インタビュー

靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる

靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
木村 裕明 先生

木村ペインクリニック 院長

木村 裕明 先生

この記事の最終更新は2015年09月09日です。

生理食塩水を用いた「エコーガイド下筋膜リリース」という方法を生み出された木村裕明先生は、通常の診療の他にMPS(筋膜性疼痛症候群)研究会会長としてMPSの周知活動や治療法の研究など行っています。MPSの原因となる「トリガーポイント」に対する治療法を本記事を含め8記事にわたってご説明いただきました。この記事ではまとめとして、トリガーポイントのできる位置、そしてFasciaと呼ばれる靭帯や腱などの結合組織に着目することの重要性についてお話しいただきました。

トリガーポイントは、腰や背中だけではなく全身に形成されます。そして体のいたるところに痛みを引き起こします。例えば、緊張型頭痛と言われる頭痛は、胸鎖乳突筋と僧帽筋にあるトリガーポイントが原因となります。

その他にも、慢性的な痛みがあり大きな病院でいろいろ検査しても原因が分からない場合、実はトリガーポイントが痛みを引き起こしていたということはよくあります。具体的には以下のような例があります。

  • 胸に痛みがあり、心筋梗塞を疑ったが実際は大胸筋のトリガーポイントが原因だった。
  • 機能性胃腸症を疑ったが、背中のトリガーポイントが原因だった。
  • 虫垂炎を疑ったが、腹筋のトリガーポイントが原因だった。
  • 原因不明の耳鳴り・めまいの原因が胸鎖乳突筋のトリガーポイントによるものだった。

MPSという視点を少しでも入れることで、原因不明の痛みに活路を見出すことができると考えています。

トリガーポイントは、筋膜以外にも、腱や靭帯、脂肪などの結合組織=Fascia(ファッシャー)にもあることが知られています。
2014年から2015年にかけて、筋膜以外の靭帯、腱、支帯、腱膜などの結合組織に対しても、生理食塩水によるリリースが有効なことがわかってきました。

手や足の支帯(Retinaculum)のリリースは、以下の病気に非常に有効です。手根管症候群肘部管症候群、Guyon管症候群、足根管症候群、de Quervain病、バネ指などです。さらには、脳卒中後のシビレ、糖尿病の下肢のシビレ、本態性振戦などにも応用できることが分かりました。

治療の広がりは加速度的です。神経周膜や、腕神経叢を包んでいる神経鞘のリリースも効果的なことが分かりました。今まで神経障害性疼痛と思われていた痛みが、Fasciaの異常である可能性が高まってきました。

2015年7月、椎間関節症の関連痛であると思われている痛みも、どうやらFasciaの異常であるということに気づきました。頸部の場合は、関節柱のくびれ(Waisted articular pillar)近傍のFasciaの重積をリリースすると関連痛が改善します。ここには、脊髄神経の後枝内側枝が通っています。腰の場合も同様です。

また、仙腸関節の中に生理食塩水を注入すると仙腸関節の関連痛と思われている部分の痛みが改善することも分かりました。仙腸関節を構成しているFasciaである靭帯に作用してものと考えられます。

以上のような事象を考えあわせると、今まで個々に語られていた関連痛が、どれもFasciaの異常によるものと考えることができます。

つまり、MPSにおけるトリガーポイントと関連痛、椎間関節症の関連痛、仙腸関節障害の関連痛、さらには、神経障害性疼痛におけるデルマトームの痛みも神経周膜あるいは神経鞘などのFascia異常と考えることができます。したがって、これらの痛みは、すべて「エコーガイド下筋膜リリース」で安全に治療できる可能性が出てきました。

記事1:トリガーポイントとは?―原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
記事9:Fasciaリリースの応用―坐骨神経痛様の下肢痛の治療

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