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インタビュー

造血幹細胞移植のドナー選択-それぞれのメリット・デメリットと優先順位

造血幹細胞移植のドナー選択-それぞれのメリット・デメリットと優先順位
栗田 尚樹 先生

筑波大学 医学医療系血液内科 講師

栗田 尚樹 先生

この記事の最終更新は2017年08月21日です。

造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼうししょく)とは、白血病悪性リンパ腫再生不良性貧血などの血液疾患を持つ患者さんに対し、それらの疾患の治癒を目指して行われる強力な治療です。血液のモトとなる造血幹細胞を、どなたから提供を受けるかによって、移植の成功が左右されます。そして造血幹細胞を提供する方(ドナー)を選ぶ上で考慮すべき重要なポイントは、ドナーと、造血幹細胞の提供を受ける患者さん(レシピエント)のHLA(ヒト白血球抗原)です。

ドナーとして優先して選ばれるのは、患者さんのご兄弟姉妹のうちHLAが合致する人です。しかし、日本では少子化の影響などから、そのようなドナーをみつけられる患者さんは全体の3割程度に留まっています。兄弟姉妹に適切なドナーがいない場合は、骨髄バンクドナーからの移植や臍帯血移植が行われます。各ドナーの特徴とメリット・デメリット、選択の優先順位について、筑波大学附属病院血液内科講師の栗田尚樹先生にお話しいただきました。

HLAは、免疫系が自己と他者を区別する上で最も目立つ目印となる分子です。HLAには何万という種類があるため、全くの他人同士でHLAが適合する確率は非常に低いです。HLAが異なる者同士で移植を行ってしまうと、ドナーとレシピエント双方の免疫系がお互いを「他者」とみなして攻撃し合うため、免疫反応による合併症が生じ、移植がうまくいきません。

レシピエントの免疫系が移植片(造血幹細胞)を他者と見なして攻撃することで移植片が「拒絶」されてしまい、逆にドナーに由来するリンパ球がレシピエントの体を他者と見なして攻撃することで「移植片対宿主病(GVHD)」という合併症が生じます。

HLAは、主にクラスI分子(HLA-A、B、C)とクラスⅡ分子(HLA-DP、DQ、DR)に分類されますが、造血幹細胞移植ではこのうちA座、B座、C座、DR座を考慮することが大切です。ドナーとレシピエントのHLAを上手に適合させると、双方の免疫系をうまく「だます」ことが可能となり、移植後の免疫反応による合併症を抑えることができます。

ただし、造血幹細胞移植では、ドナー由来のリンパ球が、レシピエントの体の中に残った白血病細胞を攻撃してくれる「移植片対白血病(GVL)効果」が期待できるため、全く免疫反応が起きないのもよくありません。

どのようなドナーさんから造血幹細胞をご提供いただくか決める際には、上述したHLAのほか、移植までにかかる期間や入手できる確率など、さまざまな要因を考慮しなければならず、それぞれのメリット、デメリットをよく理解する必要があります。

ドナー選択の際には、下記に示すようなメリットが多いことから、HLAが適合している兄弟姉妹ドナーが最優先されます。(HLA適合血縁ドナー)

・移植までの期間が短い。

早ければ数週以内に移植を行うことができます。迅速性に優れていることから、患者さんにとってよいタイミングで移植を受けることができます。

・有害な免疫反応が少ない。

・移植後に再発してしまった際、同じドナーからリンパ球の追加提供を受けること(DLI)で、免疫反応による抗腫瘍効果(GVL効果)を狙うことが可能。

しかしながら、日本では少子高齢化の影響もあり、兄弟姉妹のなかからHLAが合致する方をみつけることが困難になっています。全ての同種造血幹細胞移植のうち、HLA適合血縁間移植の占める割合は3割程度であり、のこる7割は他の方法で移植を実施しています。

では、HLA適合血縁ドナーがいない場合、どのような選択肢があるのでしょうか。

HLA適合血縁ドナーの次に優先されるのは、骨髄バンクを介したHLA適合非血縁ドナー(HLA適合バンクドナー)です。

HLA検査技術の進歩により、HLA 8座(※)がぴったりと(遺伝子レベルで)適合したドナーを見つけることが可能になったこと、GVHD予防法の進歩などによって、移植後の成績はHLA適合血縁者に匹敵するものとなっています。

※A座、B座、C座、DR座はそれぞれ2座存在するため、合計で8座となります

カレンダー

しかしながら、骨髄バンクドナーからの移植の場合、移植まで時間がかかってしまうというデメリットがあります。具体的には、骨髄バンクの準備を始めてから実際に移植を受けるまで、数ヶ月※の時間を要してしまいます。というのも、骨髄バンクに登録されている方の中からドナーとなりうる候補者がみつかった場合、ドナー候補者の健康状態などの検査、ドナー候補者の意思を確認する面談(最終同意面談)、術前の健康診断など、多くのプロセスを経る必要があるからです。また兄弟姉妹であっても同様ですが、骨髄提供の前には、骨髄の採取に備えた複数回の自己血の採取と保存(貯血)が必要な場合があります。

そのため、移植を急ぐ患者さんにとっては、骨髄バンクの利用は不向きといえます。

※患者登録から移植までかかった日数の中央値は147日(2015年の集計)

たとえば白血病の患者さんで、化学療法(抗がん剤治療)などで期待する効果が得られず、白血病細胞が体のなかに数多く残ってしまっている場合は、数ヶ月待つことで病状が進行してしまうリスクが高いため、早期に造血幹細胞移植を行わなければなりません。また、たとえ白血病の病状が落ち着いていたとしても、移植を待つ間に白血病が再燃することがありますし、移植を待つ間に行っていた化学療法で合併症が生じてしまうこともあります。

