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ハプロ移植とは? その特徴と白血病治療における移植の歴史

ハプロ移植とは? その特徴と白血病治療における移植の歴史
小川 啓恭 先生

大阪暁明館病院 血液内科部長

小川 啓恭 先生

目次
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白血病の治療の最終手段である同種造血幹細胞移植を実施するには、HLA(白血球の血液型)が一致するドナーを見つける必要があります。もし、HLAが一致するドナーが見つからない場合には骨髄バンクに登録してドナーを探す必要があり、時間がかかるというデメリットがあります。このような状況において、近年ではHLAが半分合致しているドナーからの“ハプロ移植”が行われるようになりました。

今回は、大阪暁明館病院 血液内科部長の小川 啓恭(おがわ ひろやす)先生に、ハプロ移植の特徴と、白血病治療における移植の歴史についてお話を伺いました。

ハプロ移植(HLA半合致同種造血幹細胞移植)は、血縁者の間でHLAが半分適合したドナーから移植を行う方法です。

親子間でHLAが半分合致する確率は100%、兄弟姉妹では50%です。このようにハプロ移植は、血縁者での移植の可能性が広がることがメリットといえます。また、骨髄バンクのように長いコーディネート期間(患者さんが登録してから移植が実施されるまでの期間)の必要がないうえ、ドナーが血縁者であれば協力を得られやすく、治療までの時間が短縮できるというメリットがあります。ただし、HLAが半分合致していても、ドナーの健康状態(血圧や病気など)や高年齢、および骨髄提供の同意が得られないなどの理由で移植できない場合があります。

ハプロ移植では、HLAが完全に合致するドナーからの移植に比べて、高いGVL効果(移植片対白血病効果:ドナーのリンパ球ががん細胞を異物と認識し、攻撃する効果)が期待できます。一方で、移植片対宿主病(GVHD)*が起こるリスクが高いというデメリットがあります。GVHDが起こると、下痢や黄疸(おうだん)が出たり、皮膚が赤くなったり、ひどくなるとやけどのような状態になります。GVHDが重症化すると命に関わることがあるため、ハプロ移植ではGVHD予防が重要になります。

*移植片対宿主病(GVHD):造血幹細胞と共に体内に入ったリンパ球が、体そのものを異物とみなして攻撃する免疫反応のこと。

前のページでご説明したように、造血幹細胞移植にはいくつかの種類があり、これまでにさまざまな変遷をたどってきました。

1960年代までに、放射線事故や白血病に対して骨髄移植がなされましたが、GVHDや生着不全*によって、その多くは失敗に終わりました。しかしその後、HLAの研究が進み、HLAが適合したドナーからの移植、移植方法の改良や有効な免疫抑制剤の開発によって、少しずつ安定した移植が行われるようになりました。当時は、移植の前処置に用いる全身放射線照射や大量の抗がん剤が白血病細胞を駆逐し、ドナーからの骨髄細胞の移植は、主に移植後の造血能を保持していると考えられていました。

しかし、その後の研究で、骨髄移植の際、幹細胞と共に移植されるドナー由来のリンパ球がはたらいて患者さんの白血病細胞を攻撃するGVL効果の存在が明らかになり、同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)には、前処置による白血病細胞の破壊に加えて、免疫療法の側面があることが判明しました。現在では、GVL効果によって移植後の再発を防ぐという考え方が主流になり、同種骨髄移植はドナーの免疫の力による免疫療法として位置付けられています。

GVL効果の発見によって、移植前処置に大量化学療法や致死的な全身放射線治療をせずとも、患者さんの免疫能を一時的に弱める移植前処置をするだけでドナー由来の生着が得られ、十分なGVL効果を得られる可能性があることが分かってきました。以前の移植前処置の方法を、フル移植(強力な移植前処置によって骨髄機能を完全に抑えてから行う移植)に対して、弱い前処置による移植を“ミニ移植”と呼びます。

ドナー由来の免疫細胞が白血病細胞を攻撃するGVL効果と、患者さんの体を異物と認識して攻撃するGVHD、この2つのバランスが同種移植を行う際の重要なポイントとなるのです。

