インタビュー

意外に多い?ノロウイルスなど胃腸の感染症。消化器の感染症をめぐるトピックス

意外に多い?ノロウイルスなど胃腸の感染症。消化器の感染症をめぐるトピックス
鳥居 明 先生

鳥居内科クリニック 院長、東京内科医会 学術担当常任理事、東京都医師会 疾病対策担当理事

鳥居 明 先生

この記事の最終更新は2016年12月30日です。

東京都医師会・疾病対策担当の鳥居明理事は、自身のクリニックでは消化器内科を中心に幅広く診療を行っておられます。記事1「感染症の流行と対策や予防-首都・東京の感染症対策における東京都医師会の役割」でご紹介したインフルエンザ麻疹風疹などの感染症以外にも、胃や腸など消化器の感染症は非常に多いといいます。また、胃がんのもっとも大きな原因がピロリ菌の感染であることも近年よく知られるようになっています。消化器の感染症について、引き続き鳥居明先生にお話をうかがいました。

消化器の感染症は非常に多いのですが、大きく分けると夏場に多くみられる病原性大腸菌などの細菌によるものと、冬場に多いノロウイルスをはじめとしたウイルス性のものがあります。ファストフードのハンバーガーに使う肉が薄いパテになって、熱を加える時間などがマニュアルで全部決まっているのは、アメリカで過去に病原性大腸菌の事故を起こしたということがあるからです。

菌は肉の外側に付着することが多いため、ステーキなどの場合は表面がしっかり加熱されていれば真ん中がある程度は生でも大丈夫ですが、パテの場合にはひき肉にするため中にも病原菌が入ってしまいます。ハンバーグやメンチカツは表面だけを加熱しても菌が残ってしまうので、基本的には75 ℃以上の温度で1分以上の加熱が必要です。特に冷凍したものの場合は中の温度が上がらないので菌が残ってしまいます。ですから、先ごろ発生した冷凍メンチカツの食中毒も、ちゃんと加熱調理をしていれば防ぐことができた可能性があります。

また、ノロウイルスなどの場合はさらに高い85 ℃以上の温度で1分以上の加熱が必要です。よく生がきに「加熱用」として販売されているものがありますが、ただ加熱すればよいということではなく、きちんと熱を通す必要がありますし、しゃぶしゃぶなども同じことがいえます。

また、バーベキューや焼肉でも十分に火が通っていないうちに食べてしまうというケースは、特に大学生などの若者に多くみられます。生がきや鳥刺しなど、生で食べるものは多くの方が注意をされると思いますが、加熱調理して食べるものでも、しゃぶしゃぶや焼肉の場合には十分に火が通らないと食中毒が起こります。

ノロウイルスの感染源としてはやはり生がきが一番多いのですが、これは必ずしも提供している飲食店の衛生管理の問題であるとはいえません。かきなどの二枚貝は表面をしっかり洗っていても中に海水が入っているため、そこまで全部きれいにするということが難しいからです。

また、そのときの体調の良し悪しや胃腸の強い人・弱い人など個人差があるため、一緒に食べていても胃腸炎になる人とならない人がいますし、場合によっては重症化することもあります。特にO-157などの病原性大腸菌の場合には、乳幼児や高齢者が重症化しやすいといわれています。また、睡眠不足や疲労、アルコールの摂取なども影響するのではないかといわれていますが、やはり年齢がもっとも大きな要因であると考えられています。

感染性腸炎と毒素性腸炎では、発症の仕方に違いがあります。食べて具合が悪くなって病院に来られる方は、その前に何を食べたかということを必ずおっしゃるのですが、実は2~3日前に食べたものが原因となっていることもあります。毒素性の場合には食べてからすぐに、おおよそ7~8時間以内に発症します。一方、感染性の腸炎の場合には、一般的には48~72時間で発症するといわれています。

黄色ブドウ球菌など毒素性のものであれば、具合が悪くなる少し前に食べたもので原因が思い当たることが多いのですが、感染性腸炎の場合にはO-157などを含め、菌がある程度増殖してはじめて発症するということがあるため、むしろ2~3日前に食べたものを考えていただいたほうがよいでしょう。

特に消化器専門の医師はそこまでお尋ねしていることが多いはずです。2~3日前に何を食べたかといわれてもなかなかすぐには思い出せない方も多いのですが、先ほど申し上げた肉類や生で食べたもの、特に貝類などを食べていないかということをぜひ思い出して医師に伝えるようにしていただきたいと考えます。

腹痛

感染症そのものというよりは、過敏性腸症候群IBS: irritable bowel syndrome)の発症の部分で話題になっていることとして、感染を起こしたときにストレスが加わるとそれが長引いてしまい、感染後の過敏性腸症候群を発症するということがよくいわれています。これはPost-infectious IBS、PI-IBSとも呼ばれています。

