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子宮頸がんワクチンの効果とは?〜子宮頸がんで亡くなる女性の数を減らすことが期待される〜

子宮頸がんワクチンの効果とは?〜子宮頸がんで亡くなる女性の数を減らすことが期待される〜
井箟 一彦 先生

和歌山県立医科大学 産科婦人科 教授

井箟 一彦 先生

目次
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子宮頸(しきゅうけい)がんとは、ヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれるウイルスの感染によって、子宮の入り口である“子宮頸部”と呼ばれる部分にできるがんのことです。HPVはありふれたウイルスで、性交渉を介してどんな女性にも感染する可能性があります。感染しても自然にウイルスを排除できることも多いですが、一部の女性はHPVの感染が持続することになり、前がん病変を経て子宮頸がんへと進行します。

HPVの中でも子宮頸がんを引き起こしやすい“ハイリスク型HPV”に対してはHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)が開発されており、HPVの感染を予防し子宮頸がんにかかるリスクを減らすことができるといわれています。それではHPVワクチンの子宮頸がんを予防する効果・接種をするメリットと、接種後に起こり得る症状や有害事象のリスクはどのようなものなのでしょうか? また万が一接種後に何らかの症状が出たときはどのようにしたらよいのでしょうか?

※本記事は一般医療ライターが執筆し、当該領域専門医の監修のもと掲載している情報です。

HPVワクチンは、女性を子宮頸がんから守るために世界保健機関(WHO)が主体となり、接種を推進しているワクチンです。子宮頸がんの6〜7割の原因となる2つのHPV(16型と18型)の感染を予防でき、初めての性交渉前までに接種すれば、子宮頸がんの前がん病変のみでなく、30歳以下の若い女性の子宮頸がん(浸潤がん)の発症を劇的に(約80〜90%)減少させることが判明しています。HPVワクチンの接種を受ける人と子宮頸がん検診を受ける人の割合をそれぞれ約90%と約70%まで高めることで、今世紀中に子宮頸がんで亡くなる女性の数を大幅に減らし、世界的にこのがんを根絶させることが期待されています。

2019年時点で、80か国以上の国でHPVワクチンが国の公費による予防接種プログラムとして導入されており、9〜14歳ぐらいでの接種が推奨され、一部の国では接種率が80〜90%を上回っています。またHPVは性交渉により、男性も女性も感染の機会があるありふれたウイルスであり、子宮頸がんのみでなく、外陰がん、腟がん、中咽頭(ちゅういんとう)がん、男性の陰茎がんなどの原因にもなるウイルスであり、欧米を中心とした先進国では、男性も女性もともにHPVワクチンの接種が行われています。

上記のことから日本でも、2010年から公費によるHPVワクチン接種の助成事業が開始され、2013年から国が定める定期接種の対象とし、中学1年生(一部は小学6年生)から高校1年生(12〜16歳)の女性を対象にして、公費による接種が始められました。

HPVワクチンは、感染(初めての性交渉)前に接種することが望ましく、16歳頃までに接種した場合がもっとも効果が高いと考えられています。ただし16歳を過ぎてからでも、ある程度の有効性が保たれることが分かっています。

一般的に17歳以上になると性交渉の経験がある女性の割合も少しずつ増加するため、HPVワクチン接種による子宮頸がんの予防効果は年齢とともに少しずつ弱くなると考えられています。しかし、最近ではワクチン接種をしない人に比べて有意差をもって子宮頸がんの予防効果があるという複数の報告が出されています。また、日本ではすでに性交渉の経験のある女性や16歳までに接種をしなかった女性でも、25歳ぐらいまでは積極的に接種を検討することがすすめられています。

実際に海外の報告では、45歳までにワクチンを接種すればある程度の効果が期待できることが分かっているほか、アメリカでは26歳までの女性にワクチンの接種を推奨しています。また16歳以上の方がHPVワクチンを接種する場合でも、安全性について明確な懸念点はないと考えられています。

現在日本で使用可能なHPVワクチンには、2価ワクチン、4価ワクチン、9価ワクチンの3種類があります。このうち公費による定期接種として使用できるのは、2価ワクチンと4価ワクチンです。これらのワクチンを接種した後に起こり得る有害事象*には、以下のものがあります。

MN作成

上記のほか、非常にまれに以下のような重い副反応*も報告されています。

*有害事象:ワクチンと直接関係していない症状も含む望ましくない事象のこと
*副反応:有害事象の中でもワクチンとの関係性が証明されている反応のこと。ほとんどが一時的な症状で、ワクチンの有効性がリスク(副反応)よりも上回る場合に接種が認められる。

ワクチン接種後に副反応疑いとして報告された長く続く広範囲の痛みや手足が動かしにくい、手足がけいれんのように震えるなどの多様な症状については、報告直後から厚生労働省の専門部会における専門家による調査が進められました。調査の結果、これらの症状の多くは、脳や神経そのものの器質的な病気ではなく、機能性身体症状*であるとの見解が出されました。これらの症状は接種時の痛みや不安を含む何らかのストレスが原因となる場合もあるが、原因がはっきりしない場合もあるとされています。

