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インタビュー

ハプロ移植とは-HLAが合致しない血縁者間の造血幹細胞移植が可能に

ハプロ移植とは-HLAが合致しない血縁者間の造血幹細胞移植が可能に
栗田 尚樹 先生

筑波大学 医学医療系血液内科 講師

栗田 尚樹 先生

この記事の最終更新は2017年08月22日です。

造血幹細胞移植を安全に行なうために必須の条件は、移植を受けるレシピエントとドナーのHLAを適合させることであると考えられてきました。そのため、HLAが適合する兄弟姉妹や骨髄バンクドナーからの移植が受けられない場合、多くは臍帯血移植が行われてきました。しかし近年、HLAが完全には合致しない「ハプロ移植(HLA半合致移植)」の実施件数が世界的に増えてきています。患者さんの親御さんやお子さんでもドナーとなることもできるハプロ移植とは、どのような移植方法なのでしょうか。また、HLAが異なる場合に起こる免疫反応を抑えるために、世界ではどのような研究が進められているのでしょうか。筑波大学附属病院血液内科講師の栗田尚樹先生にお伺いしました。

造血幹細胞移植のドナー選択は移植成績を左右するため、それぞれのメリット・デメリットや優先順位を十分に理解することが大切です。ドナーの優先順位は、まずHLAが合致する兄弟姉妹、続いてHLAが合致する骨髄バンクドナーであり、これらの適応とならない場合に(記事1『造血幹細胞移植のドナー選択-それぞれのメリット・デメリットと優先順位』参照)臍帯血移植もしくはハプロ移植のいずれかを選択します。

日本では、保険制度や体格などの理由から臍帯血移植の実施件数が年々増加していますが、世界的にはハプロ移植のほうがより盛んに行われるようになってきました。

ハプロ移植は、別名「HLA半合致移植」といい、その名の通り、HLAが片方(4座)合致するドナーの移植片を用いる移植方法を指します。

HLAが全て合致する確率は兄弟間の25%のみでしたが、これと比べればハプロ移植のドナーとなりうる血縁者は多いため、ドナーが非常にみつけやすいことがハプロ移植の最大のメリットであるといえます。

また、HLA適合血縁者間移植と同様に移植までの期間が短いこと、万が一再発したときにはDLI(ドナーリンパ球輸注)ができることも、ハプロ移植のメリットとして挙げられます。

ハプロ移植のデメリットは、HLA適合ドナーの移植片を用いる場合に比べ、免疫反応が強く出る危険があることです。HLAは免疫系が自己と他者を区別する目印となるため、半合致の場合は、ドナーとレシピエント間の免疫のぶつかり合いが起こりやすくなるのです。

【HLAが異なることで強く起こる免疫反応】

  • 拒絶:レシピエントの免疫系が、ドナーの移植片を他者と見なして攻撃した結果、生じる合併症。
  • GVHD:ドナー由来のリンパ球が、レシピエントの体を他者と見なして攻撃することから生じる合併症。

HLAが完全に合致しているわけではないハプロ移植では、他の移植方法とは異なる特殊な戦略に用いて、上記の免疫反応を抑制していく必要があります。

戦略のひとつとして、ドナーの移植片から、免疫を司るリンパ球を除去するという方法が挙げられます。しかし、リンパ球が減ってしまうと、ウイルスなどの外敵に対する抵抗力や、GVL効果(記事1『造血幹細胞移植のドナー選択-それぞれのメリット・デメリットと優先順位』参照)も弱まるため、移植後の感染症や、血液疾患の再発のリスクが高まる可能性があります。

ATG(抗ヒト胸腺細胞グロブリン)やCD52抗体といった薬剤を投与することで、患者さんの体内に移植されたリンパ球を除去するという方法も一定の成果をあげています。また、ステロイドを用いて、免疫を強力に抑制することによりGVHDを予防する方法も行われています。

先述の通り、ハプロ移植は免疫反応が強く出やすい移植方法です。しかし、この性質を逆手にとって、患者さんの体内に残った白血病細胞を、移植片由来のリンパ球の攻撃により除去する(つまり、強いGVL効果を得る)目的でハプロ移植が行われることもあります。

ハプロ移植のもうひとつの目的は、ドナーとなり得る候補者を増やすこと(ドナープールの拡大)です。ドナープールが拡大すれば、より多くの患者さんに移植の機会をご提供することができます。