実際に患者さんを調べて便の培養検査をすると、それほど強い菌ではありませんが、病原性大腸菌のO-1やO-18、あるいは黄色ブドウ球菌などが見つかる方が半分以上いらっしゃいます。患者さんは菌そのものによって下痢をするというよりも、むしろ共生菌となって一緒にいるような状態になります。

もちろん急性期には下痢をしたりすることもありますが、ある程度は腸内に居ついてしまうと、特に悪さをしないで共生している状態となります。ところが、腸内に菌が居ついて普段は大丈夫な方であっても、ストレスが加わったりしたときに下痢・腹痛の症状が出るという経過をたどることがわかってきました。すなわち、共生菌がいるためにストレスに対する閾値が低下するということです。

ストレスが加わってストレスホルモンが分泌されると、それが腸に働きかけ、腸からセロトニンという物質が出ます。このセロトニンが腸の動きを活発にしたり敏感にしたりするのです。共生菌がいるとこのセロトニンに対する感受性が増すと考えられています。セロトニンをブロックすると菌はそのまま腸内にいても症状が治るということがわかってきました。

普通は菌がいれば悪さをするのですが、菌がいてもセロトニンをブロックすることにより症状が改善するということになります。ただし、過敏性腸症候群の患者さんのうち、どの方が菌を持っているかは症状だけでは実際のところまだわかっていません。便の培養検査をして、病原菌が検出されれば抗生剤を投与して除菌をするということは、過敏性腸症候群の治療の一つの選択肢になるといえます。実際に米国では過敏性腸症候群の治療に非吸収性の抗生剤が用いられることもあります。

もうひとつの考えとしては、感染によって下痢や吐き気が起こり、そのときにストレスが加わるとその経路が染み付いてしまい、次にストレスが加わると条件反射のようにその症状が出てしまうというような、いわゆる条件反射による自律神経のみだれが原因とすることも考えられています。このように、感染後の過敏性腸症候群に関しては現在、さまざまな考えが出てきているところです。

一般的には嘔吐(おうと)や下痢で出るものが全部出てしまえば症状はよくなりますし、ウイルスの場合は抗体ができればそれで駆逐できるのですが、やはりその間の症状は非常につらいものがあります。病院に来ていただければ、細菌性のものであれば抗生剤を使うことでよくなります。O-157などでもレボフロキサシン水和物やホスホマイシンカルシウム水和物などの抗生剤を用いることで腸管内感染を抑えることができますが、ウイルスには抗生剤が効かないので、ウイルス性の場合にはある程度時間が経たないと治りません。

ただし、幸いなことにノロウイルスの感染症などの場合、症状が激しく現れるのは2~3日だけで、そのあとの回復は比較的早いといえます。もちろんその2~3日は水のような下痢になってしまい、ご本人は辛い思いをされるのですが、その期間にある程度水分を摂ることができれば脱水症状を起こさずに済みます。

しかしウイルス性の場合、多くは腸だけではなく胃腸炎になって嘔気(おうき・いわゆる吐き気)・嘔吐がともないますから、そうすると食べることも水分を摂ることもできず出てしまうばかりで脱水症状に陥ってしまいます。

抵抗力によって個人差があるため、体力のある元気な方は大丈夫でも、やはり小さいお子さんや高齢者の場合には、脱水によって命に関わるような腎不全を起こしてしまう恐れがあります。ですから、ちょっと食べ過ぎてお腹がゆるいという程度であれば、少し様子をみていてもいいのですが、嘔吐と水のような下痢がある場合には、次の段階で脱水ということが起きる心配がありますから、やはりかかりつけ医などを受診されたほうがよいと考えます。

先に述べたように、病院に行ったからといってウイルス性胃腸炎がすぐに治るわけではありませんが、対症療法として吐き気や下痢を抑えたりすることはできます。また、水分を入れるだけでもずっと楽になりますので、本当に必要であれば点滴をすることもあります。

感染症と「がん」はまったく別のもののように思われますが、実は感染症から起きるがんもあります。たとえば胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌(以下、「ピロリ菌」)の感染が大きな原因であることがわかっています。また、子宮頸がんの場合には、ヒト・パピローマウイルス(HPV)の感染が原因となります。子宮頸がんを予防するためにワクチン接種が始まりましたが、日本では現状、副反応の問題で滞っている状態です。また、肝細胞がんB型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染が密接に関与しています。

ピロリ菌の場合には、除菌をすることによって多くの感染は防ぐことができますから、その後の将来的な胃がんの発症はかなりの率で予防できるということがわかっています。日本ではまだピロリ菌の感染者は多いのですが、これも年代とともにどんどん減ってきています。地域によっては中学生を対象に抗体検査を実施してピロリ菌の有無を調べ、早いうちに除菌することによって胃がんを予防するという取り組みも積極的に行われるようになってきています。

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  • 鳥居内科クリニック 院長、東京内科医会 学術担当常任理事、東京都医師会 疾病対策担当理事

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