臍帯血移植では白血病や再生不良性貧血などの疾患を治療することができます。臍帯血移植がもっとも多く行われている疾患は白血病です。白血病細胞を死滅させるためにまず大量の抗がん剤や放射線治療が行われますが、これにともなって同時に死滅してしまう正常な造血幹細胞を移植し、再び正常に血液を作れるようにするために臍帯血移植等の造血幹細胞移植が行われます。
今回は白血病を例に取り、臍帯血移植の治療の流れとともに、臍帯血移植のメリット・デメリットについて国家公務員共済連合会 虎の門病院 血液内科部長の内田直之先生にお話を伺いました。
以前は白血病といえば完治の難しい、死に至る疾患というイメージが強かったと思います。しかし近年は化学療法の発展や、臍帯血移植をはじめとする造血幹細胞移植の発達によって、疾患を克服することも可能となってきています。白血病の治療には大きく分けて2つの手段があります。
<白血病の治療方法>
2017年現在、白血病の患者さんのうち30〜40%は抗がん剤のみで治療が完結するといわれています。一方で抗がん剤だけでは治療が完結しない60〜70%の患者さんには、臍帯血移植等の造血幹細胞移植を行います。
抗がん剤に加えて造血幹細胞移植を行うと、抗がん剤のみで治療を行うよりもより強力に白血病細胞を攻撃することができます。しかし移植を受けることによって生じるリスクもあるため、すべての患者さんに移植を行うのではなく、必要に応じて選択されなければなりません。
特に高齢の方など体力が落ちている方に移植を行う場合には、抗がん剤や放射線治療による移植前治療の段階で使用量を減量するなどして治療が安全に行えるような工夫をします。
白血病の場合、臍帯血移植は白血病細胞を死滅させるための大量抗がん剤、放射線治療のあとに行われます。これらの治療は移植前治療と呼ばれます。移植前治療の後なぜ造血幹細胞移植が必要になるかというと、移植前治療後の患者さんの体内では治療によって白血病細胞だけでなく、患者さんが元来持っていた正常な造血幹細胞も死滅してしまっているからです。
その後いよいよ臍帯血移植を行います。臍帯血移植は外科的な移植手術とは異なり、治療自体はものの数分で終わってしまいます。臍帯血バンクから冷凍された状態で届いた臍帯血を37℃の恒温槽に入れて溶かし、患者さんの血管内に注入します。臍帯血は20cc程度と非常に少量であるため、移植自体はおよそ5分で完了してしまいます。
白血病の患者さんにとって治療の山場となるのは移植そのものではなく、むしろ移植前治療が始まってからの数週間〜数か月です。白血病の患者さんに臍帯血移植をはじめとする造血幹細胞移植を行う場合、大きく3つの山があるといえます。
白血病の治療では白血病細胞を死滅させるために移植前治療(大量の抗がん剤・放射線)を患者さんに投与します。移植前治療は1週間ほど行われます。これらの治療を行うと下記のような症状が現れることがあります。
<抗がん剤・放射線の大量投与による主な副作用>
抗がん剤・放射線による移植前治療が完了すると、白血病細胞の多くは死滅してしまいます。それと同時に赤血球・白血球・血小板など、人が生きていくために必要な血液細胞も死滅してしまいます。特に白血球は体内に入った細菌を攻撃し排除する役目を持っているため、死滅してしまうと肺炎や敗血症などの感染症にかかりやすくなります。
死滅した血液細胞を新たに作り出すために臍帯血移植が行われますが、移植した細胞が定着し、十分数の血液細胞を増やすまでには2〜3週間の時間がかかります。移植した細胞が定着し血液細胞数を増やすことを「生着」といいます。生着までの2~3週間は患者さんにとって苦痛の多い期間になります。私たちは抗生剤などで適切な治療を行いながら白血球が増加するまでのケアを行います。
移植から2~3週間後、晴れて血液細胞が生着すると、次に懸念されるのが生着した白血球による異物反応です。生着した白血球は移植されたものであり、元来患者さんの体に備わっていた白血球ではありません。そのためこの白血球にとって、体内にある細胞が「異物」と認定されます。白血球は体内に入った異物である細菌を攻撃し、排除するのと同じく、異物と認識したものを攻撃します。この異物反応のことを「GVHD」といいます。
GVHDとは日本名で「移植片対宿主病」といいます。それぞれ下記の単語の頭文字で構成されています。
<GVHDとは?>
先程も述べましたように、GVHDでは移植された白血球が患者さんの体内にあるものを「異物」とみなし、攻撃してしまいます。
移植片……体から採取した正常な組織のこと。
GVHDには大きく分けて2つの種類があります。
1つめは急性GVHDです。こちらは血液細胞の生着から間もなくして起こり、重篤な症状をもたらします。
