みこめなくなったりする場合があります。

胃を切除して栄養を吸収できない状態が続くと、栄養を吸収するはたらきのある「絨毛」の機能が低下します。絨毛を絨毯にたとえると、フカフカした毛におおわれた状態からツルツルした状態になることをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。ツルツルした状態では、高濃度の栄養剤や高カロリー流動食を吸収できません。使用するタイミングについては医師と相談しましょう。

飲み方にコツがいる

栄養剤や高カロリー流動食は、飲みにくくて受け付けないという方も多いでしょう。どうしても飲むのがつらい場合には、違う味のものを試してみる、牛乳やココアなどからカロリーを補給するなど、別の方法を考えていきましょう。

ビタミンB12や鉄の摂取

胃切除後障害のひとつに貧血が挙げられます。貧血のなかでも、鉄の吸収不良による「鉄欠乏性貧血」の場合は、鉄の補充が必要です。ビタミンB12などの吸収不良による「大球性貧血」の場合は、ビタミンB12の補充が必要です。いずれも鉄剤やビタミン剤を飲むだけでなく、食事から取り入れるように工夫していきましょう。

体重管理をすること

自分の栄養状態は、体重をみれば確認することができます。まずはBMIを調べて、自分の標準状態を計算してください。そして、手術前の体力や体重を考慮して目標を定め、毎日体重を測るようにしてください。目標となる体重は人によって異なります。

体重が安定していれば心配はいりませんが、術前と比べて急激に体重が減っていくときには注意が必要です。お薬を利用したり、運動によって栄養の吸収を盛んにしたりすることで、「痩せ」を防ぎましょう。

胃切除術後のケア-食事のとり方

楽しい食卓

少量ずつよく噛むこと

胃を切ったあとは、少量を一日中食べ続けるくらいの気持ちで食事する「少量頻回」が基本になります。少量ずつよく噛むことにより、以下のような効果が期待できます。

  • 唾液腺から消化酵素が出てくる
  • 噛む動作によって味を楽しめる
  • 食べる動作によって食欲が出てくる

など

流動食には注意

胃のはたらきが失われているときは、少量ずつよく噛むことが基本です。そこで、消化のよい食事としてイメージされやすいおかゆなどの流動食には、実は注意が必要です。噛まなくても飲み込めることから一度にたくさん飲んでしまいやすく、腸への急速な落下による苦しい症状(ダンピング症候群)が起こる恐れがあるためです。

たとえば片手一杯分のおかゆを一気に飲むよりも、親指の先くらいの量のご飯をよく噛んで食べるほうが、消化吸収しやすくなります。

習慣どおりの食べ方には注意

病気が治ったからといって、何でも食べてしまうことは避けましょう。胃切除術を受けたあと、それまでのような習慣どおりの食べ方をしようとしても、下痢をしたり吸収できなかったりすることがあるためです。

胃切除術後のケア-運動

ジョギング

食事と運動が大切

栄養補給のほか、運動も重要です。食べる・吸収する・エネルギーを蓄える・蓄えたエネルギーを使って身につける、というところまでが一連のつながりとして必要となります。食べるときは、食べ物の消化吸収の仕組みをよく考えながら食べるようにし、蓄えたエネルギーを使うためには必ず運動をしてください

筋力トレーニングが有効

術後のケアに必要な運動としては、体を柔らかくするストレッチではなく、筋力トレーニングが有効です。ボディビルダーがするようなダンベル体操や、スポーツジムでの筋力トレーニングもお勧めです。

また、体を鍛えることで、以下のような問題を予防することも可能です。

  • 筋肉の萎縮
  • 神経、循環器系の反応や循環の異常
  • 急激な食後高血糖、低血糖症状

など

患者さんへのメッセージ

青木先生

胃がなくなったという状態は、一生涯続きます。胃がんが治ったからといって「もう大丈夫だろう」と過信しないことが大切です。胃を切除したあとに新たな胃が生えてくることはありません。胃がなくなったときに腸が代わりをすることもありません。

胃を切られた方は、胃のある人たちと同様に適切な“栄養補給と運動により約10年の差が生ずる”といわれております。食事のとり方に気をつけたり、筋力トレーニングをしたりして、術後のケアに取り組んでいってください。

胃切除後障害 (青木 照明 先生)の連載記事

消化器病(特に胃・十二指腸潰瘍、胃・食道逆流症、食道疾患)の権威。東京慈恵会医科大学外科学講座主任教授を経て、2002年より健仁会益子病院、汐留みらいクリニック顧問医師。アルファ・クラブ「胃を切った人友の会」には設立時より同顧問医師として参画し、2005年より同会長。

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