家族性地中海熱の女性患者さんが豊かな人生を送るために――月経、妊娠・出産などに応じた症状コントロールのポイント
家族性地中海熱は、発熱や腹痛といった発作を繰り返す遺伝性の病気です。疲労やストレスのほか、月経によっても発作が誘発されることがあるため、月経のたびに発作が出てしまう女性患者さんも珍しくありません。さらに、家族性地中海熱では妊娠や出産時にも慎重な体調管理が求められます。女性患者さんがよりよいライフプランを描くためには、どのように病気と付き合っていけばよいのでしょうか。信州大学医学部附属病院 リウマチ・膠原病内科 講師/外来医長の岸田 大先生にお話を伺いました。
家族性地中海熱の発作は、ストレス、疲れ、寒さなどさまざまな要因によって起こります。私たちが2020年に行った調査1)により、男女を問わず過労、心理的ストレスが主要な発作因子であることが分かりました。ただし、対象を女性に限定すると、月経が誘発因子となった方が一番多いという結果になりました。このことから、多くの女性患者さんにとって、月経がもたらす影響は小さくないことが分かります。また、月経が発作の誘発因子になる患者さんの特徴として、発症年齢が低いこと、腹膜炎、子宮内膜症を合併している方が多いことが挙げられます。
月経が家族性地中海熱の症状を誘発するメカニズムとして、正確なことはまだ分かっていませんが、2023年時点では、大きく2つの理由が想定されています。
1つは月経期に性ホルモン(エストロゲン)が減少することです。エストロゲンは、炎症を抑えるはたらきを持つと考えられています2)。そのため、これらが減少することで発作が起こりやすくなるのではないかと推測されます。
もう1つ考えられる理由は、月経が起こることによる刺激や身体的負担です。月経時には子宮内膜が剥がれ、経血が逆流することもあります。これらの体への刺激により発作が誘発されている側面があるのではないかという説3)も挙がっています。
まず何よりも大切なポイントは、薬を忘れずに服用し、発作自体をできるだけ起こさないようにすることです。
月経時にいつも発作が現れる方は、つらい症状が起こる前に主治医の先生に相談し、薬の量や服用ペースを月経周期に応じて調整できるか検討してもらうとよいでしょう。
また、毎回月経が発熱発作のトリガーになっている方は子宮内膜症を合併している頻度が高い4)ので、婦人科疾患が症状のベースにないかどうかを確認するために婦人科を受診していただくようすすめています。当院ではリウマチ・膠原病内科と産科婦人科が連携し、子宮内膜症や月経困難症などの婦人科疾患を治療することで、月経がトリガーとなる発熱発作のコントロールを目指すという産婦人科の側面からのアプローチも行っています。
病気があるなかで妊娠・出産に臨むことに、不安になる気持ちはとてもよく分かります。しかし、発作がしっかりコントロールできていれば妊娠・出産は可能ですから、必要以上に怖がることはありません。発作を誘発する疲れやストレスをなるべくためない生活を送り、出産に臨みましょう。
家族性地中海熱は不妊の原因となる場合があるといわれていますが、だからといってすぐに不妊になるわけではありません。症状のコントロールがうまくいかず、長年にわたり発熱や腹膜炎などの発作を繰り返していると、慢性的に腹腔内で炎症が起こっている状態になります5)。その結果、臓器の癒着や卵管機能不全などが生じ、不妊リスクを高めるのではないかと考えられます。
そのため、将来的に妊娠を希望している方は、子どもが欲しくなった時から症状をコントロールし始めるのではなく、できる限り早い段階から十分な治療を継続して行い、いつ妊娠しても大丈夫なように体の調子を整えておくことが大切です。
また、病気があるなかで妊娠することに不安があれば、妊娠前に産婦人科で相談しておくのもよいでしょう。
妊娠中に発熱や腹膜炎などを起こすと胎児にも影響が及ぶ可能性があります。そのため、妊娠中も基本的には治療を継続し、症状をコントロールすることが大事です。
