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インタビュー

臍帯血移植とは?臍帯血バンクの仕組みや適応疾患について

臍帯血移植とは?臍帯血バンクの仕組みや適応疾患について
内田 直之 先生

虎の門病院 血液内科 部長

内田 直之 先生

この記事の最終更新は2017年10月04日です。

臍帯血移植とは赤ちゃんとお母さんを結ぶ「へその緒」から取れる血液を使って、白血病再生不良性貧血などの血液の病気を治療する手段です。日本では1999年に臍帯血バンクが発足してからさかんに行われるようになりました。日本の臍帯血移植件数は世界で最も多く、年間1,200〜1,300件ほどです。

今回は臍帯血移植の概要や臍帯血バンクの仕組みなどについて国家公務員共済連合会 虎の門病院 血液内科部長の内田直之先生にお話を伺いました。

疑問

臍帯血移植とは、骨髄移植・末梢血幹細胞移植などの造血幹細胞移植の一つです。ここでは造血幹細胞移植についても含めまして説明します。

臍帯血移植は他の造血幹細胞移植と同様、下記疾患の治療方法として用いられています。

<おもな臍帯血移植の適応疾患>

骨髄不全とは何らかの理由で骨髄内に正常な造血幹細胞がなくなってしまい、血液が作れなくなってしまう疾患です。また一方で血液の悪性腫瘍の場合、治療のために大量の抗がん剤や放射線を使うと、悪性腫瘍だけでなく正常な造血幹細胞までも死滅し、血液が作れなくなります。そこに造血幹細胞移植をすることで、造血幹細胞を補い、正常に血液を作れるようにします。

なかでも最も多く臍帯血移植が用いられている疾患は白血病です。白血病の臍帯血移植については記事2『臍帯血移植による治療方法は?−白血病の場合』でもお話していますので御覧ください。

血液は血液細胞によって構成されています。血液細胞とは「白血球」「赤血球」「血小板」などのことを指し、それぞれ体の中で重要な役割を果たしています。

造血幹細胞はこれらの血液細胞を作り出せる細胞のことを指します。造血幹細胞は主に骨髄の中に存在し、細胞分裂をしながらそれぞれの血液細胞を作り出しています。

造血幹細胞移植を行うためには移植片*となる骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血を提供してくれる健康な方の協力が必要です。移植片を提供してくれる方のことを「ドナー」といいます。

造血幹細胞移植では他者の骨髄や血液を患者さんの体内に入れる際、患者さんとドナーの血液の性質の合致が必要です。具体的にはHLA型という白血球の型が一致している必要があります。血液といえば「血液型」という性質の区分がよく知られていますが、これは赤血球の性質で区分されたものであり、造血幹細胞移植の際には考慮する必要がありません。

移植片……体から採取した正常な組織のこと。

HLA型(Human Leucocyte Antigen)とは「ヒト白血球抗原」と呼ばれ、8つの抗原を2組4座で組み合わせて構成されています。HLA型は両親から半分ずつ遺伝します。そのため兄弟同士で移植を行う場合、4分の1の確率でHLA型が合致し、移植が可能になるというわけです。

HLA型が合致していない場合、患者さんの体内に入った白血球が強く反応を起こし、 GVHD(移植片対宿主病)が強く現れてしまう恐れがあります。特に成人したドナーから移植片をもらう骨髄移植や末梢血幹細胞移植の場合には、HLA型が完全一致したドナーからの移植が望ましいといわれています。そのためドナーをみつけることが難しいという側面があります。

一方臍帯血移植では生まれたばかりの赤ちゃんの血液を移植するので、HLA型が完全に一致していなくても移植することができます。そのため臍帯血移植を希望する患者さんのうち、95%程度は移植できる臍帯血に出会うことができます。

GVHDについては記事2『臍帯血移植による治療方法は?−白血病の場合』にて詳しくお話しています。併せて御覧ください。

造血幹細胞移植には下記の3つの手段があります。ここでは上記2つの移植についてご説明します。

<造血幹細胞移植>

  • 骨髄移植
  • 末梢血幹細胞移植
  • 臍帯血移植

骨髄移植とは造血幹細胞を持つ骨髄液を健常な方の腰骨から採取し、患者さんに移植する治療方法です。

末梢血幹細胞移植とは血液内に流れ出た造血幹細胞をアフェレーシス*という特殊な採血方法によって採取し、患者さんに移植する手段です。造血幹細胞は基本的には骨髄の中にありますが、造血機能が活発になっているときやG-CSFという薬剤で刺激すると血液中に流出します。

