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地域医療を救うためにー地域医療振興協会の取り組み

地域医療を救うためにー地域医療振興協会の取り組み
吉新 通康 先生

公益社団法人地域医療振興協会 理事長

吉新 通康 先生

この記事の最終更新は2016年11月09日です。

地域医療の課題は医療の効率化。地域医療の第一人者が考える解決策とは?」では、地域医療における諸問題を解決するための方法について、解説しました。その日本の地域医療の中枢を担っているのが、地域医療振興協会です。

「医療に恵まれない地域の医師の確保と質の向上を通じて地域の振興を図る」ことを目的に日々地域の医療にあたる地域医療振興協会がもたらす、地域医療とはどんなものなのでしょうか。地域医療振興協会の取り組みや設立の経緯などを、地域医療振興協会・吉新通康理事長におうかがいしました。

 

地域医療振興協会は自治医科大学(以下、自治医大)の卒業生を中心とした「我が国の地域医療の確保と質の向上」を目的として地域の振興を図る活動をしている組織です。1985年に社団法人設立準備委員会として自治医大の卒業生を集め発足、1986年に認可を受け社団法人地域医療振興協会として活動をスタートしました。

自治医大には義務年限といい、卒業後は一定期間自身の出身都道府県に戻り知事の指示するへき地等の公的医療機関に医師として勤務する義務が定められています。地域医療振興協会とは、その義務年限が明けても引き続き義務内医師と連携して地域医療に貢献したいという自治医大卒業生が集ってできたものです。もちろん他大学の方もたくさんいます。

 

地域医療振興協会の活動は大きく以下にわけられます。

・医師派遣・病院運営、医療従事者の育成などの地域医療の確保・向上

・健康な地域づくりを目指す地域医療の調査・研究

・地域医療の研究会や情報提供などの地域医療の啓発・普及

地域医療というと医師の派遣ばかりに目を向けられがちですが、私たちはそれだけでなく過疎化などにより地域の病院経営が難しくなった病院を立て直したり、医師や看護師の研修・育成などにも力を入れています。そのためへき地の病院や診療所、学校の運営、社会福祉事業、児童デイケアなど展開している事業は多岐にわたります。

医師の派遣は一時的な解決策に過ぎず、このようにさまざまな事業を展開することで長期的にみて地域医療の確保と質の向上が図れるよう、活動しています。

 

ヘリコプターを使用した医師搬送支援(地域医療振興協会 提供)

現在、地域医療振興協会ではヘリコプターを使った医師搬送支援を行っています。特に離島の多い長崎県で実施しており、地域医療振興協会の運営病院の医師や長崎大学の医師を乗せて上五島やその周辺の島に医師を派遣します。ヘリコプターでの派遣は従来の船での派遣と比べ、天候などの条件が許せば1日に数か所の島の病院・診療所を回ることができ、非常に効率がよいのです。

今までは前日の船の便で島に行き翌日診療、午後には島を離れるというように1日に1つの診療所、しかも3〜4時間という短い時間しか診療ができませんでした。しかしヘリコプターでの派遣の登場によって午前にAの島の診療所、午後にBの島の診療所というふうに1日にいくつもの島の病院・診療所を回れます。

こうした交通手段の活用によって都市とへき地の距離を縮め、医療の効率化を図ることで地域医療をより充実させる活動をしています。

地域医療振興協会ではNDC(特定ケア看護師(仮称))という医師の手順書のもと21区分(38行為)のすべてを行える看護師の養成を2015年からはじめました。医療コストや医療効率面からみて医師を派遣することが難しい地域に専門性の高いNDCを派遣することで、一定の範囲内での診療を可能とし医療の効率化を図ります。NDCに加え、AI(人工知能)を用いた診療介助のできる電子カルテシステムや、遠隔地にいる医師とリアルタイムで連絡のとれるテレビ電話会議システムなどを併用することで、一部分ではありますが、住民の方が満足していただける医療を地域に提供していきたいと考えています。

先の東日本大震災でも、女川町(宮城県牡鹿郡)に延べ7000人もの医師や看護師などを毎日のようにヘリコプターやバスで派遣しました。そこで痛感したのは、被災地の病院に医師や看護師を派遣しても病院自体が被災していて充分な診療ができなかったということです。

そこでCTやMRIなどの医療機器を搭載したクルーザーをつくり、そこを病院として機能させ、必要な医療を提供できればという夢を皆で話しています。

 

私が自治医大を卒業した頃に、自治医大不要論が出てきたことがありました。その頃はちょうど各県に新設医科大学が増えつつあり、近く地方の医師は足りる、さらに自治医大の卒業生は地方公務員として勤務するため、景気のあまり良くなかった1980年当時は公務員の増加が財政を圧迫する、歯止めが必要と考えられていました。そのため自治医大からの医師は要らないといわれたのです。せっかく地域医療に貢献するために学んできた医師たちが必要とされない現状を、なんとか打破したいとそのとき強く思いました。

しかし実際、医師不足は解決することはありませんでした。つまり、医師の不均衡分布・偏在があったのです。医師数だけでなく、専門や分野での不均衡も深刻でした。この不均衡分布は義務年限中に調整するか、義務年限終了後に調整するか、という二択がありました。その不均衡分布の是正を自治医大の卒業生が自らやろうということで地域医療振興協会が発足したのです。

より円滑に事業を行うために2009年に公益社団法人化、地域医療の拠点となる病院の運営とそこに勤務する若い医師や看護師などを確保するため、病院と診療所のネットワークをつくりました。ネットワークをつくってそこからどんどんへき地へと向かい、若い人を中心に研修を兼ねて一定期間支援に行ってもらっています。協会の病院や診療所だけでなく、協会外の公立の施設にも出かけます。へき地で勤務している医師が病気や研修などで診療ができなくなった際の代診のシステムを作り、昨年は延べ1万5000日もの日数、医師などを地域に派遣しています。

 

へき地への医師の派遣を続けながらも、公立病院や診療所の支援、運営の困難な病院の再建計画の支援や医師・看護師の育成などにも力を入れたいと考えています。地域医療振興協会は、ある意味では “総合医局”であると思います。一人、二人といった少人数ではなく、必要な医師や職員を派遣する。ちまちました支援ではへき地での地域医療の改善は実現できません。地域医療を支えるシステムを地域医療振興協会が確立させ、若い医師などにもどんどん地域医療に関わってもらい、能力を高めていって欲しいと思います。日本の地域医療をよくして、若い医師に地域医療の魅力を知ってもらい地域医療に携わってもらう。この仕掛けづくりが私たちの使命であり、永遠の課題です。

  • 公益社団法人地域医療振興協会 理事長

    吉新 通康 先生

    約30年間にわたり全国のへき地を中心とした地域医療の確保と質の向上に尽力してきた。各地域の現場に見合った施設運営や医師派遣、独自の教育システムによる総合診療専門医の育成などに取り組んでいる。

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