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インタビュー

感染症の流行と対策や予防-首都・東京の感染症対策における東京都医師会の役割

感染症の流行と対策や予防-首都・東京の感染症対策における東京都医師会の役割
鳥居 明 先生

鳥居内科クリニック 院長、東京内科医会 学術担当常任理事、東京都医師会 疾病対策担当理事

鳥居 明 先生

1300万人を超える人口が集中している東京都では、感染症への対策が非常に重要です。東京都医師会は、会員である開業医や一般病院への情報提供や対策を立案するだけでなく、企業や事業者で働く人々を対象にした感染症対策プロジェクトにも協力しています。東京都医師会・疾病対策担当の鳥居明理事にお話をうかがいました。

感染症対策として東京都医師会が行っていることは大きく2つあります。医師会の会員であるかかりつけ医や開業医、その他一般病院などに対して、感染症の流行状況などの情報提供を行うことと、その対策を立てることです。

東京都の上には国、つまり厚生労働省がありますし、東京都の中にはまたそれぞれの地区があります。したがって、東京都医師会の役割としてはその間に入って連絡を密にしながら、情報提供を行い、対策を考えるということが中心になります。

また、全体的な感染症のコントロールとして、特に最近では外来感染症、つまり外国から来る感染症の問題があります。近年話題になったものとしてはエボラ出血熱デング熱、ジカ熱などがありますが、これらに対する東京都の取り組みを医師会として支援していくということが、もうひとつの大きな仕事になります。

今までは外国からの入り口は成田国際空港が中心でしたが、これからは羽田国際空港の重要性がますます高くなってくると考えます。もちろん、成田からであっても羽田からであっても、東京を訪れる人は非常に多いわけですから、その多数の来訪者への対策も今後非常に重要になってきます。特に2020年のオリンピック、パラリンピックはこれから大きな課題になると考えます。

感染症の流行状況については、まず国から東京都に情報が伝えられ、都の福祉保健局から東京都医師会に伝わってきます。東京都医師会では感染症予防検討委員会を定期的に開催し、関係者が集まって情報交換を行っています。そこで検討される感染症の発生動向情報に関しては、定点医療機関でどういうものが出ているかということを定期的にチェックしています。たとえばインフルエンザであれば、小児科定点と内科定点を合わせて419の医療機関で定点観測を行い、発生動向がわかるような形をとっています。

さまざまな感染症の中で特に重要なものとしては、呼吸器領域ではインフルエンザに加えて、結核が再び新たな問題となっています。また消化器領域では、冷凍メンチカツの話題が記憶に新しい病原性大腸菌に加え、冬場は特に生がきなどによるノロウイルスの問題があります。こうした感染症の発生状況について情報を提供し、対策を行うことが重要であると考えます。その感染症対策の中でひとつの柱となる予防接種についても、東京都と協力して接種体制を確立することが東京都医師会の大きな仕事になっています。

予防接種

一般に「はしか」と呼ばれる麻疹(ましん)、そして「三日ばしか」とも呼ばれる風疹(ふうしん)については、きちんと予防接種をしている方であればひとまず感染の心配はないのですが、中には予防接種をしていない方もいらっしゃいます。麻疹・風疹のどちらも一度かかっていれば大丈夫なのですが、予防接種をしていない方は抗体ができていませんので、かかっていない場合には感染する可能性があります。ですから、まず抗体があるかどうかを調べて、そこで抗体がない方には予防接種を行うことが必要です。

麻疹は数年前、大学生の年代を中心に大流行したことがありました。流行当時、大学生だった方々には、実は麻疹の予防接種を受けていない方が多かったのです。現在は定期接種で全員が予防接種を受けていますが、その当時は任意接種だったため、少し副作用が出るとお母さんが接種を控えるということもありました。その結果、抗体を持っていないまま成人になっている方が多かったのです。

