インタビュー

ヘルスリテラシーの向上に重要なもの-医療情報と向き合う

ヘルスリテラシーの向上に重要なもの-医療情報と向き合う
中山 健夫 先生

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授

中山 健夫 先生

この記事の最終更新は2015年10月23日です。

前の記事(「医療情報」とは何か)では、医師自身の「内」にある経験や、医師の「外」にあるエビデンス(科学的な根拠)などの情報が医療の場の意思決定に重要であることをお話しました。では、一般生活者が医療の情報とどのように向き合っていくべきか、そのときに何を知っておくべきかについて、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授 中山健夫先生にご説明頂きました。

一般生活者が医療情報を見るときに知っておくとよいことは以下の3つです。

  1. データの分母は何であるかを意識する
  2. 数字やデータを比較する
  3. 背景の違いを意識する
     

サプリメントの効果といった話から先進医療に至るまで、一般的に上手くいった例ばかりが取り上げられる傾向にあります。例えば、3名の患者さんがよくなったという場合、全体で何人の患者さんに行った結果なのかが分かりません。分母を意識すること、つまり10名の患者さんに対して行ったのか、それとも100名の患者さんに対して行ったのかを意識することが重要です。例え分母が正確には分からないとしても、分母を意識することや、私たちは「普段偏った分子の一部だけ」を見てしまいがちであることを念頭に置いておくことが重要なのです。

他のものと比較しなければその数字が大きいのか、小さいのかは分かりません。例えば、ある病気をある病院では3日で治せるとします(もちろん、そのような病気はなかなかありませんが)。一方他の病院では2日で治すことができたとしたら、「3日で治せる病院」は良い病院ではないですね。もしかすると病院に行かず自宅で安静にしていれば1日で良くなっていたかもしれません。とすれば、病院に行く必要すらなかった、ということになります。このように複数の選択肢を比較すると、「はやく治りたい」というゴールにたどり着く可能性が高くなると言えます。

今後、ますます医療機関が治療成績を公開するようになりますが、この公開されたデータの背景を意識する必要があります。心筋梗塞の心臓カテーテル手術の事故発生率のデータを例に挙げます。ある病院では事故発生率が5%、もう一方の病院では2.5%というデータが公開されるとします。この数字だけを見ると、2.5%の事故発生率の病院で治療を行った方がよいと考えてしまいます。しかし心筋梗塞の重症度をみてみると、2.5%の病院では軽症の患者さんに対する手術がほとんどであるということが分かりました。軽症の患者さんに対する手術が多かったために事故発生率が低かったといえるのです。このように、単に数字を比較するだけでなく、得られたデータ(結果)の背景の違いを意識することで、正しい医療情報を知ることができます。

現代では、多くの情報が容易に手に入ります。その一方で、情報が多すぎるために、どの情報が信用できる質の高い情報なのかが分からなくなりがちです。では、医療情報において「質が高い」とはどのような情報を指すのでしょうか。それは「因果関係」をきちんと示しているものではないでしょうか。

会社での役職と心筋梗塞の関係を例に考えてみます。役職が高くなるほど、心筋梗塞になりやすいという情報があるとします。確かに、偉くなるとストレスが多くなるので、心筋梗塞になりやすいのではないかと思われる方もいるかもしれません。しかしよく考えてみると、役職が高い方は多くの場合年齢も高い方ですね。心筋梗塞は高齢の方がなりやすいですので、心筋梗塞の本当の原因は、役職ではなくて年齢だった可能性が高そうです。

この場合であれば「役職と心筋梗塞」というように目の前の二者の関係だけをみてしまいがちですが、もう少し目を凝らしてみると真の原因が隠れている場合があります。他の可能性も考えた上で、関心のある二者に因果関係があるのかどうかが示されているものが「質の高い医療情報」といえます。反対に、いろいろな可能性の考察が不十分で、「突っ込みどころが満載」な情報は「質が低い」ということになります。

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  • 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授

    中山 健夫 先生

    東京医科歯科大学医学部卒業後、東京厚生年金病院(現在東京新宿メディカルセンター)や国立がんセンター研究所がん情報研究部 室長などを経て現在は京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授を務める。健康情報学を専門とし、公益財団法人日本医療機能評価機構Minds(マインズ)やEBM・診療ガイドラインに関する厚生労働科学研究にも携わっており、日本の医療情報の分野において大きく貢献している。

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