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赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の特徴 ~食べ物との関連や使えない薬、よだれの対策方法なども解説~

赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の特徴 ~食べ物との関連や使えない薬、よだれの対策方法なども解説~
伊藤 秀一 先生

横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授

伊藤 秀一 先生

目次
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アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返す皮膚疾患です。一般にアトピーと呼ばれることもありますが、アトピー性皮膚炎が正式名称です。

頻度が高い病気であり、日本の小児についての有症率の調査では、4か月児の12.8%、1歳6か月児の9.8%,3歳児の13.2%(906人/6,868人)、小学1年生の11.8%、小学6年生の10.6%、大学生の8.2%がアトピー性皮膚炎をもっています。この病気は、年齢によって皮膚炎が起きやすい部位、皮膚症状、治療法が異なります。とりわけ赤ちゃん(乳児)の場合は管理や治療が2歳以上の子どもや成人と異なります。

本記事では、乳児のアトピー性皮膚炎の特徴や治療法、日常生活での注意点などについて詳しく解説します。

アトピー性皮膚炎は多くの場合、乳幼児期や小児期に発症し、年齢とともに多くが自然寛解する(自然に症状が治まる)とされています。そのため、乳児期に重症であっても、その後も重症のままとは限りません。実際に、生後4か月で症状が認められた患者の70%が、1歳半の時点で寛解していたというデータもあります。ただし、一部の患者は成人型アトピー性皮膚炎に移行するとされています。

乳児のアトピー性皮膚炎では、まず頬、おでこ、頭の露出した部分に乾燥、赤みを生じます。悪化すると赤みが強まり、丘疹(きゅうしん)(盛り上がりのある湿疹)と同時にかゆみも現れます。さらに、皮疹が顔面全体、首、(わき)、肘の内側、膝の内側、胸やお腹、背中、四肢に広がることもあります。

アトピー性皮膚炎との区別が必要な病気に、新生児ざ瘡や乳児脂漏性皮膚炎があります。

新生児ざ瘡とは、生後2週間頃から主に顔に見られるにきびのような発疹です。一過性で、治療しなくても改善するとされています。

一方、乳児脂漏性皮膚炎は生後1か月頃に、頭や顔に黄色いフケを伴う赤みのある湿疹が現れるのが特徴で、かゆみはないか、あっても軽微とされています。乳児脂漏性皮膚炎は、そのままアトピー性皮膚炎に移行するケースがあるといわれることもありますが、実際は乳児脂漏性皮膚炎の症状が現れた際にはすでにアトピー性皮膚炎が発症している可能性が高いと考えられています。体をかくような動作が見られる、手が届きやすい場所に引っかき傷があるといった場合はアトピー性皮膚炎の可能性が考えられます。

アトピー性皮膚炎の治療は薬物療法、スキンケア、原因・悪化因子の除去の3つを組み合わせて行います。

アトピー性皮膚炎は病気そのものが完治することはないため、炎症のない安定した状態が継続できることを治療の目的とします。乳児の場合、湿疹が治まるとかゆみも引く場合が多いとされています。

炎症を抑える目的で使用されるステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の治療においてもっとも有効で重要な薬剤です。実はステロイドの外用剤(軟膏、クリーム、ローション)は、ステロイドの内服治療で問題となる副作用はほとんど出現せず、安全性が高い薬剤です。医師の指示に基づいて正しく使用することで副作用を予防することもできます。ステロイド外用薬は症状の重症度や年齢によって塗る量や種類(強さ)に違いがあるため、医師の指示の下で正しく使用しましょう。

アトピー性皮膚炎は慢性の病気ですので、症状が治ったように見えても、薬の使用を中止すると再発することは決してめずらしくありません。長期的に薬物療法を行うことが一般的な病気であり、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。皮膚炎が落ち着いた後も、再発を予防するため予防的にときどきステロイド外用薬を塗り続ける治療法もあります(プロアクティブ療法)。

かゆみが強く引っ掻いてしまう場合や眠れない場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服を使うこともあります。タクロリムス軟膏もステロイド外用薬とならんでよく用いられる薬剤ですが、2歳未満の子どもには使用できません。

保湿はアトピー性皮膚炎の治療において、悪化や再発の予防に重要です。皮膚炎のある部位は皮膚の保湿性が低下しているため、保湿性の高い親水性軟膏や吸水性軟膏(ヘパリン類似物質含有製剤や尿素製剤など)を塗布します。少なくとも朝・夕の2回使用すると保湿効果が高くなり、1回は入浴した直後に行うことが望ましいとされています。

