インタビュー

現代に露呈する深刻な飲酒問題

現代に露呈する深刻な飲酒問題
高後 裕 先生

国際医療福祉大学病院 消化器センター長/予防医学センター長、国際医療福祉大学 医学部教授

高後 裕 先生

この記事の最終更新は2016年04月24日です。

2016年にアルコール健康障害対策基本法が施行されました。これに伴い、地域ごとに異なる隠れた飲酒問題が関心を集めています。「アルコール肝硬変をはじめ、地域ごとに飲酒問題が深刻であることを実感しています」とおっしゃるのは国際医療福祉大学病院の高後裕先生。アルコールによる肝障害と地域の飲酒問題にどんな関係があるのでしょうか。お話をうかがいます。

飲酒問題は、長い間「隠れていた」と考えられます

つまり、昔からお酒の問題は存在しているものの、お酒は自分で飲むものでいわゆる「自己責任」的な習慣でもあるため、アルコールで体を壊しても病院に行かない、本当はアルコール依存症なのに治療をしてこなかったという方がたくさんいらっしゃいます。

しかし近年、社会的に「アルコール問題は病気のひとつである」と認められたことにより、病院にかかり体の状態が良くなった方、依存症に対して開発された有効な薬による治療を行っている方などが増えてきました。すなわち、決して個人の問題ではなく第三者の介入が必要な問題であると広く認知されるようになったのです。実は、このアルコールへの認識の変化は世界中でおこっています。

飲酒習慣は地域ごとに異なります。活動時間帯などそもそもの生活習慣が異なるため、問題の本質は地域によるところがあり、地域の飲酒問題はあくまで個人の問題ととらえられがちで、第三者の介入が必要な問題として表に出てくることが少なかったのだろうと考えられます。ここ国際医療福祉大学病院でも、重篤なアルコール関連の内科疾患で次々と患者さんが救急搬送されることがあります。日々、アルコール問題の深刻さを感じます。

ウイルス肝炎は、たとえばC型肝炎などは完全に治癒できる時代がもうそこまできています。しかし、アルコール摂取の悪習慣や依存症問題はそれとは対照的に、いつまで経っても解消できない問題です。冒頭で、飲酒問題は「隠れていた」と申し上げましたが、「増加した」わけではなく、従来からこれだけのアルコール問題が存在していたという点が重要です。日本では、アルコール健康障害に対してアルコール健康障害対策基本法が定められました。それがいよいよ運用段階に入り、国をあげての取り組みが始まっています。世界的にみても、アルコールはタバコと並ぶ重大な影響をもたらす原因であり、直視していかなければならない問題であるという位置付けです。

2016年、医療がすべきアルコール健康障害への介入について地域ごとの具体的な取り組みが始まりつつあります。アルコールが消化器全般に及ぼす影響は無視できず、感染症やがんなどと同じように医療の介入が必要な病気として新たに認識する必要があり、完全にターニングポイントを迎えているといえます。

現在、日本においてアルコールを原因とした病気を治すために使用される医療費は2兆円と推定されています。では、治療が必要なほどお酒の悪習慣がある方がどれぐらいいらっしゃるのか、といえばそれを述べるのは難しいのですが、ここ国際医療福祉大学病院では2015年4月~8月までで、消化器疾患で入院する方のうち1~2割の方がアルコールを原因としています。たとえば、入院した方の総数をおよそ300床ぶんとしてカウントした場合、そのうち25人程度はアルコール疾患による入院であることになります。それもある程度重症で、絶えず入退院を繰り返すような状況です。つまり、同規模であればアルコール疾患で入院している患者さんはその病院に常に一割程度はいて、いずれかの患者さんが退院すれば新たな患者さんがまた入院するという非常に深刻な状況です。おそらくどの地域の病院も同じような状況になっていると考えられます。

アルコール依存症を抱える患者さんは治ってもまたお酒を飲んでしまうことが多いため、社会復帰が難しいといわれます

また、アルコールによる疾患が多すぎて診療が追いつかない病院も出てきています。しかし、だからこそ医療者が介入して、お酒の飲み方やリスクに対する啓蒙活動から始める必要があります。たとえば、依存症の治療はもはや専門とする精神科だけでは足りないため、内科などを含めた第一線の医療機関もアルコールに関する専門的な知識を身につけ、複数科で治療を実施する取り組みが世界的に始まっています。

 

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    高後 裕 先生

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