2015年、倉敷中央病院で日本初の新生児仮死の子どもに対する脳性麻痺を防ぐことを目的とする臍帯血移植が行われました。この移植を行った倉敷中央病院総合周産期母子医療センター長の渡部晋一先生に、新生児仮死から脳性麻痺を防ぐ治療の変遷について引き続きお話をうかがいました。
まず、臍帯血移植とはどのようなものかについて簡単に説明します。臍帯血とは、妊娠中のお母さんと赤ちゃんを結ぶ臍帯(いわゆるへその緒)と、胎盤の中に含まれる血液をいいます。
以前は、出産を終えた後に臍帯血と胎盤は捨てられていました。しかしその後の研究により、臍帯血の中には、赤血球、白血球、血小板といった血液細胞を作り出す造血幹細胞がたくさん含まれていることがわかりました。この臍帯血を白血病や再生不良性貧血などの血液の病気などに使うことを、「臍帯血移植」といいます。これは造血幹細胞移植の一種です。
具体的には、出産の際に臍帯血を迅速かつ無菌状態で採取した後、摂氏マイナス196度という超低温で保存しておきます。血液の病気で臍帯血移植を希望する場合には、適合する臍帯血を検索した後、患者さんに移植が行われます。移植前処置をした患者さんのいる病院に臍帯血を冷凍のまま搬入し、解凍して患者さんの静脈に注射します。移植した臍帯血が安定して血液を作り出せれば、移植は成功です。
一方で、脳性麻痺に対する臍帯血移植は「赤ちゃんが産まれた直後にとった臍帯血を赤ちゃん自身の静脈に注射をする」という方法で行われます。そのため、超低温保存ではなく冷所保存により臍帯血移植が行われます。
2015年4月28日、新生児仮死の子どもに対して日本で初めて脳性麻痺を防ぐための臍帯血移植が実施されました。これの効果がどのように出るかはまだまだ分かりません。ただ、諸外国の研究では、神経学的予後はよくなる(運動麻痺などが軽減される)のではないかという結果が出ています。
日本最初の治療においては、現在のところ退院時の脳のMRI画像や脳波上では特に問題ないことが分かっています。しかし、発達については退院した後の経過をみないと分かりません。本当に治療に効果があったのか分かるのはこれからです。
現在この治療が可能な病院は倉敷中央病院のほか、大阪市立大学、大阪市立総合医療センター、埼玉医科大学総合医療センター、名古屋大学、淀川キリスト病院、の6つです。
さらに、「在胎34週以上かつ帝王切開で生まれて院内出生」した赤ちゃんのみを対象とするという厳しい基準があります。
帝王切開でなければいけない理由は、臍帯血を清潔な状態で採取する必要があるからです。臍帯血移植においては感染症が最大の問題点となりますが、経膣分娩で生まれるとどうしても不潔になる可能性があるのです。この臍帯血移植においては「冷所保存」という方法がとられます。冷凍するわけではありません。冷所保存の場合、細菌の侵入があると増殖してしまう恐れがあるからです。
院内出生というのは、上記の6施設で産まれた子どものみが対象になるということです。臍帯血を清潔にとるためには産婦人科医師がトレーニングを積まなくてはいけません。上記の6施設は、そのようなトレーニングが積まれ、なおかつ新生児科医師との連携がとれている施設です。つまり、この病院以外で産まれた子どもは現在のところこの治療の対象にはなりません。
この治療はまだ最初の一歩を踏み出したところです。さまざまな課題があります。しかし、新生児仮死から脳性麻痺を少しでも防ぐための大きな一歩になるはずです。治療効果やデメリットも慎重に検討しながら、治療ができる施設をどんどん増やしていく必要があります。さらに、「造血幹細胞移植による治療―新生児仮死による脳性麻痺を防ぐために(1)」で説明した低体温療法を組み合わせつつ、臍帯血移植は進歩していくと考えます。
倉敷中央病院 前総合周産期母子医療センター長
日本小児科学会 小児科専門医
山口大学医学部を卒業後、広島大学小児科医局に入局。さまざまな施設でNICU、新生児医療の研鑽を積み、現在は倉敷中央病院総合周産期母子医療センター主任部長を務める。NICUに入った子どもを後遺症なく生存させる「インタクトサバイバル」を目指しており、その中でも特に脳性麻痺への治療の発展に尽力。2015年4月、日本初の低酸素性虚血性脳症の子どもへの臍帯血移植を実施。
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