アフェレーシス……血液浄化療法の1つ。血液の成分を分離する採血方法。

成人

骨髄移植・末梢血幹細胞移植は患者さんに合致する骨髄・末梢血幹細胞を持つ小児・成人からそれらを採取し、患者さんの体に移植する治療方法です。血縁者間の移植では小児科で小児の兄弟姉妹から採取する場合があります。骨髄バンクは20歳~55歳です。

これらの移植ではドナーを大きく2つに区分することができます。

1つめは患者さんと血縁関係にあるドナーです。たとえば、患者さんのご兄弟やご両親、お子さんから採取する場合が該当します。造血幹細胞移植のなかで最も歴史が長いのが、この血縁関係にある方からの移植です。

2つめは患者さんと血縁関係のない、非血縁のドナーからの移植です。これは1991年に発足した「骨髄バンク」により可能となりました。骨髄バンクではドナー登録をされている一般の方の骨髄を、骨髄移植・末梢血幹細胞移植を必要としている患者さんに提供し、治療を行っています。骨髄バンクが発足したことにより、登録した患者さんのうち3分の2の方は自身に合致する骨髄・末梢血幹細胞を持ったドナーに出会うことができ、治療を行えるようになりました。

以前は上記2つの造血幹細胞移植を以てしてもHLA型の合致する骨髄や末梢血幹細胞に出会えず、移植が必要であるにもかかわらず行えない患者さんもいらっしゃいました。そこで臍帯血移植という第三の造血幹細胞移植が誕生しました。

臍帯血移植とは赤ちゃんのへその緒の中に含まれる「臍帯血」を患者さんに移植する治療方法です。

臍帯血とは、赤ちゃんとお母さんを結ぶ「へその緒」に含まれる血液です。臍帯血は長らく分娩後破棄されていました。しかし1982年、京都大学医学部の中畑龍俊先生が赤ちゃんの血液には造血幹細胞が多く含まれているということを発見、1988年にはフランスで世界初の臍帯血移植が行われました。日本に臍帯血バンクが設立されたのは1999年で、2017年現在18年が経過しました。

赤ちゃん

臍帯血移植に用いられる臍帯血は、臍帯血バンクと提携している産婦人科にてご家族の承認を得た場合に採取されます。分娩後に切り離したへその緒から採取されますので、赤ちゃんやお母さんに痛みはありません。産婦人科にて採取された臍帯血は細胞が傷む前に臍帯血バンクに搬送され、凍結保存されます。

近年、臍帯血移植を行う件数が増えてきました。治療件数が増えると、「臍帯血が足りなくなるのではないか」と懸念する方もいらっしゃいますが、今のところその心配はありません。

2017年現在、臍帯血バンクでは常時1万点ほどの臍帯血が保管されています。病院で患者さんに移植が必要と判断された場合、ほとんどの方で臍帯血バンクへの申請からおよそ2〜3週間で臍帯血を用意することができます。

血縁ドナーからの移植、骨髄バンクドナーからの移植、臍帯血移植は2017年現在、すべて合わせて年間3,000〜4,000件ほど行われており、その比率はおよそ1:1:1です。造血幹細胞移植が必要になった場合、最初に検討されるのはご兄弟など血縁関係にある方からの骨髄・末梢血幹細胞移植です。これに該当する方がいらっしゃらなかった場合、次に検討されるのは骨髄バンクによる非血縁者からの骨髄・末梢血幹細胞移植です。

骨髄バンクに患者さんに合致するHLA型のドナーがいない場合や、患者さんの容態が悪く骨髄バンクからの移植片の提供を待つ猶予がない場合(骨髄バンクは移植片の提供に平均5か月ほど時間がかかる)には、臍帯血移植を検討します。

2017年現在、造血幹細胞移植はどれを選択しても治療成績に大幅な差はありません。実は臍帯血移植が始まったばかりの2000年前半は、他の造血幹細胞移植と比較して臍帯血移植後は合併症に罹患する割合が多いといわれていました。しかし治療方法が確立してから18年が経過した現在では、知識や経験などの蓄積もあり他の造血幹細胞移植に引けを取らない治療成績を誇っています。

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