新生児仮死から脳性麻痺を防ぐためには、さまざまな治療が試みられてきました。この治療に尽力されている倉敷中央病院総合周産期母子医療センター長の渡部晋一先生に、新生児仮死から脳性麻痺を防ぐ治療の変遷についてお話をうかがいました。
新生児仮死から脳性麻痺を防ぐために、マグネシウム、アロプリノール、エリスロポエチン、低体温療法などいろいろな治療法が考えられていましたが、特にこの中で有効と考えられていたのは低体温療法です。
低体温療法は8人~9人に1人くらいのお子さんに効果があります。これは今までの治療法と比較すると決して悪い数字ではないのですが、いくつかの課題がありました。
ひとつは、低体温療法は治療時間が決まっていることです。少なくとも出産直後6時間以内に治療を開始する必要があります。早ければ早いほど効果があります。しかし低体温療法が可能な施設でなければ治療を開始できないこともあります。
もうひとつは、対象となる新生児仮死のお子さんが限られているということです。肺出血や頭蓋内出血が起きている場合、この治療は行ってはならないとされています。低体温療法においては凝固時間が伸びてしまうため、出血をしている子どもには向いていないとされていたからです。そのような子どもたちは低体温療法ができず、経過を見守るしかありませんでした。
「どうにかして低体温療法ができない子どもたちに治療をしてあげられないか?」そのようにして考えられたのが、次にご説明する「造血幹細胞移植」です。
幹細胞は様々な細胞に分裂・分化することのできるいわば「元になる細胞」です。障害を受けた脳に対して幹細胞を移植することができれば神経細胞を再生することができるのではないかと考えられてきました。
さらに、幹細胞をどうやって移植するのかという点については、さまざまな方法が考えられてきました。点滴でES細胞(胚性幹細胞、全身の細胞に分化していくことができる)を入れたらどうなのか、神経細胞に分化していく神経幹細胞を入れたらどうなのか。しかし、いずれも期待されたほどの効果が出ないという結果に至りました。
しかしその中で唯一、臍帯血の中に多く含まれる赤血球、白血球、血小板といった血液細胞を作り出す造血幹細胞が効果を発揮するのではないかということが明らかになってきました。
新生児仮死が起こると、そこから発生した虚血性脳症を修復するために造血幹細胞がどんどん消費されることが分かってきました。このとき、修復に使うために造血幹細胞が減っているにもかかわらず、新たに補充されない状態となります。つまり、火事が起きていることがわかっているのにそれを消し止められないような状態です。
赤ちゃん自身もなんとかしようとしているために造血幹細胞が足りなくなっているのです。それならば、それを補っていけばよいという発想が出てきました。
造血幹細胞は血液を作る元となる細胞であり、脳に入って直接神経に作用するわけではありません。それでは、なぜ造血幹細胞に脳性麻痺を防ぐ効果があるのでしょうか。
新生児仮死による虚血性脳症(脳に血液がいかなくなってしまうこと)により、脳はいわば「破壊された荒れ地」のようになっています。その荒れ地を修復するためには水や肥料が必要です。虚血してしまった脳(荒れ地)に対しての水や肥料とは血液のことです。造血幹細胞は、そこに血液を運ぶ役割になるだろうという働きが期待されているのです。
そのため、新生児仮死に対して造血幹細胞を移植し、脳性麻痺を防ぐための治療をしていこうという発想になりました。造血幹細胞移植にはいくつかの種類があります。末梢血幹細胞移植という方法もありますが、その中の造血幹細胞はものすごく少量です。圧倒的に多いのは臍帯血(いわゆるへその緒の血液)です。いわば自分の血液を戻すだけの治療が有効なのです。
さまざまなハードルを超えて、とうとう2015年4月28日、倉敷中央病院で日本初の新生児仮死の子どもに対する脳性麻痺を防ぐことを目的とする臍帯血移植が行われました。
次の記事では、この脳性麻痺を防ぐための臍帯血移植について具体的に説明していきます。
倉敷中央病院 前総合周産期母子医療センター長
日本小児科学会 小児科専門医
山口大学医学部を卒業後、広島大学小児科医局に入局。さまざまな施設でNICU、新生児医療の研鑽を積み、現在は倉敷中央病院総合周産期母子医療センター主任部長を務める。NICUに入った子どもを後遺症なく生存させる「インタクトサバイバル」を目指しており、その中でも特に脳性麻痺への治療の発展に尽力。2015年4月、日本初の低酸素性虚血性脳症の子どもへの臍帯血移植を実施。
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