肝・胆・膵外科

肝・胆・膵がん~がんの根治を第一に 肝・胆・膵がんを網羅的に診療~

最終更新日
2021年10月27日
肝・胆・膵がん~がんの根治を第一に 肝・胆・膵がんを網羅的に診療~

順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器外科講座の主任教授、肝・胆・膵外科の教授を務める齋浦 明夫(さいうら あきお)先生は、日々スタッフと協力しながら、今までの歴史や伝統を守りつつ、その中でも新しい肝・胆・膵外科を切り開くことができるよう尽力しています。今回は、齋浦先生に同院の肝臓がん・胆道がん・膵臓(すいぞう)がんに対する治療や取り組みについてお話を伺いました。

*肝・胆・膵がんの治療方法全般についてはこちら

肝臓がん

胆のうがん

膵臓がん

治療・取り組み

当院では、肝・胆・膵外科の医師が肝臓がん・胆道がん・膵臓がんなど幅広いがんを1つの臓器に固執せず、網羅的に診療する体制を整えています。また適応のある患者さんに対しては、腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)やロボット支援下手術など低侵襲手術を実施することもあります。

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんを網羅的に診療

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんなどのがんはそれぞれに専門性の高い治療が必要となります。肝臓がんは肝臓がん専門の医師、膵臓がんは膵臓がん専門の医師というように各がんに特化して治療を行う医師も少なくありません。しかし、私は以前から肝・胆・膵周辺のがんを網羅的に診る方針をとっており、それぞれの手術治療にあたっています。

肝・胆・膵領域は解剖学的に複雑で、検査・治療には高度な技術と専門性が求められます。肝・胆・膵領域の治療成績向上には、複数のがんを網羅的に診られることが重要です。

その中でも胆道がんの場合、がんができる部位によって肝臓や膵臓を併せて切除する必要が生じます。その際に肝臓がんや膵臓がんの手術治療で得た技術や経験が必要になるため、胆道がんの手術治療では複数のがんを治療できる技術が必要と考えています。

広い胆道がんの手術治療に従事

前述のとおり胆道がんの手術治療では、医師に肝臓・膵臓に対する技術や知識も必要となります。また、合併症が生じやすいリスクの高い手術といえるため、施設によって手術適応となる範囲に大きな差が生じていることが現状です。そこで当院では、血管を巻き込んで局所に進行している胆道がんであっても手術できるよう血管の合併切除の技術を高めています。そのほか、肝機能を温存して肝臓を切除できるよう肝臓を肥大化させてから手術に臨むなどの手法を用いて、より多くの患者さんに安全に手術を受けていただけるよう工夫をこらしています。

胆道がんの手術は合併症が生じやすいため、術後の内科による管理も欠かせません。たとえば、黄疸(おうだん)の症状が現れている場合には細いチューブを入れて胆管の流れをよくする処置が必要です。しかし、この処置においても膵炎(すいえん)や胆管炎などの合併症が懸念されることがあるため、合併症が生じないように処置をする技術が必要です。このように、外科・内科の総合力が問われるという意味でも、胆道がん治療は病院の腕の見せどころといえると思います。

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術も導入

腹腔鏡下手術は開腹手術と比較すると傷が小さく、患者さんの体に負担がかかりにくいと考えられていることから、現在さまざまながんの治療において取り入れられています。また、ロボット支援下手術も導入しており、肝・胆・膵分野においては現在保険適用となっている膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除に対して行われています。

腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術のメリットと注意点

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術のメリットは以下のとおりです。

手術時の傷が小さいため、運動機能の維持や手術時の出血量の抑制ができる
ロボット支援下手術ではより緻密な手術が可能

ロボット支援下手術は、患者さんの腹部に入る器具が腹腔鏡下手術の器具よりも多関節で手ブレもなく、細かい作業を行うことに適しているといわれています。

一方で、以下の点には注意が必要です。

直接臓器を見たり触ったりすることができないため、術者に経験が必要

適応

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術は患者さんに与えるダメージが小さいことから、“低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)”と呼ばれることもあります。確かに、治療後の傷が小さいなど短期成績で見ると低侵襲が期待できる治療です。

しかし、肝臓がん・胆道がん・膵臓がんは手術の難易度が高く、がんの悪性度も高いものが多いことから、低侵襲手術に固執することよりも確実にがんの根治を狙う手術を目指すことが望ましいといえるでしょう。当院では、がんをしっかり取り切れるのか、患者さんの生活の質に影響はないのかといった長期的な成績も視野に入れ、これらの手術の適応を検討しています。

腹腔鏡下手術は、主に肝臓がんや膵臓がんで検討されることがあります。肝臓がんでは、肝臓の表面に近い部分にある肝細胞がんや、リンパ節転移のない肝内胆管がんでの適応が検討されます。また膵臓がんでは、血管合併切除の必要がない早期の膵頭部がんのほか、比較的悪性度の低い膵神経内分泌腫瘍(すいしんけいないぶんぴしゅよう)などで検討されることがあります。

ロボット支援下手術は、保険適用のある膵臓がんで検討されることがあります。腹腔鏡下手術同様、血管合併切除の必要がない早期の膵頭部がんや、膵神経内分泌腫瘍で実施が検討されます。

費用と入院スケジュール

がん種や術式によって異なりますが、手術後3週間〜6週間ほどが入院の目安となります。がんの種類や患者さんの状態によってかかる費用は異なりますが、高額療養費制度を利用すれば負担額を抑えられる場合もあります。

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんに対してそのほかに行っている治療法

  • 薬物治療
  • 放射線治療
  • ラジオ波焼灼療法(肝臓がんのみ)
  • 肝動脈塞栓術(かんどうみゃくそくせんじゅつ)(肝臓がんのみ)

