皮膚の最上層の角質にヒゼンダニというダニの仲間が寄生して、丘疹(きゅうしん)やかゆみが起こる疾患のことを疥癬(かいせん)といいます。ヒゼンダニは同じベッドで寝ることなどで感染することがあることから、性感染症として扱われることがあります。その一方で、介護施設や病院・保育園などで集団感染を起こす可能性もある皮膚疾患です。
日本国内の疥癬診療ガイドラインの作成に尽力された、国立感染症研究所ハンセン病研究センター センター長の石井則久先生に、疥癬の症状や集団感染などについて伺いました。
疥癬には「通常疥癬」と「角化型疥癬」があります。角化型疥癬は発生する確率が低いので、疥癬というと通常疥癬のことを指していることが多いです。
ヒゼンダニが寄生すると、虫に食われた時のような赤く小さな盛り上がりができます。これを丘疹(きゅうしん)といいます。この丘疹があると疥癬の可能性が高くなりますが、ヒゼンダニは皮膚の表面を動くので、丘疹からヒゼンダニは発見できないことが多いです。疥癬による丘疹は、わきの下や胸部、へそを中心とした腹部、性器の周辺、大腿部に発生しやすいです。
もうひとつの代表的な症状として、結節があります。結節とは皮膚が硬く盛り上がった、しこりのことをいいます。男性の陰部など、できやすい範囲は限られるという特徴があります。
ほかにもヒゼンダニが寄生しているかを確認するには「疥癬トンネル」があるかを調べます。疥癬トンネルとは、皮膚の角質に寄生したメスのヒゼンダニが作るトンネルのことで、指の間や手のひら、手首、足などによく見られます。
皮膚症状を確認するときに使用する特殊な拡大鏡を「ダーモスコープ」といい、このダーモスコープを使用した検査のことを「ダーモスコピー検査」といいます。ヒゼンダニが寄生している場合、疥癬トンネルの先端に対してダーモスコピー検査を行うと、ヒゼンダニを見つけることができます。このように、ヒゼンダニの存在を確認後に、疥癬と診断して治療を開始します。
疥癬になると、丘疹や結節、疥癬トンネルのような目に見える症状のほかに、「かゆみ」という自覚症状があらわれます。このかゆみの原因は、寄生したヒゼンダニやダニが落とした抜け殻や糞などに対して生じたアレルギー反応です。
疥癬が性感染症としての性格を持つように、疥癬はヒゼンダニが寄生している人とのスキンシップによって感染します。他にもヒゼンダニが寄生した人が使用したシーツなどの寝具を介して寄生することもあります。
疥癬になったときの症状ですが、免疫機能の低下している人は通常疥癬でも症状が激しく出やすいと言われています。しかし、免疫力が低下するとなぜ症状が激しく現れるようになるのか、ハッキリとしたことはわかっていません。
ほかにも、ステロイド剤を使用している人も症状の重い疥癬になりやすい傾向にあります。特にステロイド剤を塗布した部分にだけヒゼンダニが寄生するケースもあるので、ステロイドの使用とヒゼンダニの寄生には何か関連があると考えられています。
原因のヒゼンダニの生態がよくわかっていません。何が疥癬感染成立や重症化の決め手なるのか断言するのは難しい部分もありますが、今回あげたように免疫機能の低下してる人やステロイドを使用している方は注意する必要があると言えるでしょう。
角化型疥癬は手のひらなど日常生活で摩擦の多い、つまり皮膚の厚くなりやすい部位に生じやすいといわれています。通常疥癬と比べて角化型疥癬の方が角質も厚いため、ヒゼンダニにとって生活の場が広くなります。そのため寄生するヒゼンダニの量も通常疥癬よりずっと多くなります。角化型疥癬になると、ヒゼンダニが寄生した部分の角質は灰色がかった、または黄白色に変化した角質がポロポロと剥がれ落ちやすくなります。
通常疥癬と角化型疥癬では、原因となるヒゼンダニの数に違いがあります。通常疥癬では数十匹程度が寄生しているといわれていますが、角化型疥癬では100~200万匹が寄生していると考えられています。
通常疥癬も角化型疥癬も、症状を起こすのは同じヒゼンダニです。原因は同じなのにどうして症状に差が出るのかというと、患者によって免疫力に違いがあるからです。健康な方であれば、ヒゼンダニに感染しても皮膚の症状やかゆみが出てすぐ医師のところに行きますが、免疫力が低下している人にヒゼンダニが寄生するとダニにとっての生活環境が良くなるのでダニの数が増えます。しかし自覚症状が出にくく皮膚症状が悪化しやすいため角化型疥癬に進行しやすいのです。
ヒゼンダニは温度や湿度など、環境の変化に弱いダニです。ヒトから離れると2~3時間ほどで感染力が低下すると言われていますが、ときにこのヒゼンダニは介護施設や幼稚園・保育園などで集団感染を起こすことがあります。特に角化型疥癬はヒゼンダニの数が多いので通常疥癬と比べて感染力が強く、集団感染を引き起こす原因にもなります。
通常疥癬が角化型疥癬まで進行するのはかなり珍しいケースです。しかしひとたび角化型疥癬になると、そこから感染が広がっていくので角化型疥癬の診断は慎重かつ迅速に行う必要があります。通常疥癬で診断の決め手となる疥鮮トンネルが見つからない時などには、経過を観察して診断することもあります。しかし、角化型疥癬は自覚症状が乏しいため、診断が遅れることもあります。
このように、グレーゾーンよりもクロの人を重視する日本の治療方針では、証拠となるヒゼンダニがいないと疥癬の治療を開始するのが難しいとされています。この日本の方針に対してたとえばアメリカでは、怪しきものはすべて治療する方針もあります。疥癬の患者をひとり見つけたら、患者の家族も全員治療する。そうすることで疥癬の拡大を未然に防ごうという考え方です(日本では認められていません)。
免疫力が低下した方に確認されることが多いことから、疥癬は高齢者施設で発生しやすいため高齢者の皮膚疾患というイメージがあります。しかし2014年・2015年と、保育園での集団感染が確認されました。
感染ルートを調べてみると、介護施設で祖父母に寄生したヒゼンダニが孫に移動して保育園で広がった、介護施設に勤務している夫と保育園に勤めている妻の間でヒゼンダニが感染して広がっていったケースなどを確認することができました。
ヒゼンダニは環境の変化に弱いダニなので、人工的に飼育することができません。そのためヒゼンダニの生態についてはわかっていないことが多いです。生態がよく分かっていないため、具体的な予防策を立てることが難しいとされています。
家族が通常疥癬と診断された場合には
など、いくつかの注意点があります。もし角化型疥癬と診断された場合には、感染力に加えて以下のような点に注意する必要があります。
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