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地域医療の課題は医療の効率化。地域医療の第一人者が考える解決策とは?

地域医療の課題は医療の効率化。地域医療の第一人者が考える解決策とは?
吉新 通康 先生

公益社団法人地域医療振興協会 理事長

吉新 通康 先生

この記事の最終更新は2016年11月08日です。

過疎化による病院の統廃合、医師不足などの課題が浮き彫りとなっている地域医療。以前は地域医療といえば、医師の不足している地域で新しい医療を展開することでしたが、より高齢化や過疎化が進む現代では新たな解決策が求められています。

地域医療の第一人者である地域医療振興協会・吉新通康理事長が提言する地域医療の課題解決策は、医療の効率化です。ついに40兆円を超えた医療費の削減と医師不足の解消など地域医療が抱えていた課題のいくつかは、地域医療振興協会が行っている新たな取り組みによって解決できる可能性を秘めています。この新たな取り組みについて地域医療振興協会・吉新通康理事長におうかがいしました。

地域医療とは、行政と医師・看護師といった医療従事者、そして地域住民が三位一体となって地域の限られた資源を最大限に活用し、保険医療や包括的医療を計画・実践・評価する医療です。このマネジメントサイクルが地域医療であるといえます。

地域医療は時代や環境によりどんどん変わります。過疎化が進み、その地域の病院の経営が維持できず廃業・統合されたという例もあります。こうした際に行政・医療従事者・地域住民が一体となって変化し地域医療を支えていくことが重要なのです。しかし現状は行政が医療を一方的に進められないことや、関係者のまとまった合意のもと協力体制を確保し一体となって実践するというようなことができていない部分もあります。現状を踏まえながら可能なものから計画・評価・実践していくものが地域医療であると考え、私たち地域医療振興協会は地域医療に取り組んでいます。

看護研修の様子(地域医療振興協会 提供)

地域医療の課題や問題点は、地域医療を行ううえでのすべてのフェーズに存在します。行政にも、医療従事者にも、住民にも、です。地域医療の実践でもっとも大切なのはこの三者が合意できる医療を実現することです。しかし、実際には、医療の特質でしょうか、完全に満足しているということはありません。それはへき地だけでなく都市部でも同じです。

そこで重要になるのがいかに医療費を抑えながら皆が満足できる医療を実現するか、ということです。その解決策のひとつが、かかりつけ医構想です。日本もいずれはイギリスのNHS(国民保健サービス)のように予めかかりつけ医を選んで、基本的には人頭制でその医師にみてもらう、という形になるのかもしれません。

このNHSのようなかかりつけ医構想は、へき地では医療の効率化も期待できます。現在、日本の場合は診療科ごとに医師がわかれているため、一人の患者さんに対し何人もの専門医がかかりつけになっています。確かにはじめから専門医のところへ行けばレベルの高い治療を受けられ患者さんにとってはメリットがありますが、医療現場からみると時間もコストもかかってしまい非効率です。そこで総合診療医などのかかりつけ医によるプライマリ・ケア機能を高めて効率化を図る動きがへき地を中心にはじまっています。このあたりの議論は専門医認定の動向が大きく影響するでしょう。

他にも、医療の効率化のために地域では電子カルテなどの医療情報を共有しようという動きもあります。電子カルテも進化しており、医師に診療介助・支援するシステムもできています。例をあげると、採血データを診断してデータの異常や医師に処方漏れなどがあった際に教えてくれるといったものです。アメリカのオレゴン健康科学大学ではすでに診療に活用されています。このようにAI(人工知能)の力を借りることで医療のボトムアップを図るという興味深いことが今、起きています。

地域医療振興協会ではNDC(特定ケア看護師 (仮称))という、21区分(38行為)をすべて行うことのできる看護師の養成を2015年からはじめました。医師の手順書のもと、特定行為が可能な看護師を増やすことで医師の負担を減らし、また看護師の専門性を高めて医療の質の向上をねらいます。現在の法律では人口1500人以下の集落、300人以下の島では医師を置くことは難しい状況です。それでも住民からの要望はありますので、地域医療振興協会では1か所のみですが人口200人の島にも医師を派遣しています。しかし、1日3人程度しか患者さんは来ませんから、コスト面からすると厳しい点があることも否めません。

そこで先ほどのNDCと電子カルテシステム、テレビ電話会議システムを活用して過疎地域や医師を置くにはコスト的に難しい地域に、医師を派遣するのと遜色ない医療を提供していけるのではないかと考えています。我が国のような山間へき地離島の多い国ではこの取り組みは重要ではないでしょうか。

このように専門性の高い看護師とテクノロジーを組み合わせることで、医師不足解消の一助になるでしょう。専門性の高い看護師の例として、アメリカではへき地などで一定の手順書で診断や治療が行えるNP(特定看護師)と呼ばれる医師と看護師の中間に位置する職があります。日本では医師が行っている病棟の患者さんの入退院の管理なども手順書のもと、NPが行っており、治療計画を作るなど、診断・治療に際し高度な知識や技術を要するときは医師が担当しているようです。すべての診断・治療を医師が行うのではなくスタンダードな治療や看護師が管理できる患者さんの管理は、こうした訓練された専門性を持つ看護師などに任せ、医療効率と医療コスト、双方を改善する施策が現在の課題解決策として重要です。

フライングドクターサービス格納庫(地域医療振興協会 提供)

すべての地域の医療に偏りが出ないよう、NDCや電子カルテシステムなどのITテクノロジー、そして地域医療振興協会が行っているヘリコプターによる離島への医師派遣など、さまざまな手法を駆使し、医療効率を高めることが地域医療にとって重要でしょう。地域医療振興協会の目的は医療の確保と質の向上を通じて地域の振興を図ることです。これからますます高齢化が進行し人口が減っていくことは明らかで、一部ではその状況を悲観的にみる向きもあります。しかしながら先ほど述べた医療効率を高める施策を実現できれば、安心して日本中どこでも皆さんが安心して生活し、充分な医療を受けられる仕組みができると考えています。

  • 公益社団法人地域医療振興協会 理事長

    吉新 通康 先生

    約30年間にわたり全国のへき地を中心とした地域医療の確保と質の向上に尽力してきた。各地域の現場に見合った施設運営や医師派遣、独自の教育システムによる総合診療専門医の育成などに取り組んでいる。

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