DOCTOR’S
STORIES
透析クリニックの運営を通して在宅医療のあるべき姿を模索し続ける、柴垣 圭吾先生のストーリー
私の父・
私がまだ研修医の頃「なんで親父は二施設目を出さないの?」と聞いたことがあります。すると父は「一施設でも患者さんをきちんと診ていくのが大変なのに、そんなことは考えられない。それよりもお前は、しっかり勉強しろ」と。とにかく一生懸命に、真摯に患者さんと向き合っていたのだろうなと思います。その後、私自身も腎臓内科医を選択し、透析の道に進んでいますから、父の影響というのは大きいですね。
その父を、2017年に胃がんおよび老衰で見送っています。父が入退院を繰り返していた頃、飲むことができない、食べられないために、脱水症状に陥ったことがありました。私が「入院しよう」と伝えると、父は泣いて嫌がったのです。「家にいたい」と。私は同じく医師である弟と共に「あなた、自分も医者なんだから分かるでしょう。この状態なら入院するしかない」と説得しました。すると「お前らには患者の気持ちが分からない」と言って、さめざめと泣くのです。そのときに、医師であっても、こんなに入院が嫌なのだなと痛感しました。同時に、これまで私が見てきた入院透析が必要になった患者さんも、本当につらいお気持ちだったのだろうなと、本当の意味で理解しました。そして、入院を嫌がる透析患者さんを最期までご自宅でサポートできる体制を作りたい、そう思わせてくれました。父は最後までその後ろ姿で、私に多くのことを教えてくれたのだなと尊敬しています。
弟の
父の跡を受け継いで2003年に柴垣医院の院長になりました。それまでも腎臓病の患者さんを多く診てきましたが、透析クリニックである柴垣医院では、それまでとは違う光景を目にすることになります。通院で透析を受けていたものの、加齢などの事情によって通院が難しくなり、入院下での透析治療に切り替えるという光景です。この場合、透析治療の性質上、退院は困難になります。つまり、最期まで入院を余儀なくされるということです。透析をしている患者さんは、その不安を常に抱えていて「自分はこれからどうなってしまうのだろう」と思っておられる。そんな姿を見るにつけ、入院以外の選択肢はないものなのかと考えていました。
その過程の中で見送ることとなった父の存在が、よりこの思いを強くしました。在宅医療で慢性腎不全を診ていく方法を構築するなら、私がやりたいと。
2013年に腹膜透析を始めようと、
また、2015年頃に
このような流れがありましたから、私にとって鷲田先生と石橋先生は恩師といえます。お二方のおかげで、在宅医療における腹膜透析診療というシステムを作ることができた。これらの出会いがなかったら、今の柴垣医院の方向性とは大きく異なっていたでしょう。本当に感謝していますし、今後も多くの刺激をいただきたいと思っています。
私は医師ではありますが、院長でもあります。そのため、クリニックとして全ての関係者の方たちのニーズに応えるという視点を大切にしています。患者さんが家にいたいと思われるなら、家にいられるようにしましょうというニーズは、その最たるところですね。
でも、関係者は患者さんだけではありません。大学病院や総合病院で腹膜透析を行う場合は、在宅でのサポートが必要になる。病院完結の医療ではなくて、地域で連携して医療にあたる。その地域での対応を担うこと、それも我々ができることのひとつだと思っています。
さらに、当院で働いてくれる先生やスタッフの労働環境を含めたニーズにも応えたい。先生やスタッフがいなければ、そもそも在宅医療は実現できませんから。
患者さん、病院、スタッフ、その関係者のニーズがどこにあるかということを考えて、その全方向を見るというのを常に心がけています。
“時流”という言葉があります。読んで字のごとく、時の流れです。私がとくに意識しているのは、時流を私なりに冷静に分析し、その時流に逆らわないということ。ですからこれはあくまでも私見ですが、腎臓内科における“時流”は、高齢化によるパラダイムシフトだと思っています。パラダイムシフトとは、今までの価値観や常識が変化していくということです。つまり、今までは入院透析で対応していた患者さんを、在宅医療で診ていくようになるというのが時流だと考えています。その一環として、地域包括ケアの構築に、透析クリニックとして参加したいですね。
そして、キュア(治す)からケア(癒す)へ至るまでをトータルで診ていく。「最期まで自宅で過ごしたい」という患者さんの思いに寄り添い、実現できるような体制を作る。それをダッシュで行いたいと思っています。在宅医療×透析クリニックの道筋を、少しでも早く作りあげていくことに、これからも挑んでいきます。
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