診療体制・医師

外科と内科で連携して治療にあたる

当院では、手術治療と薬物治療、放射線治療などを組み合わせてがんの根治を目指す“集学的治療”を熱心に行っています。たとえば、肝臓がんの1つである肝細胞がんでは化学療法が飛躍的に進歩しているほか、免疫チェックポイント阻害薬が保険収載されるなど、薬物治療の選択肢が広がってきています。

進行した肝細胞がんにこれらの薬物療法を行うことによって、手術不能だった方が手術可能の状態になることも少なくありません。そのため、当院では外科・内科が連携して治療にあたっています。

また転移性肝がんの場合、原発巣となるがんを診る診療科との連携が必要です。肝転移の場合、多くは大腸がんが転移して生じるため、肝・胆・膵外科と大腸肛門外科(だいちょうこうもんげか)が連携して治療にあたっています。また、転移性肝がんでも手術治療と薬物治療を組み合わせる必要があるため、もちろん内科との連携は欠かせません。

外科同士の連携も強力に

当院では外科医が消化器疾患を網羅的に診ることを目的とし、2020年10月より胃食道外科・肝・胆・膵外科・大腸肛門外科・低侵襲外科の4科を統合して“消化器外科講座”として治療にあたっています。これまでどおりの各臓器、各疾患に特化した治療を研鑽していくほか、外科同士のつながりを強め、チーム医療に邁進していく所存です。

受診方法

順天堂大学医学部附属順天堂医院提供当院は特定機能病院に承認されているため、初診時には原則としてほかの医療機関からの紹介状の持参が必要となります。紹介状の持参がない場合、あるいは前回受診されてから6か月以上が経過している場合には、初診時選定療養費として8,250円(税込)のお支払いが必要になります。

外来受付時間

平日の午前、午後の外来にて診察を受け付けています(土曜日は午前のみ)。

ご自身で事前予約をされる場合

紹介状をお持ちの初診の患者さんにつきましては、“初診事前受付フォーマット*”より受付が可能です。日曜日、祝日を除く外来受診希望日の前日12:00までにご予約をお済ませください。

*初診事前受付フォーマットはこちら

診察・診断の流れ

当診療科では、肝臓がん・胆道がん・膵臓(すいぞう)がんが疑われる場合には、以下の流れで診察、および治療を進めていきます。

診断方法について

肝臓がん

超音波検査やCT・MRI検査などの画像検査が行われるほか、血液検査で肝臓がんがある場合に特異的に上がりやすい数値が上がっていないかを確認する“腫瘍(しゅよう)マーカー検査”が行われます。肝細胞がんの場合、ウイルス性肝炎にかかっている方はリスクが高いため、定期的な検査が必要です。

胆道がん

採血検査や単純X線検査、心電図検査、呼吸機能検査、超音波内視鏡検査など、疑われる病気に応じて必要な検査を実施します。また、入院して行う検査もあり、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP検査)や門脈塞栓術(もんみゃくそくせんじゅつ)、消化管内視鏡検査(ポリープ切除など)、超音波内視鏡検査下生検などが挙げられます。

膵臓がん

主に血液検査と画像検査が実施されます。画像検査では造影剤を利用したCT検査のほか、高精度MRIなどが活用されます。また時に超音波内視鏡による検査が行われることもあります。膵臓がんにかかりやすい人の特徴はまだよく分かっていませんが、2親等以内に膵臓がんにかかった方がいる場合リスクが高いと考えられるため、定期的に検査を受けることが推奨されます。

治療方法の決め方について

当院では難治がんといわれる肝臓がん・胆道がん・膵臓がんの予後を少しでも改善できるよう、綿密に治療計画を作成します。がん治療はガイドラインに沿って行われることが一般的ですが、ガイドラインには最先端の治療法は載っていませんし、肝・胆・膵の分野では進行したがんなど現行のガイドラインでは治療成績が不十分な点もあります。

さらに手術の具体的な手段などについては記載がないため、“行間を読む”技術も必要になります。つまり、患者さんごとにどこを切除するか決めることなど、経験によって補わなければならない部分もあるのです。

そのため、当院では短期成績・長期成績を熟考し、ガイドラインにない部分については複数の医師で意見を交換し合いながら治療方針を決定しています。

入院が必要になる場合

肝臓がん・胆道がん・膵臓がん治療で入院が必要となるのは、手術治療です。また、薬物療法や放射線治療も場合によっては入院して行われることがあります。なお、肝臓がん治療で行われるラジオ波焼灼療法や肝動脈塞栓術も入院が必要です。

患者さんのために注力していること

当院のがん相談支援センターでは、看護師・心理士・医学物理士・薬剤師などさまざまな資格を持ったスタッフが、がん治療や療養生活についての不安、またご家族ががん患者さんを支えるうえでのお悩みなどの相談を受け付けております。

齋浦先生からのメッセージ

肝臓がん・胆道がん・膵臓がんなどのがんは難治がんとして知られていますが、その治療技術は年々格段に上がってきており、治癒が見込める方、がんと付き合って長く生きられる方も増えてきています。私達は患者さんの状態やがんの進行度に合わせて、適切な治療を提供できるよう治療計画を立てていきますので、どのようなことでもご相談ください。

また、お住まいの地域で治療先を探す際には、多くの肝臓がん・胆道がん・膵臓がんを診ている実績のある病院を受診することを心がけましょう。そして、これまでお話してきたように非常に治療の難しいがんですから、治療のメリットだけでなくデメリットも説明してくれるような誠実さを持つ医師に出会い、信頼関係を築けるとよいと思います。

順天堂大学医学部附属順天堂医院

〒113-8431 東京都文京区本郷3丁目1-3 GoogleMapで見る