また、もうひとつの理由としては、1回予防接種をしていてもある程度の年齢になるとその抗体値が少し下がってしまうということがあります。そのために感染が十分に予防できなかったという可能性があるのです。昔は一家族にたくさんの兄弟姉妹がいたため、感染症に対する予防以前の問題として、その病気にかかることによって免疫ができていることが多かったともいえます。ですから、多くの場合、母子手帳を見ると過去に麻疹や風疹にかかっているかどうかがある程度わかるようになっています。

しかし、他のウイルス性疾患でも麻疹・風疹と同じような発疹が現れるものがあります。麻疹の場合は症状が重くなることが多いので比較的わかりやすいのですが、風疹は「三日ばしか」とも呼ばれるように、症状だけでは判断がつかないことが多いのです。ですから、やはり抗体を調べた上で抗体を持っていない方はきちんと予防接種を受けるべきであると考えます。

いったん流行してしまうとワクチンが不足してしまうこともありますし、接種までに検査が間に合わない場合には、抗体を調べないでそのまま打つというような状況も生じてしまいます。ですから、ご自分が抗体を持っているのかどうかということも含めて、やはり日頃から注意をしておくことが望ましいのです。

企業で働く人

感染症対策の対象となるのは開業医やかかりつけ医だけではありません。もうひとつ重要なのは都内にある事業所、つまり会社です。各企業では昨今、健康経営ということが非常に重要視されています。経営面でも感染症をいかにうまくコントロールするかによって、企業の業績が変わってくるということもあります。まずは職員が健康でなければ会社が成り立たないということで、東京都医師会としても企業を対象とした取り組みに力を入れています。

最近の例としては風疹の対策が挙げられます。風疹自体はそれほど心配のある病気ではありませんが、妊娠中の方がかかると生まれた赤ちゃんに先天性風疹症候群といって、聴力障害などの後遺症が出ることがあるため注意が必要です。妊娠の可能性がある年代の女性は企業で働いている方も多いので、開業医の現場だけではなく、企業側からも働きかけをするということが大切です。

たとえばインフルエンザなどで従業員の半数が休んでしまったら企業活動自体が成り立ちません。ですから今はBCP(Business continuity planning:事業継続計画)といって、職場で感染症が発生した場合でも、どのようにして企業の活動を続けられるかということが求められています。また、福利厚生という意味だけではなく、インフルエンザなどに関しては企業全体で予防接種を積極的に受けることによって予防をするというような取り組みも出てきています。

インフルエンザなどの場合は、かかった人が無理をして職場に出てくることで他の人にうつしてしまうと迷惑がかかるということに留意すべきですし、また、マスクをつけることによって防げるものについては、できるだけそうするべきであると考えます。接客の場などではマスクの着用について難しい部分もあろうかと思いますが、基本的にはマスクを正しくつけることが感染症の予防には有効であるといわれています。

特に最近では結核が再び問題になっていますが、結核の場合もやはりかからないようにすることと同時に、他の人にうつさないということが非常に大切です。咳喘息(せきぜんそく)やアレルギー気管支炎など、感染症以外でも風邪が終わった後に咳が長く続く場合もあり、必ずしも咳だけですぐに結核に結びつけることはできませんが、咳が長引いたり微熱が続いたりするというような、いくつかの疑われる症状があれば、積極的に医療機関を受診して調べることをお勧めします。また、マイコプラズマ肺炎は非定型肺炎と呼ばれるタイプの肺炎で、数年に一回程度の割合で流行がみられるので、やはり注意が必要です。

インフルエンザが流行したときに、自宅で待機することによって感染を拡げないようにするという方法があります。たとえばインフルエンザが流行していても、年末年始の休みの期間を境に学校等での感染が一時的に沈静化するということは実際よく経験されるところです。

その一方で、帰省のため新幹線や飛行機などで移動することによって全国に拡がる危険性もあるのですが、少なくとも学校・職場などでの流行については、お正月には目に見えて減りますし、私自身も実際の診療を通してそのことは身近に感じています。ですから、自宅待機は感染症の拡大を抑えるために非常に有効なのではないかと考えます。