このような目的でハプロ移植を行なう場合は、ATGやCD52抗体などの薬剤で免疫を強力に抑制することで、GVHDもGVL効果も他の移植方法と同程度にまで抑えます。

現在、筑波大学ではドナープールの拡大を目的としたハプロ移植を安全に行うために、移植直後に抗がん剤のひとつ「シクロフォスファミド」を大量投与する研究を進めています。

ATGやCD52抗体などを用いる最大のデメリットは、体にとって必要なリンパ球まで除去されてしまうことです。これに対して、シクロフォスファミドを移植直後に大量投与する方法は、レシピエントにとって有害なリンパ球のみ「選択的に」除去することができると考えられています。

シクロフォスファミドなどの薬剤は、増殖が盛んな細胞(がん細胞など)に強く作用します。ドナーさんの移植片に含まれるリンパ球がレシピエントに移植されると、レシピエントの体に強く反応する(GVHDを起こしうる)リンパ球は活性化し、増殖し始めます。シクロフォスファミドは、このようなリンパ球を選択的に除くことができるのです。一方で、レシピエントの体に反応しないリンパ球への作用は弱いため、これらのリンパ球が生き残ることで、感染症などに対する免疫として働いてくれることが期待できます。

移植した後に抗がん剤(シクロフォスファミド)を投与することで、移植片に含まれる造血幹細胞への影響を心配されるかもしれません。しかし、造血幹細胞にはシクロフォスファミドが作用しにくいような仕組みが備わっているため、臨床的に問題となるような影響はありません。

現在、日本では300例以上のハプロ移植でこの手法が用いられており、当院でも30名以上の方に実施しています。

シクロフォスファミドを用いたハプロ移植の成績は、従来のHLA適合者間移植にも匹敵するというデータが、欧米を中心に多数報告されています。私たちの経験でも、GVHDと拒絶を共に抑えることができており、特に重篤な急性GVHDや、慢性GVHDを抑える効果は高いと感じています。ですが、長期的な成績は今後も注意深く観察する必要があります。

体にとって有害なリンパ球を選択的に除去するシクロフォスファミドを用いることで、ATGやCD52抗体を用いた場合に比べ、感染症全般にかかるリスクは少ない傾向です。

しかし、シクロフォスファミドを用いた場合でも、出血性膀胱炎サイトメガロウイルス感染症など、一部のウイルス感染症には依然として感染しやすいという報告もあります。適切な感染症の予防法に関して、治療に改良を加えていく余地があります。

シクロフォスファミドは、がんに対する治療薬として古くから用いられている薬剤です。造血幹細胞移植の前処置にも一般的に用いられ、移植前の使用については保険適用があります。

しかし「移植後」にシクロフォスファミドを用いることは日本の保険制度上認められていないため、現時点では臨床試験として行わざるを得ません。シクロフォスファミドの適用を拡大するためには、医師が中心となって臨床試験を重ね、日本独自のエビデンスを作り上げていくことが肝要です。現在、北海道大学のグループが中心となり、日本の移植施設が一丸となってシクロフォスファミドの適応拡大に向けた研究を行っています。

冒頭で、ドナーの第3選択は主に臍帯血移植とハプロ移植であると述べました。どちらの方法の移植成績が優れているのかを直接的に示すデータは現時点ではありませんが、この2つの方法を比較する前向き研究がアメリカで進められています。今後、移植後の長期生存や合併症頻度の差などが明らかになっていけば、造血幹細胞移植の治療もさらに前進していくものと思われます。

世界最多件数の臍帯血移植が行われている日本においては、患者さんやドナーさんの病状や希望に応じて、それぞれが相互に補完的な役割を果たすようになるのではないかと期待しています。

ドナー

ここまで、2記事にわたり、各ドナーの特徴と優先順位について解説してきましたが、実際の医療現場で最も尊重されるべきは、ドナー候補者の方の意思と安全性であるということを、私たち移植医は忘れてはいけません。

造血幹細胞は増殖する能力が高いため、一度採取されてもドナーさんの骨髄は元の状態に回復します。しかし、痛みを伴う処置や、種々の薬剤の投与を行なうため、ドナーの方の健康に与えるリスクはゼロではありません。

造血幹細胞移植を行なう際の大原則は、ドナーとレシピエントをわけて考えるということです。筑波大学でも、ドナー候補者の方がご自身の意思を表明しやすいよう、レシピエントの担当医とは異なる医師が担当して診療にあたっています。

今後、ハプロ移植の普及などに伴いドナーになり得る方が増えたとしても、候補者の方の意思を最大限尊重したうえでドナーを選択するという大前提が変わることはありません。

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