ミオクロニー欠神てんかんは、患者数が非常に少ない希少な小児てんかんです。そのため、一般的な医療機関では診断が難しいこともあるといわれています。特徴的な発作が起こっている場合、どのような医師のいる施設で検査を受けることが望ましいのでしょうか。また、治療方法にはどのような選択肢があるのでしょうか。TMGあさか医療センター・てんかんセンター顧問として診察にあたられている小国弘量先生にお伺いしました。
ミオクロニー欠神てんかんを診断するためには、特徴的な脳波異常*、発作の表現、筋肉の動きを確認する必要があります。
特徴的な脳波:全般性両側同期性の3Hz棘徐波複合群発から成る
ビデオと脳波・表面筋電図を同時に記録できる「ビデオ・ポリグラフ記録*」と呼ばれる検査では、これらの情報を一度で得ることができます。
ポリグラフ記録:脳波+表面筋電図
ミオクロニー欠神てんかんは、世界的にみても発症頻度が非常に少ないまれなてんかんです。ビデオと脳波・表面筋電図を同時に記録できるデジタル脳波計は、多くの医療機関に設置されていますが、検査で得られたデータからミオクロニー欠神てんかんを疑うことは、一般的な病気をみる医療機関においては難しいと思われます。
そのため、ミオクロニー欠神てんかんの検査や診断は、脳波や発作の判読に慣れた小児神経科医あるいはてんかん専門医など、てんかんを見慣れている医師のもとで受けることが理想的であると考えます。たとえば、日本てんかん学会が認定している「日本てんかん学会専門医」や、日本小児神経学会が認定している「日本小児神経専門医」の所属する医療機関を調べてみることなどをおすすめします。
典型的なミオクロニー欠神てんかんは、問診、脳波などのデータから、比較的容易に診断をつけることができます。しかし、個々の患者さんに生じる症状は、必ずしも典型的なものばかりではありません。特に、ミオクロニー欠神発作にさまざまな症状を伴う「症候性グループ」の場合、「他のてんかん発作ではないかどうか」を見極める鑑別診断が必要になります。たとえば、まぶたがピクピクと動く小児欠神発作や、単発の発作が起こるミオクロニー発作との鑑別が必要なことがあります。
診察の際、患者さんにミオクロニー欠神発作が起こっている最中の様子を、保護者の方から動画でみせてもらうことがあります。発作の表現を確認できるスマートフォンの動画は、検査の項目に記したビデオと同じ役割を果たします。私たち医師が診察室で発作そのものをみる機会は基本的に稀なため、このような動画は非常に役立ちます。
また、実際の映像でみることで、保護者の方が問診時に使われた言葉の意味や意図を、より適切に理解することもできます。
実際に、保護者の方が自発的にスマートフォンで撮影した動画をみせてくださることもあります。診察室で保護者の方と対面しながら動画を見ることで、「お母さん(お父さん)はこの様子をあの言葉で表現されていたんですね」と、認識のすり合わせを行うこともできており、診察に役立つと感じています。
小児期に発症するミオクロニー欠神てんかんの症状は、患者さんの成長と共に変容したり増加したりしていきます。たとえば、最初はミオクロニー欠神発作がメインであったものの、徐々に全身けいれんが主となっていくことも少なくはありません。スマートフォンの動画は、診断だけでなく、診断後に新たな症状が現れたときにも役立ちます。
ミオクロニー欠神てんかんの治療の中心は薬物を用いた治療です。薬物治療では、まず抗てんかん薬のうち、小児欠神発作に有効とされる3剤のいずれか、もしくは複数を併用して使います。これらの抗てんかん薬が効果を示さない場合は、異なるタイプの抗てんかん薬を追加したり、変更したりすることもあります。
抗てんかん薬には、眠気や集中力への影響といった副作用もあります。そのため、発作が軽くなったとしても、副作用により学業など、日常生活に支障が生じるケースも考えられます。このような場合は、メリットとデメリットを天秤にかけ、患者さん一人ひとりの背景を伺いながら、治療薬の変更や減薬を個別的に判断していきます。
発作が2~3年ほど起こっておらず、脳波にも異常がない場合には、断薬することが可能です。断薬の際には、半年から1年ほどかけてゆっくりと減らしていきます。
抗てんかん薬の断薬は、主治医の指示のもと慎重に行う必要があります。自己判断の中止は危険ですのでやめましょう。
薬の服用中も発作の回数や強さに変化がみられず、一見「効いていない」ように感じられることもあるかもしれません。しかし、薬を内服していることで、より強い発作を抑えられている可能性があり、急に断薬してしまうことが発作の増悪につながる危険も考えられます。
