院長インタビュー

静岡県の精神科診療体制はどうあるべきか-静岡県立こころの医療センターが模索する“これから”

静岡県の精神科診療体制はどうあるべきか-静岡県立こころの医療センターが模索する“これから”
村上 直人 先生

浜松医科大学 精神科 医師、地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こころの医療センター 病院長

村上 直人 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年11月26日です。

静岡県立病院機構 静岡県立こころの医療センター(以下、静岡県立こころの医療センター)の院長を務めておられる村上直人先生は、精神科の医師として診療の現場に立ち続けると同時に、組織の長として地域における精神科診療の発展と充実・浸透にも努めてこられました。

村上先生に、静岡県立こころの医療センターの概要と特徴、これからの精神医療に求められる展望や課題などについてお話しいただきました。

病院外観 静岡県立こころの医療センターよりご提供

当院は「県立精神病院養心荘」として1956年11月に開院しました。その後、病床数変更などの大きな変化がありましたが、2009年4月地方独立行政法人静岡県立病院機構への組織移行を経て、現在の姿となりました。

平成に入ってからの当院の歴史を振り返るうえで、病床のダウンサイジングを大幅に行ったことと司法精神医学を担い始めたことの2点は、特に大きなターニングポイントだったと思います。

当院では、2008年と2013年の2回にわたって精神科救急病床を開設すると同時に一般病病床を削減することで、医師や看護師などのスタッフを減らすことなく7病棟から4病棟へと大幅なダウンサイジングを行いました。

かつて年余にわたる長期入院による治療が当たり前とされていた時代がありましたが、やがて長期入院による患者さんの身体能力や生活能力の低下等の弊害が問題視されるようになりました。

1980年代より、千葉県精神科医療センターが実践していた「精神疾患を有する患者さんの様子が思わしくなければ早い段階で入院治療を促して、家庭や社会復帰の時期を早めよう」という精神科救急の考えが次第に全国に広まり、当センターでも2008年に精神科救急病棟を立ち上げました。入院期間が短期になるとともに、患者さんへの治療やサポートをより手厚く、濃厚になり、従来の精神科の診療体制に一石を投じるものでした。

医療観察法が2005年7月に施行されたことを受けて、静岡県内における司法精神医学の中核として保護観察所、保健所、警察や裁判所との連携を図りながら、対象者の治療、社会復帰に努めています。

医療観察法制度とは、心神喪失や心神耗弱と呼ばれる状態で殺人や放火など重大な他害行為を行った方に対して、適切な医療の提供と社会復帰促進を目的とした制度です。この制度により入院による加療の必要性が認められると、厚生労働省の指定を受けた指定入院医療機関が対応にあたります。

当院は、指定入院医療機関としての医療の提供や観察・指導など処遇をつうじて、症状の改善と再発の防止、社会復帰への援助を行っています。

敷地内の様子 静岡県立こころの医療センターよりご提供

精神科の対象となる疾患は、統合失調症ばかりでなく、うつ病双極性障害などに代表される感情障害を診る機会が多々あります。また治療抵抗性の統合失調症の方や、複数の精神疾患を合併している方などが、かかりつけ医から紹介されることもあります。

さらに認知症が進行ともに行動・心理面の周辺症状が激しくなりご家庭や施設では対応が難しくなったケースや、自閉症等の発達障害の方が成長するなかで受けた二次障害から事例化した方も受診されます。

このように、我々が対象とする病気は多様化しつつあります。

精神科救急医療は、必要とされる医療介入の程度によって一次、二次、三次に分類され、後半に進むにつれてその度合も大きくなります。

その内容は、興奮や暴行、自傷行為や自殺企図、アルコールなどへの依存、認知症など老年期精神障害などさまざまで、当院では精神科三次救急の担い手として患者さんを受け入れることが多いです。

静岡県では、浜松医科大学附属病院が中心となって「静岡県摂食障害治療支援センター」を立ち上げ、県内での診療ネットワークを構築しました。当院は連携医療機関として摂食障害の治療や生活サポートなどにも取り組んでいます。

包括的暴力防止プログラム(CVPPP)とは、病気の影響を受けて興奮状態だったり暴力的になったりなど攻撃的になっている患者さんに対して、物理的に抑え込むことを目指すのではなく、暴力発生の予測から鎮静、心理的サポートを行うプログラムです。新人研修や院内研修などでの習得に努めています。

村上先生近影 静岡県立こころの医療センターよりご提供

今後の精神科救急などの精神科診療体制を考える上で、いくつかの問題点があります。急性期治療を終えた患者さんを受け入れる体制の整備が遅れていること、さらに少子高齢化、家族の縮小が進んだ結果、身近な方からのサポートが不足する状況が、深刻になっています。しばしば、患者さん単身での生活を選択せざるを得ない状況が、多くみられるようになりました。入院治療を終えた患者さんの生活の場が問題になっています。その設備充実が今後の重要な課題といえるでしょう。

在宅医療とは本来、病を得た方が住み慣れた地域で自分らしく過ごすのをサポートするための体制のことを指し、介護や福祉など多分野間での密な連携が特徴です。

当院では在宅医療支援部が中心となり、医師・看護師・作業療法士・精神保健福祉士・臨床心理士が『one for all, all for one』をモットーに連携しあい、ときに関連部門とも協力しながら、「包括型生活支援プログラム」と呼ばれる、通院中もしくは自宅療養中の患者さんやご家族から寄せられる相談への対応・必要な支援の模索や準備・医療面などからの支援を行います。このプログラムでは心身の健康管理を重視していますが、生活の乱れから病状が再燃した患者さんや、病識が乏しいことで自発的に医療機関を受診しない患者さんなど、医療的支援が必要な方に手を差し伸べやすくなる点でもメリットがあります。

同じ精神科診療でも、地域差が少なからず存在します。静岡県における精神科診療もまた、今後どのようなスタンスをとればよいのか模索のさなかにあると感じています。

当院は公立病院の立場から精神科診療に携わる病院ですが、公立・民間問わず地域の医療機関との連携やバックアップを行うと同時に、介護・福祉施設とも協力しすることで、ともに地域の精神科診療を盛り上げていくことができれば、と考えています。

村上先生近影 静岡県立こころの医療センターよりご提供

診療の手法なども時代とともに進化しており、医師からの一方的なものから、情報をある程度開示して、患者さんの意志を尊重しながら患者さんと一緒に考える、二人三脚での治療を行う機会も増えました。

 

精神疾患は決して特別なものでなく、誰でも発症する可能性があります。

治療や各種サポートの整備が進んでおり、早期の段階でしっかり治療すればもとの生活に戻れることを知っていただけるようにすることも、当院が果たすべき目標であり、使命でもあると考えています。

1人でも多くの患者さんに手を差し伸べ続けられるよう、行政や地域の医療機関・関連施設と共に考え連携しながら、これからの精神科診療のあり方を考え、模索していきたいと思います。

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