患者さんとご家族に寄り添う在宅医療の価値・可能性

DOCTOR’S
STORIES

患者さんとご家族に寄り添う在宅医療の価値・可能性

神奈川県・南林間エリアで診療に尽力する小林 夏樹先生の医師キャリアストーリー

たすくホームクリニック 院長
小林 夏樹 先生

医師を志したきっかけ

医師になりたいという思いが芽生えたのは、高校1年生の頃でした。ある日、国境なき医師団で活躍していた医師が、高校のOBとして母校で講演を行ってくれたのです。世界各地を飛び回り、国籍、人種を問わず、医療的な支援が人々を助けていく。医師としての知識と技術で、自分の身一つだけで命を救う、シンプルで力強い使命に心が強く惹かれ、私は医師になる決意を固め、横浜市立大学の医学部へと進学しました。

自身の診療科、専門領域を目指した理由

医師には、総合診療科のように広範な知識で患者を診るジェネラリストと、高度な専門性を持って患者を治療するスペシャリストが存在します。日本ではスペシャリストの医師が不足しているように感じることもありましたし、自分の専門性を高め、それを強みとしていくことにも魅力を感じていました。こうしたいから、脳神経外科を目指すことに決めました。また、日本てんかん学会でもご活躍されている園田 真樹先生や、剣道部の尊敬する先輩が脳神経外科に進んでいたことも大きな刺激となりました。

クリニック開業の経緯やエリアを選んだ背景

現在、在宅医療専門のクリニックを開業していますが、実は最初から在宅医療に興味を持っていたわけではありませんでした。

医師としてのキャリアは、聖路加国際病院での初期研修後、成育医療センター(現・国立研究開発法人国立成育医療研究センター)の脳神経外科で研鑽を積みました。成育医療センターは、日本で6つある国立高度専門医療研究センターの1つで、小児・周産期・産科・母性医療に特化した施設です。ここでの経験が、私の医師人生に大きな転機をもたらしました。

それまでに多くの患者さんを診てきましたが、その多くは40代以上や高齢者の方々でした。しかし、成育医療センターでは、脳神経外科として水頭症などの病気をはじめ、多くの小児の患者さんを診る機会があったのです。小児の患者さんは、治療がその後の長い人生に大きな影響を与えるため、責任感も一際強く感じました。また、小児疾患は患者さん本人だけではなく、そのご家族に与える影響も大きいのです。患者さんご本人に対する治療によって、患者さんだけを救うのではなく、それ以上にご家族も救われているような気がしました。

さらに、成育医療センターでケアマネジャーや介護士の方々と多くの交流を持てたことも、大きな学びとなりました。彼らは直接的な治療だけでなく、患者さんの生活、暮らしぶりもみながら、患者さんに寄り添ったサポートをしていました。

私は次第に、単に病気や患者さんを診るだけでなく、彼らのご家族や環境全体を見据えて診療していきたいと強く思うようになりました。このようにすることで、患者さんだけでなく、彼らを取り巻く全ての人々を助けることができるのではないかと考えたのです。この思いから、在宅医療の価値と可能性を強く感じるようになりました。

在宅医療をもっと知ってほしい

みなさんは“在宅医療”と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。在宅医療は病院やクリニックに通院するのが困難な患者さんに対し、医師が直接ご自宅を訪問(訪問診療)し、医療行為を行うものです。
訪問診療”のメリットとして、通院が困難な方が自宅で医療処置を受けることができる、というイメージをお持ちの方は多くいらっしゃると思いますが、実はそれだけではありません。訪問診療は定期的かつ計画的に医師が患者さんのご自宅を訪問して診察、治療、健康相談、療養相談などを行います。そのため、診察時間も病院の外来と比べて長く確保できますし、その分、患者さんの問診にしっかりと時間をかけることができます。時間をかけた丁寧な診察が可能ですので、その患者さんに最適な薬剤は何なのか、じっくりと検討し、患者さんに併せた適切な処方も可能になると考えています。

また、これまではがん治療が必要な高齢の患者さんや、寝たきりの患者さんを診ることが多かったのですが、こうした患者さんだけではなく、もっと多くの在宅医療の支援が必要な方たちがいると感じています。
たとえば認知症のご家族を抱えている方は、通院のために仕事を休んだり、ヘルパーさんを頼んだり、ご高齢かつ認知症の方を連れての通院は多くのご苦労があるかと思います。そのような方たちに対して、認知症の治療の1つとして、訪問診療という手段があるということをご存知ない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

脳神経の疾患を専門とする医師として、認知症の治療は、単なる投薬に留まらず、その方の生活習慣や生活環境を総合的に診ることが重要だと考えています。患者さんがどのような生活を送っているのか、家族がどのように接し、どのような支援が無理なくできるのか?こうした背景も理解したうえで、現実的かつ適切な治療を提案したいと考えています。

たとえば食生活との向き合い方。理想的な栄養の取り方を理解していても、毎食そのとおりに食事を用意するのは難しいことが多いでしょう。そういった場合でも、医師の訪問診療に加えて、当院では管理栄養士がご家庭の状況に合わせた食事の提供方法もアドバイスします。たとえスーパーのお惣菜やコンビニのお弁当であっても、バランスを考えて組み合わせることで、適切な栄養を取ることができるのです。

大切なのは、患者さんだけががんばるのではなく、それを支えるご家族も無理なくサポートし続けられることだと思います。患者さんの幸せを考えても、これが何よりも重要だと考えています。患者さんとそのご家族が安心して生活できる環境を整えることこそが、私たちの目指す在宅医療の本質です。

患者さんとそのご家族に向けて

患者さんを診ながら、そのご家族とも深く関わり、医師として何が適切なのかを考え、ケアマネジャーや介護士と連携し、治療やアドバイスを行うことは訪問診療ならではの醍醐味だと思いますし、日々の訪問診療の現場で私はその手応えを強く感じています。

まずは、病気との新しい向き合い方、そして家族との新しい関係性を築く方法の1つとして、訪問診療があるということを、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。もし何か心に届くものがありましたら、お気軽にお電話でもご相談いただけると嬉しいです。

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