また、このような多様な症状は、子宮頸がんワクチンの接種歴がない女性にも、ワクチン接種歴のある女性と同様に、一定数報告されていることが全国疫学調査で示されました。実際に名古屋市による大規模調査(名古屋スタディ)においては、接種した人と接種しなかった人との間で、24項目にわたる多様な症状の頻度を調べたところ、両群において発生頻度の有意な差が認められなかったことなどから、HPVワクチンの接種とこれらの症状との因果関係を示す明確な根拠は示されませんでした。

このようなことからも、厚生労働省では安全性について特段の懸念が認められないとし、ワクチンによる有効性が副反応のリスクよりも明らかに上回ることを確認し、HPVワクチン接種の積極的な勧奨(対象者に対する個別通知による推奨)が2022年4月より再開されました。

*機能性身体症状:何らかの身体症状はあるものの、画像検査や血液検査などを受けた結果、その身体症状に合致する異常所見が見つからない状態。

世界的には、WHOが世界中の接種データを基に常に安全性の解析を行っており、これまでに、子宮頸がんワクチンの接種を差し控えるような安全性の問題は認められないとの結論を示しています。

WHOは2019年に“接種ストレス関連反応”という概念を提唱し、HPVワクチンを含むあらゆるワクチンの接種において、ワクチン接種前後に生ずる不安・恐れ、それをきっかけに生ずる一連の痛みや恐怖症・身体変化、急性ストレス反応として過換気による呼吸困難感や血管迷走神経反射によるめまいや失神、その後にはさまざまな神経症状的反応が起こり得ることを示しました。またこれらの症状は、周辺や社会的環境の影響を受けやすいこと、これらの反応を防ぐには、接種者(医師・看護師など)からの丁寧な説明・コミュニケーションによる緊張や恐怖の軽減、信頼の構築が重要であるとしています。

厚生労働省は、HPVワクチンの接種後に、万が一何らかの症状が出現した場合の診療・相談体制についても整備をしてきました。

まず、接種後に何らかの症状が起きて不安な場合は、接種してもらった接種医を受診し相談しましょう。そこで必要であれば全国47都道府県に80数か所ある大学病院や中核病院などの協力医療機関に設置された専門の窓口でいつでも相談・紹介を受けられます。さらに厚生労働省の専門医療機関への紹介も可能な体制が構築されたので、必要に応じて紹介を受けることも可能です。

また、接種にあたっては、厚生労働省や各自治体、関連学会などの作成したリーフレット(接種対象者向け・保護者向け・接種医向けなど)が作成され、各ホームページなどからいつでも閲覧することが可能です。このほかにも、自治体による対象者への個別の周知体制も整備され、接種にあたって十分な情報提供が受けられるようになっています。

厚生労働省:HPVワクチンに関する情報提供資材

小学6年生~高校1年生の女性は、公費助成により接種を受けることができます。

2022年4月には、これらの女性に対して、HPVワクチンに関する情報や公費による定期接種の対象であることを、法律に基づいて自治体から対象者と保護者に個別に周知が行われました。予診票も同封されるので、これらの情報をもとに接種希望者は接種を受けることができます。現在日本で接種可能なHPVワクチンは2種類あり、いずれも6か月のうちに合計3回の接種が必要になります。

また前述のように、高校2年生以上の1997年度~2005年度生まれの女性(令和4年(2022年)度に17歳から25歳の9学年)で、HPVワクチンの接種機会を逃してまだ接種していない女性や、接種を1回ないし2回で中断してしまった女性も、令和4年度から3年間は公費で接種を受けることが可能です(キャッチアップ接種)。

詳しくは各自治体のホームページなどをご参照ください。

原則として自己負担での接種になります。自由診療のため、費用は医療機関によって異なり、3回合計で5~6万円程度になると考えられます。

接種を受ける医療機関については、小児科、内科、産婦人科などがありますが、HPVワクチンを取り扱っているかどうかを含め、医療機関に確認するようにしましょう。

また国内では男性への4価HPVワクチンの使用は承認をされていますが、公費での接種は受けられません。

HPVワクチンは、世界中の国で接種がすすめられており、子宮頸がんによって死亡する女性の数を減らし、治療により子宮を失ったり妊娠できなくなったりしてしまう女性を減らすことが期待されています。日本でも令和4年度から、その有効性と安全性に懸念がないことが確認され、ワクチン接種の積極的な推奨が再開されました。

どんなに有効なワクチンでも全ての人に有害事象が現れないと言い切ることはできないため、ワクチン接種で得られる利益と、頻度は少なくとも起こり得る副反応のリスクを、接種を受ける本人とその保護者が十分に理解したうえで接種すべきか決めることが大切です。

接種にあたり心配なことがある場合は、かかりつけの医師に相談してみるようにしましょう。

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