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インタビュー

子どもの悪性リンパ腫とは? リンパの腫れなどの症状がみられる小児がんのひとつ

子どもの悪性リンパ腫とは? リンパの腫れなどの症状がみられる小児がんのひとつ
三井 哲夫 先生

山形大学 医学部小児科学講座 教授

三井 哲夫 先生

この記事の最終更新は2017年07月11日です。

悪性リンパ腫とは、リンパ組織の細胞ががん化することで生じる疾患です。その原因は未だ不明であり、全身のいたるところで発症し症状が多岐にわたる点が大きな特徴です。また、小児に発生する悪性リンパ腫である小児リンパ腫は、小児がんのなかで白血病脳腫瘍に次いで3番目に頻度の高い疾患であり、小児若年者にとって重大な疾患といえます。

今回は、山形大学医学部附属病院の三井 哲夫先生に悪性リンパ腫の種類や症状から、成人と小児の悪性リンパ腫の違いまでお話しいただきました。

悪性リンパ腫とは、リンパ組織の細胞ががん化することで生じる疾患を指します。悪性リンパ腫の原因など発症機序は未だ不明ですが、リンパ組織の細胞がその分化過程において、抗原受容体や細胞増殖関連因子に異常を来し、その異常からがん化へと進行し発症すると考えられています。

また、ウイルス感染症が関係するケースがあることや、免疫不全者に発症頻度が多いこともわかっています。

悪性リンパ腫が発生する部位は、リンパ系組織とリンパ外臓器(節外臓器)の2つに大きく分けられます。

リンパ系組織とは、細菌やウイルスなどの病原体を排除する役割を担う免疫機能を有する組織や臓器のことを指し、リンパ節や胸部付近にある胸腺(きょうせん)、脾臓(ひぞう)、扁桃(へんとう)などの総称です。一方、リンパ外臓器(節外臓器)とは、骨髄、肺などの臓器を指します。

このうちリンパ系の組織や臓器は全身にあるため、悪性リンパ腫は全身のいたるところで発生する可能性があります。

悪性リンパ腫は病理組織によって行う治療が異なるため、いくつかの病型に分類されています。同一の治療を行う分類として、成熟B細胞性リンパ腫(バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)、リンパ芽球性リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、ホジキンリンパ腫(古典的ホジキンリンパ腫、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫)と大きく4つの病型群に分けられ、発生頻度も概ねこの順番になっています。この4つの病型のうちホジキンリンパ腫以外の3つを非ホジキンリンパ腫と総称しています。

成熟B細胞性リンパ腫のなかで多くを占めるバーキットリンパ腫は、その増殖スピードが速いことに加え、リンパ節外病変からも発症するケースがある点が特徴です。具体的には、腹部腫瘤と腹水で発症する症例が多いですが、他にも喉の扁桃、首のリンパ節、副鼻腔、皮膚、骨髄、骨、中枢神経、性腺等から発症することがあります。腹部の腸間膜リンパ節が原因で起こった腸重積で発症した症例もあります。

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫はバーキットリンパ腫に似ていますが、骨髄や中枢神経への浸潤(しんじゅん:広がること)頻度が少ない点が特徴です。

リンパ芽球性リンパ腫はT前駆細胞性のものとB前駆細胞性のものに分けられます。リンパ芽球性リンパ腫全体の2/3程度を占めるT前駆細胞性は、縦隔腫瘤(心臓、食道、胸腺、リンパ節、大血管、気管、神経節など縦隔内の臓器周辺に発生する腫瘍の総称)で発症することが多く、呼吸困難や胸水など、発症初期に重篤な状態になるケースがあります。

リンパ芽球性リンパ腫は骨髄浸潤が少ない点に加え、局所での再発が多い等の特徴があります。

未分化大細胞型リンパ腫は、成熟B細胞やリンパ芽球性リンパ腫と比較すると、その進行は比較的緩やかであり、進行期で発見されることが多い病型です。また、ホジキンリンパ腫で多く見られる発熱、体重減少、寝汗などB症状と呼ばれる全身症状を伴うこともあります。

発生部位は縦隔、消化管、骨、皮膚、肝、腎、リンパ節と多岐にわたりますが、骨髄や中枢神経への浸潤は少ない点が特徴です。

ホジキンリンパ腫は、主にCD30という表面抗原(細胞表面に発現する糖タンパクなどでできた分子)が陽性の古典的ホジキンリンパ腫と、CD30が陰性の結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫に分けられます。