そのように、病状の進行や再燃、合併症のリスクが高いと考えられる場合は、第3の選択肢である臍帯血移植もしくはハプロ移植(HLA半合致移植)の適応となります。

また、HLAには何万もの種類があるため、骨髄バンクの登録者のなかからドナーがみつからないこともあります。この場合も第3選択の2つの移植方法からいずれかを選択します。

※ハプロ移植(HLA半合致移植)については記事2『ハプロ移植とは-HLAが合致しない血縁者間の造血幹細胞移植が可能に』をご覧ください。

臍帯血とは、赤ちゃんのへその緒や胎盤のなかに含まれる血液のことで、その中には血液のモトとなる造血幹細胞が数多く含まれています。この臍帯血を用いた移植が臍帯血移植です。

ひとりの赤ちゃんから採取される臍帯血(1ユニット;1袋)は30 ml弱と少ないために、初期には小児の患者さんを中心として臍帯血移植が行われました。研究を進めるうちに、大人の患者さんにも充分な量であることが分かってきたのですが、それでも体の大きな患者さんには、1ユニットでは足りません。しかし日本人は欧米人に比べ体型が小柄であることから、1ユニットで十分な場合が多いのです。

また日本の保険制度によって、臍帯血移植にかかる自己負担額も諸外国に比べ多くはありません。

このような理由から、日本では臍帯血移植の実施件数が年々増えており、世界で行われている臍帯血移植のうち約3分の1を日本が占めるまでになっています。

移植に用いる臍帯血の量
ひとりの赤ちゃんから採取される臍帯血(このように少ない量からヒトの一生分の血液を作り出せる) 出典:Barker, Blood 117; 2332-9, 2011より修正 提供:栗田尚樹先生

臍帯血の採取は、赤ちゃんからもお母さんからも離れた後のへその緒や胎盤から行われます。そのため、血縁ドナーやバンクドナーから造血幹細胞を採取する場合とは異なり、ドナーへの負担が全くないという利点があります。

もうひとつの大きなメリットは、移植までにかかる期間が極めて短いということです。全国にあるさい帯血バンクに登録されている臍帯血は、すぐに使用できる状態で凍結保存されています。そのため、急いで移植を行う必要性が高い場合は、最短1週間程度で臍帯血の供給を受けることができます。

臍帯血移植の場合、ドナーとレシピエントのHLAが上記2つの移植方法ほどぴったり一致していなくても、重篤な免疫反応が起こりにくいのです。この理由は、臍帯血に含まれるリンパ球が未熟なためかもしれません。HLAがだいたい適合していればドナーとなれることは、移植に適した臍帯血がみつかりやすいという利点につながります。

また、移植後の慢性GVHDが起こりにくいということも、臍帯血移植のメリットです。

造血幹細胞移植では、レシピエントに存在した白血球が消え失せて数週間の白血球減少期間を経た後に、移植された造血幹細胞が造り出した白血球が徐々に増えてきます。白血球のなかの「好中球」という成分が一定の数に達した場合に「生着」と定義され、これは患者さんにとっても医療者にとっても嬉しく、かつ劇的な瞬間です。しかしドナーの造血幹細胞がレシピエントの骨髄にうまく根付かず、好中球がそのような数値まで回復しない場合もあり、これを「生着不全」といいます。

臍帯血移植の最大のデメリットは、移植後に血球や免疫の回復が遅れやすく、生着不全を起こす例が他の種類の移植より多いということです。臍帯血移植のうち1~2割に生着不全が生じると報告されています。また血小板の回復も、他の移植方法に比べて遅れます。

輸血

好中球が回復しない場合は、好中球減少期間が長引くことにより感染症が重篤になりやすく、生命が危険に晒されます。そのため急いで再移植を行わなければなりません。

血小板の回復が遅れる場合は、命に関わるような出血が生じたり、血小板輸血が必要な期間が長期化したりします。そのため入院期間が長引いたり、移植後のQOL(生活の質)が低下してしまいます。

いずれの場合も患者さんの心身への負担は増えてしまうため、さまざまな施設で血球の回復に関する研究が行われています。

血球の回復を早めるための研究は世界中で行われています。たとえば海外では、臍帯血に含まれる造血幹細胞を体外であらかじめ増やしてから移植する試みがなされ、優れた結果が報告されています。また、移植される前の臍帯血に対して、造血幹細胞が効率よく骨髄に留まるように処理をしてから移植する研究も行われています。

通常の臍帯血移植では、点滴と同じように、臍帯血を静脈内に投与します。しかし、この方法では移植した造血幹細胞のうち、骨髄へとたどり着く割合はわずか10~20%とされており、せっかく移植された残りの造血幹細胞は無駄になってしまいます。

そこで、患者さんにうつぶせの体位になっていただき、通常は静脈に投与する臍帯血を骨髄のなかに直接注入する臨床研究を筑波大学で行いました。

15例の患者さんに対して骨髄への注入を行った結果、通常の臍帯血移植に比べて血小板の回復が早まったという結果を論文発表しました。この手法により、移植後の輸血の離脱が早まり、入院期間の短縮も可能かもしれません。

前述の通り、臍帯血移植とその研究は日本がリードしている分野ですので、今後も引き続き、課題の克服に向けた研究を続けていく必要があります。

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