妊娠中の治療継続に不安を感じる方のために、当院では妊娠・出産時の治療方針や治療継続のメリットについて、主治医から事前にお伝えします。また、必要に応じて産科婦人科と連携のうえ、我々リウマチ・膠原病内科医からだけではなく、産科婦人科医や薬剤師の視点からも妊娠中の注意事項を患者さんにお伝えしています。
それでも不安が消えない患者さんに対しては、その方の重症度を踏まえ、薬剤師とも協力して、より患者さんの希望に沿った適切な治療方針がないかを検討していきます。
このほか患者さん自身にできる工夫は、できるだけ規則正しい生活を送り、ストレスや疲れを避けることです。また、妊婦健診もきちんと受けて体調管理を行ってください。
お子さんに遺伝するリスクをあまり重く考え過ぎる必要はありません。母親が遺伝子変異を持っていて子どもに遺伝子変異が受け継がれたとしても、遺伝子変異を受け継ぐことがそのまま病気の発症につながるとは言い切れないからです。家族性地中海熱は、治療方法が分かっていますし、命に危険が及ぶ可能性は低い病気です。お子さんが周期的に発熱するようになったら、現在は遺伝子検査で早期に治療介入し、病気をコントロールすることが可能です。きちんと治療を受ければ、特に制限のない生活を送れることも多いので、不安になりすぎないことが大事です。
出産後の生活は、病気がない方でも大変なものです。女性患者さんが症状をコントロールしながら授乳や育児をし、仕事も両立していくのはさらに大変なことだと思います。自分だけで頑張ろうとせず、周囲の方たちに協力を仰いで、できる限りサポートを受けられるようにするとよいでしょう。妊娠中に意識していただいた規則正しい生活習慣を継続するのと同時に、1人で全てを抱え込まないことが大切です。
家族性地中海熱は、急激に症状が現れてもその後治まるため、周囲に理解されにくい病気です。発作が起こっているときは家で休まざるを得ませんから、パートナー以外は本人の具合が悪い姿を見る機会が少なく、患者さんがつらい症状と闘っている姿を想像しがたいことでしょう。しかしながら、実際にはそのような病気だということを、サポーターとなる周囲の方にご理解いただくことも大事なことです。
基本的には、年齢を重ねるに従い発作は減っていく傾向にあります。更年期以降も頻繁に発熱を繰り返すようであれば、ほかの病気を合併している可能性を疑ったほうがよいでしょう。発熱の原因にはいろいろな可能性が考えられるので、何か気になる症状があるときは速やかに主治医の先生に相談しましょう。
また、家族性地中海熱は生涯付き合っていく必要がある病気ですので、閉経後、症状が落ち着いていても定期的に受診することが大切です。当院の場合、患者さんがお住まいの地域によってはお近くの医療機関を受診していただき、情報共有を行いながら連携して経過観察を行っています。
家族性地中海熱は、適切な治療によって発作をコントロールできる病気なので怖がりすぎる必要はありません。女性にとって人生の一大イベントともいえる妊娠・出産時の病気への対応も徐々に分かってきています。信頼できる主治医の先生とコミュニケーションを取りながら、前向きに治療やライフプランニングに取り組んでいただければと思います。
家族性地中海熱は、発熱や重い腹痛などの症状が周期的に起こる病気です。普段元気そうに見える患者さんも、発作のときにはつらい思いをしているのだということをご理解いただき、発作を誘引する疲れやストレスがたまらないよう、十分な配慮とサポートをお願いできるとありがたく思います。
信州大学医学部附属病院 リウマチ・膠原病内科 講師/外来医長
岸田 大 先生家族性地中海熱と付き合いながらより良い人生を送るためには、信頼できる主治医とのコミュニケーションに基づく適切な治療によって、発作をコントロールすることが大切です。
一人ひとりの症状や環境に合わせたライフプランニングや、主治医に自分自身の症状を伝えるために工夫できることなど、治療を継続し発作をコントロールするポイントをご紹介します。