その逆に、大勢の人が集まるところに行くと感染症が一気に広がる可能性があります。先日も麻疹が流行したときに、症状が出ているにもかかわらずコンサートに出かけた方がいたということが問題になりました。幸いそのときには拡がらずに済みましたが、関西国際空港では感染がかなり拡がってしまったことからもわかるように、麻疹は非常に感染力が強いため、会場に1人いらっしゃるだけでもかなり多くの方が感染する危険性があるといえます。

したがって、感染を防ぐには人の多いところに近づかないということもひとつの方法です。そして、ご自身の体調がすぐれないと思ったときには、そういうところには行かないということもぜひ守っていただきたいと考えます。

活気のある職場

東京都と東京商工会議所、そして我々の東京都医師会が連携し、2015年から企業の感染症対策を支援する新プロジェクトを展開しています。

これには以下のような3つのコースがあります。

  • コース1:感染症理解のための従業者研修
  • コース2:感染症BCP(業務継続計画)の作成
  • コース3:風疹(ふうしん)予防対策の推進

まず感染症に対する知識を持っていただくということが、このプロジェクトの最初の出発点となっています。特に今回は2012〜2013年に起きた風疹の流行がひとつのきっかけとなっていますが、風疹にかかると体に発疹が出るというだけではなく、妊娠中の方が感染すると先天性風疹症候群が起こるというようなことまでは、まだ十分に知られているとはいえません。

さらに妊婦さんご本人が注意していても、そのパートナーが風疹を持ち込むことが多いため、やはりその対策も同時に行う必要があります。したがって、年代的にはちょうど会社勤めをしている方々を対象に、感染防御をしていくということが大切になります。

実際に参加された企業については、感染症に関する知識を持っていただくところまではできているのですが、やはり最終的には防御のところまで実施することが目的ですから、その意味ではまだワクチン接種の奨励というところまでは達成していないところが多いというのが現状です。

最近では「健康格差」という言葉がよく使われていますが、こうした感染症の予防に対しても、やはり会社によって取り組みには非常に格差があります。熱心な企業ではすでにコース3まで進んで予防接種に取り組んでいるところもありますが、このプロジェクトに参加していない企業もまだまだたくさんあります。まずひとつでも参加していただければ基礎的な知識が得られますので、ぜひ多くの企業に参加をしていただきたいと考えます。

蚊

海外から入ってくる感染症としては近年、ジカ熱やデング熱のような蚊媒介感染症の問題があります。また、今回は国内に感染者が出ていませんが、エボラ出血熱などもあります。そしてもうひとつ重要なのが性感染症です。実は昔からある梅毒(ばいどく)が、ここへ来て急激に増えているという問題があります。

もちろん、HIVの感染によって発症するAIDS(後天性免疫不全症候群)が引き続き最重要課題であることは変わっていません。東京都では、HIVの検査については保健所その他が窓口となって引き受けていますが、それとは別に新宿駅の南口に検査・相談の窓口を設けています。

東京都南新宿検査・相談室(東京都の委託事業)

この検査・相談室の運営には東京都医師会も協力しています。一般の医療機関やかかりつけ医での検査・相談には抵抗があるという方も、匿名でかかることができます。

AIDSは治療法が進歩して以前のような不治の病ではなくなりつつありますが、未だ感染者も多く、検査を受けなければ感染に気づきません。また、以前は男性の同性愛者に非常に多かったのですが、今は異性間でも感染が起きるようになり、女性の感染者が増えています。また、梅毒などはむしろ女性患者が急増しているという傾向もありますので、時代とともに難しい問題、新たな対策を講じなければならないことも起きているといえます。

 

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  • 鳥居内科クリニック 院長、東京内科医会 学術担当常任理事、東京都医師会 疾病対策担当理事

    鳥居 明 先生

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