2つめは慢性GVHDです。こちらは移植後3か月以上経過してから起きる症状です。皮膚が固くなり、膠原病のような症状を起こすなどが挙げられます。
急性期GVHDは実にさまざまな症状を引き起こしますが、特に現れやすい症状は下記の3つであるといわれています。
<GVHDによって現れやすい症状>
そこで移植前日からGVHDを抑える薬を投与し、生着後も様子をみながら治療します。これらの症状が落ち着くまでには最低でも2か月ほど期間がかかります。
GVHDは重篤であれば死に至ることもあり、厳重な管理が必要です。しかしながら、この反応は白血病の患者さんにとって必要なものであるともいえます。なぜなら、生着した白血球は患者さんの体内にある生存に必要な正常細胞を攻撃するだけでなく、抗がん剤・放射線治療を以てしても死滅させることのできなかった白血病細胞を攻撃し、死滅させるはたらきを持っているからです。このはたらきのことを「GVL効果*」あるいは日本語で移植片対白血病・リンパ腫・骨髄腫効果といいます。
難治性の白血病細胞は大量の抗がん剤・放射線治療を投与しても0にすることはなかなかできません。そして残っている白血病細胞がある限り、時間が経過したあと再発してしまう恐れがあります。しかし、移植によって生着した白血球が残った白血病細胞を攻撃し、体内に残る白血病細胞を0にしてくれるのです。そのため軽度のGVHDが起こることは、GVL反応が起き、白血病の再発を防ぐために有用であるといえます。
GVL反応……graft(移植片)versus(対)leukemia(白血病)の頭文字をとったもの
記事1『臍帯血移植とは?臍帯血バンクの仕組みや適応疾患について』から本記事に渡って臍帯血移植についてお話してまいりました。いままでお話してきたことを踏まえ、ここでは臍帯血移植のメリットについてまとめてご紹介します。
<臍帯血移植の主なメリット>
臍帯血は分娩時に切り離したへその緒から採取されますので、赤ちゃんやお母さんには痛みや苦痛がありません。その一方、臍帯血移植以外の造血幹細胞移植では少なからずドナーに侵襲が及びます。
たとえば骨髄移植ではドナーに数日間の入院と全身麻酔が必要となります。このようにドナーへの負担がないことは臍帯血移植の大きなメリットといえます。
記事1で述べましたように、大人のドナーから造血幹細胞移植を行う場合にはHLA型*が完全に一致していることが望ましいといわれています。しかし、臍帯血移植の場合には赤ちゃんの血液を移植しているため、HLA型が完全に一致していなくても、一部合致していれば移植可能であるといわれています。
そのため移植可能な移植片をみつけることが、他の移植と比較して容易であるといえます。
HLA型……「ヒト白血球抗原」。血液内の白血球の性質を示す区分
白血病は重篤な場合、数日で白血病細胞が激増してしまうこともあり、早急な治療が必要になることもあります。しかしながら、たとえば血縁者からの移植が難しく、骨髄バンクから移植片を受け取る場合には、申請から5か月程度時間がかかります。このような場合、臍帯血移植が可能になる前は、移植を諦め、抗がん剤や放射線のみで治療せざるを得ないこともありました。
臍帯血バンクでは2017年現在常時1万点ほどの臍帯血を備蓄しています。そのため病院側の申請からおよそ2〜3週間で、患者さんのもとに臍帯血を届けることができます。
臍帯血移植は比較的慢性GVHDが少ない傾向にあるといわれています。
また、一方で臍帯血移植には下記のようなデメリットが見受けられます。
臍帯血移植は、他の造血幹細胞移植と比較してやや生着までに時間がかかる傾向があります。他の造血幹細胞移植では2週間ほどで生着するのに対し、臍帯血移植では生着するまでに3週間ほどかかるといわれています。
生着までの期間は白血球が激減しており、感染症にかかりやすいため、慎重に管理していく必要があります。
臍帯血は他の造血幹細胞移植に用いられる移植片と比較すると、一度に移植される造血幹細胞が少量となります。そのため体重が90kgを超えるような体の大きい方の場合には移植された造血幹細胞の数が少なく、生着に普通より時間がかかることがあります。
白血病にはいくつかの治療方法があります。それぞれにメリットやデメリットがあり、どれを選んだらよいか迷う患者さんやご家族の方も多いのではないでしょうか。
虎の門病院では臍帯血移植が盛んに行われています。しかしすべての患者さんに臍帯血移植がベストの選択肢であるとは限りません。それぞれの患者さんに合わせた治療を考え、提案するよう心がけています。実際に治療に迷われている方は、ぜひご相談いただきたいと思います。
虎の門病院 血液内科 部長
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