インタビュー

筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療

筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
木村 裕明 先生

木村ペインクリニック 院長

木村 裕明 先生

この記事の最終更新は2015年09月08日です。

木村ペインクリニックの木村裕明先生は、筋膜性疼痛症候群に対して「エコーガイド下筋膜リリース」などの新しい治療法を行っています。木村先生はどのような過程を経て筋膜に注目し、現在のような治療に至られたのでしょうか。お話をうかがいました。

頸部の帯状疱疹などの治療に頸部硬膜外ブロックという手技を施行することがありますが、この際にLoss of resistanceという方法を用います。針先の抵抗をみながら、皮膚から順番に皮膚、皮下組織、棘上靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯とブロック針を進めて行きます。黄色靭帯を貫いたところで、抵抗がなくなって硬膜外腔に針先があるのがわかります。ここに局所麻酔薬を注入します。

これは治療経験のある方ならわかるのですが、頸部の場合、黄色靭帯の手前でも硬膜外腔と同じように抵抗がなくなる場合があります。ここで非常に悩むわけです。誤って針を進め過ぎると硬膜穿刺、つまり硬膜に穴があいて、髄液が漏れて強い頭痛が起きてしまいます。そこで迷った場合は針先を止めて、そこに局所麻酔薬を注入していました。

ところが、2008年4月、明らかに黄色靭帯の手前に薬を注入しているのにもかかわらず、非常に効果がある症例に遭遇しました。

そこで、今度は腰痛の症例で、黄色靭帯の手前で薬を広げてみました。正中から薬が広がらない場合は、多裂筋と椎体の間に薬を広げました。するとこれも非常に効果的で、硬膜外ブロックを行っていたときよりもむしろ有効でした。しかも腰痛だけでなく、帯状疱疹にも効いたことには驚きました。また、下部腰椎や仙骨部で多裂筋の下に薬を広げると、とくに高齢の方で一時的に足が動かなくなる症例が高頻度でみられました。

この時すでにMPS(筋膜性疼痛症候群)という概念を知っていたので、筋肉(筋膜)に作用しているものと推察しましたが、詳細を調べるために大学の先生に協力していただき、薬の広がりを調べることにしました。

その結果は、驚くべきものでした。まず、薬が予想以上に広範囲に上下に広がっていました。さらに黄色靭帯の手前、あるいは多裂筋と椎体の間から神経根の周囲に広がり、なんと硬膜外腔まで広がっていたのです。

また、下部腰椎や仙骨部では、後仙骨孔から仙骨部硬膜外に薬が広がっていました。これが、高齢者で一時的に運動麻痺が生じる理由と考えられます。

この手技を「筋膜間ブロック(スキマブロック)」と名付けました。

筋膜間ブロックの利点には、以下のようなものがあります。

  1. ブロック針を深く刺さなくてもよい。
  2. 硬膜外まで針を刺入しないので硬膜外瘍が起きにくい。
  3. 同様に硬膜外血腫が起きにくい。
  4. 血圧の変動が少ない。
  5. 抗凝固薬を内服していても施行できる。
  6. 手技が簡単で、術者のストレスが少ない。

これをまとめて「ペインクリニック」という雑誌に投稿しましたが、ほとんど反響はありませんでした。MPSという概念がまだ広がっていなかったことが原因と思われます。

しかし筋膜間に局所麻酔薬を注入することが有効だとわかったので、新しい手技をさまざま考案してMPS研究会に報告しました。それに伴って、今まで治りにくかった症例が治せるようになってきました。

また、生理学の研究で、筋膜の外側の部分に痛みを感じる神経がより多く存在することがわかってきました。このことも、筋膜間ブロックが有効であることの裏付けとなります。

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記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
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