てんかんの手術には、完全に治すことを目的とした根治手術と、症状を抑えることを目的とした緩和手術があります。
ミオクロニー欠神てんかんに対する手術適応はほとんどありませんが、後者の緩和手術の可能性は皆無ではありません。
てんかんのなかには、脳の一部分に原因があり、焦点切除という手術により根治を目指せるものもあります。しかし、ミオクロニー欠神てんかんは脳全体が巻き込まれる原因不明のてんかんであるため、根治手術の対象とはならないのです。
緩和手術には、脳梁離断術があります。
脳梁離断術は、危険な転倒発作を伴うミオクロニー欠神てんかんに対して検討される手術です。脳梁とは、左脳と右脳をつないでいる橋のような線維の束です。仮に左脳で興奮が起こった場合、信号は即座に脳梁を介して右脳に伝わり、脳全体の興奮による転倒発作が生じることがあります。脳梁離断術とは、脳梁を切り離すことによって両側の脳の同時興奮を防ぎ、強い転倒発作を抑えることを目的として行われます。転倒発作のように、生命に関わることもある強い症状を伴わない場合は、ミオクロニー欠神てんかんであってもこの手術の適応(対象)にはなりません。
ミオクロニー欠神てんかんは患者数が非常に少ないため、日本では予後をみていくための調査は行われていません。そのため、ここでは症例数が比較的多いフランスのCentre Saint Paul病院における発作予後と知的予後の報告を紹介します。
ミオクロニー欠神てんかん42例を対象とした論文によると、うち16例はミオクロニー欠神発作が抑制され、26例はミオクロニー欠神発作が持続もしくは発作様式が全身けいれんなどに変化したと報告されています。
(Bureau M, Tassinari CA. Myoclonic absences and absences with myoclonias. In; Bureau M, Genton P, Dravet C, Delgado-Escueta AV, Tassinari CA, Thomas P Wolf P, eds. Epileptic syndromes in infancy, childhood and adolescence, John Libbey Eurotxt 2012;297-304.)
同報告によると、全症例のうち約30%は精神発達の域が正常域に達しており、約70%には精神発達遅滞が生じたとされています。ただし、対象となっている40例には、特発性グループと症候性グループのミオクロニー欠神てんかんが混在しているため、区別して考えた場合、数値は異なるものになると考えられます。
(Bureau M, Tassinari CA. Myoclonic absences and absences with myoclonias. In; Bureau M, Genton P, Dravet C, Delgado-Escueta AV, Tassinari CA, Thomas P Wolf P, eds. Epileptic syndromes in infancy, childhood and adolescence, John Libbey Eurotxt 2012;297-304.)
通常、てんかん発作にはお子さんにより異なる悪化因子があります。たとえば、疲れているときや、睡眠不足のときに発作が悪化するお子さん、テレビを見ているときやお風呂に入っているときに発作が起こりやすいお子さんなど、悪化因子は十人十色といえます。
ミオクロニー欠神てんかんの場合、悪化因子と考えられるものに関する報告はなされていないため、一般的なてんかん発作の悪化因子を参考とし、規則正しい生活を送ることを心がけることがよいのではないかと考えます。
入浴中などにミオクロニー欠神発作が起こると、大きな事故につながりかねません。一人での入浴はなるべく避けるよう注意したほうがよいでしょう。
また、1日に数十回発作が起こっている日は、外遊びなどを控えたほうがよいといえます。発作が多い場合は、家の中であっても階段昇降時などに事故が起こる危険があります。周囲の方が寄り添って行動するなど、普段以上に注意を払って患者さんを見守りましょう。
TMGあさか医療センター てんかんセンター顧問
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