結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫は、ホジキンリンパ腫全体の10%弱で、多くは古典的ホジキンリンパ腫が占めます。必ず現れるわけでもないですが、お話ししたような発熱、体重減少、寝汗などのB症状(全身症状)を伴うこともある点が特徴でしょう。

また、リンパ節病変から発症することが多く、この場合には腫瘍による局所の圧迫により症状が現れます。たとえば、肝臓で胆管の閉塞が生じれば黄疸(おうだん)がみられますし、四肢のリンパ管閉塞に伴う浮腫(ふしゅ:むくみ)や気道の圧迫に伴う呼吸困難といった症状です。

他にもリンパ腫のなかでは割合が少ないですが、末梢性T細胞性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞性リンパ腫といった稀なタイプもあります。これらはその頻度が低いために、子どもでは未だその病態が十分にはわかっていません。

お話ししたように、悪性リンパ腫は全身のあらゆる部位に起こり得ますが、組織型により起こりやすい場所、また増殖速度が異なることから症状はさまざまです。痛みのないリンパ節の腫れ、原因が明らかでない発熱、寝汗、体重減少などはリンパ腫を疑う症状であるでしょう。

また、先に述べたように腫瘤(しゅりゅう)により気道や血管、脊髄(せきずい)などの臓器が圧迫されることで、呼吸困難(気道閉塞)や四肢や顔面の浮腫、麻痺(まひ)などの症状が現れることがあります。

小児の悪性リンパ腫である小児リンパ腫は、小児がんのなかで白血病脳腫瘍に次いで3番目に頻度の高い疾患(2017年現在)であり、小児若年者にとっては重大な疾患といえます。

診察を受ける子ども

日本では、小児リンパ腫の患者さんの約80%が非ホジキンリンパ腫であり、20%弱がホジキンリンパ腫です。このため日本では、悪性リンパ腫というと、非ホジキンリンパ腫を指すことが多いようです。

発症の年代は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫ともに、10代でその頻度が増し、10代後半で特に増加することがわかっています。ホジキンリンパ腫では、15〜19歳の若年層で発症のピークがみられます。一方、乳児期の発症はどちらも非常に稀なことが明らかになっています。

男女比は、非ホジキンリンパ腫では2.5:1と男児に多いことがわかっていますが、ホジキンリンパ腫では男女差はほぼありません。

日本における年間の発症数自体は非ホジキンリンパ腫で100例余り、ホジキンリンパ腫で20例前後と決して多いものではありません。

日本における小児リンパ腫の発症数

 

2010

2011

2012

2013

2014

非ホジキンリンパ腫

113

109

101

105

108

ホジキンリンパ腫

32

22

16

17

20

(小児血液がん学会疾患登録より)

小児の悪性リンパ腫の発症数は年により多少の増減はあるものの、近年ほぼ横ばいです。一方、全国で小児人口は急速に減少しています。このようななかで、発症数が横ばいということは、疾患自体は増加していることを意味しています。

臨床研究のための体制が整い、疫学登録や診断の精度が増しているという可能性もありますが、それを考慮しても人口減に伴い症例数は減少してくるはずです。

発症率増加の理由は定かではありませんが、非常に重大なことで、今後明らかにすべき問題です。

小児と成人の悪性リンパ腫の大きな違いの一つは、発症数です。日本では成人の悪性リンパ腫は年間1万例前後発症していますが、小児は120〜150例ほどです。

また、小児の悪性リンパ腫は、細胞回転が速い性質(悪性度が高い一方で抗がん剤が効果的)を有するものが多いといわれています。一方、成人の場合、低悪性度(進行が遅い一方で薬が効きにくい組織型)と呼ばれるものがその多くを占めます。

治療予後においても、成人と比較して小児リンパ腫は比較的予後が良好です。

大人と子ども

たとえば、小児は、非ホジキンリンパ腫である成熟B細胞リンパ腫やリンパ芽球性リンパ腫では、ステージⅠ・Ⅱと呼ばれる初期の限局性の病変の場合には5年無病生存率は95〜100%にまで達し、ステージⅢ・Ⅳの進行期の場合であっても80%前後まで改善しています。小児のホジキンリンパ腫も、日本における10年EFS(無イベント生存期間:再発や病状の悪化、合併症などがなく生存している期間)は80.2%となっています。この予後の違いも小児と成人の悪性リンパ腫の大きな相違点でしょう。

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