近年の研究結果によると、乾燥し傷ついた皮膚からはさまざまなアレルギーの原因になる物質が体内に取り込まれ、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症につながることが明らかになりました。そのため、皮膚炎の有無にかかわらず新生児のうちから保湿外用剤でスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの発症リスクを下げることにつながります。

原因・悪化因子に関しては、ダニ、ハウスダスト、ペット、食物アレルゲン(牛乳、卵など)、汗、乾燥、物理・化学刺激、ストレスなどが挙げられます。汗や汚れは早めにふき取るようにしましょう。また、寝具や部屋の環境を整え、肌に刺激を与えない服を選ぶといった配慮が必要です。また、お気に入りのぬいぐるみもときどき洗濯するとよいでしょう。

食べ物の関連が疑われる場合の注意

乳児の場合、アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが関与している例が多いと考えられています。一部では母親がアレルギーの原因物質を摂取し、母乳を介してアトピー性皮膚炎が悪化することもあるといわれています。しかしながら、食物アレルギーが関与していることが疑われても、母親が原因食物を避ける必要はない場合が多いのが事実です。母乳と食物アレルギーとの関連は、経母乳負荷試験によって判断することができます。

また、乳児に対する不適切な食物制限や除去は栄養不足や栄養障害の原因となり、その結果成長発達の遅れが生じる場合があります。2歳までの子どもの成長発達にもっとも必要なものは、月齢・年齢に見合った必要十分なカロリー量です。そのため、制限食や除去食は医師の指導のもとで行うことが必要です。

乳児のアトピー性皮膚炎に対しては前述した悪化因子の除去やスキンケアのほか、日常生活における乳児特有の注意点もあります。

入浴時は、皮膚の保湿に大切な皮脂を取り除きすぎない配慮が大切です。皮膚の刺激となるような香料や添加物が入っていないせっけんを使うとよいでしょう。

また、せっけんはよく泡だて、首や関節などのしわがある部分は伸ばして揉むように洗います。ナイロンタオルやガーゼは肌に刺激となるため、手で洗いましょう。

さらに、せっけんや汚れが皮膚に残っていると症状が悪化することがあるため、十分にすすぎ、タオルで押さえるように拭き取ります。入浴後は、乾燥を防ぐために早めに保湿剤を塗りましょう。

爪の間にたまった汚れや細菌がアトピー性皮膚炎を悪化させてしまうことがあるため、爪を短めに保ち清潔にするようにしましょう。乳児の爪はとても薄く肌を傷つけやすいため、特に注意が必要です。掻き壊してしまうと、その部位から皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が感染し、とびひ(伝染性痂疹)を起こすことがあります。

乳児の場合、よだれの刺激で口周りの皮膚炎が治らないことがしばしばあります。食事前に白色ワセリンを塗ることで皮膚が守られ、よだれや食べ物の刺激を抑えることができます。

さらに食後は口の周りを清潔にして、保湿も行うようにしましょう。

顔、額、耳は湿疹が起きやすい場所です。前髪や襟足、耳にかかる髪の毛先が皮膚に当たると、刺激で皮膚炎が生じやすくなります。前髪はまぶたにかからないようにし、耳・襟足付近の髪の毛も伸びすぎていないか注意するとよいでしょう。

乳児はほかの年代に比べてアトピー性皮膚炎の罹患率が高いものの、年齢とともに寛解することが多いとされています。しかしながら、症状を早めに落ち着かせることが悪化や慢性化を防ぐために大切です。また、乳児の場合は掻き壊して症状を悪化させやすいこと、使用できない薬があることなど、ほかの年代とは少々異なる点があります。

アトピー性皮膚炎の治療においては、民間療法や自己判断で間違ったケアをしてしまい、その結果子どもの成長発達に悪影響を及ぼしてしまう事例があとを絶ちません。

正しい知識を持つことはどんな病気の治療においても重要ですが、とりわけこの病気において理解しておきたいことは、“頻度が高い病気であること”、“ステロイド外用薬はステロイドの内服薬とは異なり安全性が高い薬剤であること”、“皮膚炎をしっかり治療し保湿することが、ほかのアレルギー疾患の発症の予防になること”、“完治するまでに時間がかかり慢性に繰り返しやすい病気であり治療も長くなること”などです。治療や管理でなどで分からないことがあれば、アレルギーに詳しい医師に相談するとよいでしょう。

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