40歳のころにご自身も腰痛を患った木村ペインクリニックの木村裕明先生は、硬膜外ブロック等の治療を受けましたが、なかなか痛みが改善しませんでした。そこで、さまざまなリサーチを行い、その結果、MPS(筋膜性疼痛症候群)という病気を疑い、ご自身で腸脛靭帯などに注射をしたところ劇的に改善しました。このことをきっかけに、トリガーポイントへの治療に着目されたのです。この記事では、トリガーポイント治療の意義や注意点について詳しくお話しいただきます。
「認知行動療法」というと、心理療法が中心となることが一般的なイメージです。しかし、行動から促す方法もあります。
痛みによる不動に対して、特定の動作に伴う痛みを減らすことで、「動かしても痛くない」という認知変容に寄与でき、心身の活動性を向上させることになります。
多くの患者さんは、痛みの原因が骨や椎間板にあると思い込んでいます。実際に針先が筋膜の重積している部分に到達すると、独特のヒビキ(反応)や、いつもの痛みの再現があります。「そこです!」というこの感覚を、「認知覚」と呼びます。画像上、筋膜が白く帯状に重積した部分を生理食塩水でリリースすると、即座に痛みが改善します。このことで、痛みの原因が筋膜にあると認知してもらいます。
そして「動かないでいるとまた筋膜が癒着するので、散歩やラジオ体操をしてください」と呼びかけることによって、患者さんに行動を変えてもらうのです。これは、まさに認知行動療法です。レントゲンで変形した骨や、MRIでヘルニアを見せながら「手術になるかもしれません」と不安や恐怖を与え安静を指導する方法とは正反対です。
筋膜リリースを受けるだけでは、また再発することがあります。そのため、日々の散歩やラジオ体操などの軽い運動が重要です。また逆に、極端に使い過ぎたり日常的に負担がかかっている筋肉があるかどうかを、ご自身でチェックして改善していただくことも重要です。
局所麻酔薬を用いた「神経ブロック」と生理食塩水を使った筋膜リリースとを比較してみましょう。神経ブロックでは、局所麻酔を使うために、血圧低下や局所麻酔薬中毒などの副作用があります。これに対して、生理食塩水を用いての筋膜リリースは、これらの副作用がまったくありません。また、エコーを使うことによって、神経損傷、血管穿刺、気胸などの副作用も防ぐことができます。
急性腰痛の場合、1~2日通院すれば治ることが多いです。しかし慢性痛の場合は治療が長引くこともあります。いろいろな手技を工夫することによって、現在90~95%くらいの患者さんは、改善がみられます。ただし残念ながら、100%の患者さんが治るわけではありません。
最近多くみられるケースは、内服している薬が痛みの原因になっている場合です。特にべンゾジアゼピン系薬剤などの向精神薬は、効果として筋弛緩もあるのですが、副作用としての筋痛や筋痙攣もあります。このような場合、基本的には減少もしくは中止してもらいます。
また、スタチン系(高コレステロール血症の薬)による「横紋筋融解症」は有名ですが、血中CPK が上昇していない場合でも、筋疲労や筋肉痛を生じる場合があります。
治療に際して、重大な病気が潜む「レッドフラッグ」を見逃さないことも大事なポイントです。具体的には、以下のものです。
これら以外でも、2週間から1か月治療して効果がみられない場合には、MRIなどの検査を行います。ほとんどの痛みは、改善するものとして治療しています。改善しない場合は「なにかある」と考えます。MPSという病気を知ることで、重大な病気に早く気付くようになると考えています。
記事1:トリガーポイントとは?―原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
木村ペインクリニック 院長
木村ペインクリニック 院長
日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医日本麻酔科学会 麻酔科認定医
ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。
木村 裕明 先生の所属医療機関
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