同種移植は難治性の白血病などに対して治癒の可能性をもたらしますが、ドナーとの間でHLAが一致する確率は兄弟姉妹でも1/4であり、日本では少子化の影響もあるため、HLA適合の血縁ドナーは2〜3割ほどの患者さんにしか見つからないという現状があります。そのような場合、骨髄バンクでドナーを探すことは可能ですが、HLA適合ドナーが見つからない、コーディネート期間が長くかかるといったデメリットがあり、待機中に病状が進行して移植の機会を逃してしまうケースもあるのです。

このような流れのなかで、近年、血縁者の間でHLAが半分適合するドナーから移植できるハプロ移植が考案されました。HLAが半分適合するドナーであれば、9割ほどの患者さんに見つかります。しかし、HLAの適合度が低いことからGVHDや生着不全などが強く起こるリスクが生じるため、移植方法や免疫抑制剤を工夫し、GVHDを予防する必要があります。

*生着不全:患者さんの免疫細胞がドナーから移植された造血幹細胞を異物として判断し、攻撃することで生着を妨げられること。

ハプロのイラスト

ハプロ移植の方法にはいくつか種類があります。世界で行われてきたハプロ移植について紹介します。

ハプロ移植は、HLA適合度が低いため、GVHDのリスクが高いことが課題と認識されています。そこで、イタリアの研究グループは、移植する骨髄からGVHDの要因となるドナーのT細胞(免疫反応の司令塔を担う細胞)を徹底的に除いたうえで移植する“T細胞除去移植”を考案しました。しかし、T細胞を除去するための機器や多大な人的労力を必要とするため普及に至りませんでした。

中国では、一人っ子政策の影響でHLA適合同胞を得られにくいという背景があり、ハプロ移植が発展してきました。骨髄からT細胞を除くのではなく、移植した後、ATG(抗ヒトT細胞グロブリン)を投与して、患者さんの体内でT細胞を除く移植法です。ATGとは、ヒトのT細胞動物(主にウマやウサギ)に免疫して得られる血清から作製した抗体です。この移植法は、中国、韓国を中心に数多くなされています。

アメリカで始まった“post Cy(PTCy)移植”は、通常は移植の前処置に用いるシクロホスファミド(Cy)という抗がん剤を移植直後に投与することで生着率を高め、同時にドナーのリンパ球のはたらきを障害し、重症のGVHDを防ぐ方法です。欧米では急速に広がり、現在は日本でも数多くの臨床研究が行われています。

これまでに挙げた3つのハプロ移植は、ドナーのT細胞を攻撃し、それを削減することでGVHDを抑えるため、GVL効果は高くないと考えられます。その結果、移植前に寛解でない患者さんにおいては、再発しやすいというデメリットがあります。そこで私は、低用量ATGとステロイド剤を用いる“兵庫医科大学型ハプロ移植(兵庫医大方式)”を考案しました。

ステロイド剤を使用する理由は、GVHDを予防しつつ、GVL効果には影響を与えないと考えられるからです。移植前処置を行うと、サイトカインという炎症物質が患者さんの正常組織から多く産生されます。それに加えて白血病細胞が壊れる際にもサイトカインが出ます。このサイトカインの産生は、GVHDのリスクを格段に増加させます。一方、GVL効果はステロイド剤による影響をあまり受けないようです。そこで、移植後早期にステロイド剤を使用して、サイトカインを抑えながらGVL効果を維持するのです。

兵庫医科大学型ハプロ移植は、非寛解の造血器腫瘍(ぞうけつきしゅよう)(白血病、リンパ腫など)に対しても効果が得られる可能性があります。新しい治療法のため、現在はデータを蓄積するべく治療成績の統計解析を進めているところです(2020年1月時点)。

患者さんの中には、薬が効かなくなった非寛解の状態でほかに治療法がないと診断され、主治医に「ホスピスで緩和ケアを受けましょう」と言われる方がいらっしゃるようです。しかし、兵庫医大方式のハプロ移植によって、治癒が得られる可能性があります。

私は、寛解が難しいと診断された患者さんに対しても、治癒の可能性を探り、1人でも多くの患者さんを助けたいという思いで、これまで白血病の治療と研究に力を注いできました。抗がん剤が効かなかった方や移植後に再発してしまった方でも、決して諦めないでください。白血病治療について気になることがある方、ハプロ移植など新たな治療法に関してご興味のある方は、ぜひご相談いただければと思います。

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