大腸がん
当初は婦人科系の病気と思われていた若年女性
こちらの患者さんは、人間ドックの便潜血検査で陽性判定が出たことをきっかけに当院を受診されました。最初の大腸内視鏡検査で直腸が狭窄していることが分かりましたが、組織を採取して顕微鏡で見てもがんの確定診断には至らず、30歳代の女性によく見られる子宮内膜症による直腸の狭窄ではないかと考えられていました。
しかし、大腸がんの腫瘍マーカーであるCEAの数値が高かったこと、PET検査を行ったところ気になる所見が見つかったことなどから、実に4回も大腸内視鏡検査が繰り返され、ようやく確定診断に結びつきました。最初の受診から実際にがんが見つかるまでに3か月もかかった特殊な例でした。
人工肛門ではなく肛門を温存した手術へ
このケースでは患者さんが若いためにがんの進行が速く、確定診断が出た頃には進行がんとなっていました。また、がんのある位置も肛門に近く、縫合不全による腹膜炎が生じやすいと考えられたため、当院では患者さんに人工肛門をおすすめしました。
しかし、患者さんの「人工肛門は絶対に嫌」という希望を尊重し、腹腔鏡下手術で肛門を温存した手術を行うことになりました。リスクの高い手術だったので術後しばらく心配していましたが、縫合不全による腹膜炎もなく、術後化学療法によって再発も防ぐことができました。手術の数年後には妊娠・出産もされたと聞き、とても嬉しかったことを覚えています。
関連の症例
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放射線治療の結果、手術可能になった60歳代男性
がん研有明病院 消化器センター・大腸外科部長の福長 洋介(ふくなが ようすけ)先生に、大腸がんの症例について伺いました。 放射線治療の結果、手術可能になった60歳代男性 こちらの患者さんは直腸がんで、腫瘍が大きく膀胱への浸潤(しんじゅん)(がんが周りの器官に広がっていくこと)がひどい状態でした。貧血や低タンパクなど体力も大きく落ちており、このような全身状態では手術治療はもちろん、抗がん剤治療を行うことすら困難です。以前受診していた医療機関では緩和ケアで様子を見ることをすすめられたとのことでした。 当院でも、この状態で手術を行うことは難しいと考えられましたが、まずはがんによる貧血や低タンパクを改善するため、入院で放射線治療を行うことにしました。 放射線治療で全身状態が改善し、手術が可能に 放射線治療を行ったところ、腫瘍が縮小したことにより貧血や低タンパクが改善し、全身状態がよくなってきました。そこで当院では、放射線治療から1か月経過し体力が回復した後、手術を行うことになりました。 前述のとおり、膀胱への浸潤がひどい状態だったので直腸・膀胱・前立腺を全て摘出する“骨盤内臓全摘術”を行い、排泄のための人工肛門(じんこうこうもん)・人工膀胱の2つのストーマを造設しました。現在手術から5年ほど経過しましたが、再発なく元気に生活していらっしゃいます。 放射線治療後の手術は組織が脆(もろ)く手術の難易度が上がりやすいという特徴があります。しかし当院では、さまざまな技術やチームワークを生かして、このような難しい手術にも挑戦しています。
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術前化学放射線療法によって肛門温存手術が行えるようになった40歳代女性
京都桂病院の消化器センター・外科の副部長を務める濱洲はます晋哉しんや先生に、大腸がんの症例について伺いました。 術前化学放射線療法によって肛門温存手術が行えるようになった40歳代女性 こちらの患者さんは肛門から3~4cmの近い位置の直腸にがんが生じていました。直腸がんの場合、がんから2cmほど離して腸を切除する必要があるため、これだけ肛門に近い直腸がんの場合、通常は永久人工肛門を造設することを検討します。しかし、患者さんの「永久人工肛門は嫌だ」という希望を受け、なんとか肛門を温存できないかどうか考えました。 そこで手術前に化学放射線療法を行ったところ、がんが小さくなり肛門からの位置も4~5cmと少し離れました。このことによって肛門を温存して手術が行えるようになりました。 術前化学放射線療法によって肛門温存が可能に なんとか肛門を残してほしいとおっしゃる方は多くいらっしゃいます。当院でもできる限り希望に応えられるよう、術前化学放射線療法などを用いて治療を行っています。 こちらの患者さんは手術から数か月が経過していますが、現在は元気に生活しています。肛門温存手術の直後は一時的に小腸人工肛門となり、後に人工肛門を塞いでもともとの肛門から排泄が可能になります。この患者さんも現在は人工肛門で生活していらっしゃいますが、近いうちに人工肛門を塞ぐ処置を行う予定です。
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