DOCTOR’S
STORIES
治療の先にある患者さんの生活を考慮し、手術に臨む三上 公治先生のストーリー
思い返せば、小さい頃から医師を目指していたわけではありません。ずっと技術者になろうと思っていましたので、大学受験では理学部を志望しました。しかし、初めての受験で結果は実らず、浪人することになりました。その際に、「せっかく浪人するならば医学部を受けてみよう」と思ったのです。そのように決めた心の根底には、医師は人々から尊敬されるすごい職業であるという漠然とした憧れがあったように思います。
浪人生として1年間勉強に邁進した結果、無事、福岡大学医学部に合格。私の医師人生はここからスタートしました。
医学部を卒業後、研修・留学を経験した時代は、今日の自分を作り上げる大切な時間になったと認識しています。今では消化器外科を専門としていますが、研修では呼吸器外科や救急医学をはじめとするさまざまな領域を幅広く勉強しました。その後、デンマークのコペンハーゲン王立大学病院に留学。同院の腹部外科にて消化管の治療を中心に学び、さらには肝移植を実践的にトレーニングすることができ、濃密な日々を過ごしました。
外科を専門領域に選択した理由は、“手術で悪いところを切ったらすぐに病気が良くなり、治療の結果がわかりやすい”というイメージを持っていたからです。
しかし、実際には“治療の結果”と一言で言っても、さまざまな程度があることを日々実感しています。消化器がんの場合には、手術前とほぼ同じように食べることができる方から、そのような状態に回復するまでに長い時間を要する方まで、術後の経過はケースによって大きく異なります。
どのような病気の手術に関しても言えることですが、治療前の状態に完全に戻ることは困難です。手術を行うときには、体のどこかにメスが入ります。手術に伴いできる
その根底には、“患者さんの人生の目標を大切にしたい”という外科医としての信念があります。治療の先には、患者さんが歩んでいく人生があり、そこにはきっとそれぞれの目標があります。ですから私たちは、診療のなかで、患者さんの思いや価値観を共有し、叶えたい人生の目標を理解したうえで、それらを実現できるような治療・ケアを進めていくべきだと思うのです。
医師として、外科医として、大変な場面は多いです。しかし、自分が治療を担当した患者さんがご家族と一緒に外来に来られて、「今は元気にこんな生活をしています」「こんなことを頑張っています」という報告を聞くと、医師をやっていてよかったなと思いますし、そのような瞬間は心から嬉しいものです。私はこれからもずっと、患者さんに寄り添う姿勢を貫き、患者さんの人生を大切にする医師でありたいと思います。
前任地の福岡大学筑紫病院で、身体症状担当医として緩和ケアに携わりました。そこでは、がんの患者さんに対して、治療と併行する形で、がんによって生じる痛みや心の不安などを和らげるためのケアを行いました。そのような経験を通じて、患者さんの体の痛みだけではなく、心の痛みにも寄り添うことの重要性を実感したのです。このような緩和ケアの経験を通して、医師として幅が広がったような気がします。
さまざまな経験を通じて、私は、“患者さんのための医療とは何か”を考えるようになりました。患者さんのための医療とは、自分たち医療者の思いを押し付ける医療ではなく、患者さんが求める真のニーズに耳を傾け、その思いを叶える医療だと思います。
そのような“患者さんのための医療”を追究したいと考えていたところ、福岡中央病院における外科部門の診療拡充のお話をいただきました。私は、新しい環境で“患者さんのための医療”を提供できる診療科を作り上げたいと思い、福岡大学筑紫病院で一緒に仕事をしていた
現在は、外科部長として、消化器がんに対する診療を充実させると共に、スタッフの皆さんと“患者さんのための医療”を追究していきたいという心持ちです。患者さんが病院や医師、治療や治療後の生活に何を望んでいるのか、それをしっかりと理解したうえで治療に全力を尽くす組織でありたいと考えています。
私が若手の医師だった時代には、先輩の背中を見て学ぶことが多かったように記憶しています。もちろんそのような教育の形も大切ですが、後進の育成のためには、私たち教育する側の人間が若い医療者の考えをよく聞き、共に学び合う姿勢が大切だと考えています。
治療や患者さんとの関わり方において、“これが絶対”ということはありません。ですから私は、「何が本当に患者さんのためになるのか」という問いに対する答えを見つけるために、年齢や経験年数によらず、若い医療者ともよく話し合いながら、よい医療を探し出していきたいと思います。
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