原因不明の痛みの原因であることが多いトリガーポイントですが、一般的にこれに対して行われる治療は「トリガーポイント注射」というものです。この注射は具体的にどのようなものなのでしょうか。また、ブロック注射との違いや、鍼との違いはどこにあるのでしょうか。引き続き、木村ペインクリニックの木村裕明先生にうかがいました。
健康保険の適応となっている「トリガーポイント注射(TP 注射)」は、1994年に硬膜外ブロックの保険点数を削減する目的で導入されたもので、「圧痛点(圧迫したときに痛む点)に局所麻酔剤あるいは局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技」という定義のもとで、MPSにおけるトリガーポイントの治療と無関係に(「局所神経ブロック」という概念で)認可されました。
注射部位についても「患者に痛みの一番強い部位を指先で示してもらい、施術者が同部を指で圧迫して索状硬結(Taut band:TB)として触れる過敏点を確認し、同部位に注射する」と述べられています。このため多くの臨床医は、患者が自覚しにくく実際の患者の症状の原因となっているトリガーポイントではなく、患者が自覚する関連痛の部位に注射していることが多いため、十分な治療効果を得ていないことが多いと思われます。
「神経ブロック」は、主として末梢神経に薬剤を作用させて一時的に神経機能を停止させる治療です。神経ブロックの意義は、鎮痛効果・血行改善・筋弛緩効果などがあり、痛みの悪循環を断ちきる効果にあります。また、神経ブロックは病変部位に限って治療できる点も特徴的です。
これに対して一般的なトリガーポイント注射は、トリガーポイントに主に局所麻酔薬を注射針で注入する方法です。
代替となるものには「重炭酸リンゲル液」などがあります。重炭酸リンゲル液はPH(酸性度)の関係で、注射の際の痛みが少ないという点が特徴です。
費用については、保険適用外なので自由診療となります(病院・クリニックによって値段が変わります)。当院では、一般的なブロック注射と併用しながら行っているため、筋膜リリースは無料です。一般的な神経ブロックで痛みのある場所を全体的に治療し、痛みが残っている場合は、筋膜リリースを追加します。
スポーツ選手の場合、たとえばウェイトトレイニングで筋肉に負荷をかけることでオーバーロード状態になり、筋膜が癒着していきます。この状態では、可動域が狭くなり、また筋肉の動くスピードも落ちてしまいます。その筋膜をリリースすると、筋肉の可動域、スピードともに改善します。
これまでに競輪の選手やプロゴルファー、陸上選手、格闘家、最近では三味線奏者にもこの治療を施行し、パフォーマンスの向上がみられました。局所麻酔薬を使わないという安全性からも、今後はスポーツの世界にこそ、もっと広まっていくのではないかと考えています。
鍼治療で使う鍼は、神経ブロックで使う注射針に比べて、先が丸くなっていて組織損傷が少ないといえます。また、上手な鍼灸師は鍼を刺してから鍼先を自由に曲げることができるため、注射針では届きにくい所でも、ピンポイントで治療できます。さらに、刺鍼時に痛みがないのも鍼治療の大きな特徴です。しかし、患部に正確に当たらないと効きません。つまり鍼のほうが高度な技術が必要なのです。最近では、エコーを利用して精度を高める鍼灸師も増えています。
一方、注射針は鍼先が鋭角なため、こちらも技術が伴わなければ組織を傷めてしまう場合があり、特に血管や神経、肺(気胸にならないように)などの部位は注意が必要です。注射の場合も、やはりエコーを使うことによってこのような部分に対しても安全な治療が行えます。
鍼治療と注射治療にはそれぞれの得手不得手があり、その使い分けとコラボレーションが今後重要になってくるでしょう。
記事1:トリガーポイントとは?―原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
木村ペインクリニック 院長
木村ペインクリニック 院長
日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医日本麻酔科学会 麻酔科認定医
ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。
木村 裕明 先生の所属医療機関
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